長期に売れないセダンマーケットはナゼ?
メーカーの開発者から、「セダンがサッパリ売れない」という声を聞くようになって、早くも10年くらいが経過する。日本自動車販売協会連合会が集計する毎月の登録台数を見ても、上位を占めるのはミニバンやコンパクトカーばかり。加えて全高が1550mmを超える背の高い軽自動車も売れ筋だ。今の国内市場の比率は、軽自動車が40%近くを占め、コンパクトカーは20%、ミニバンは15%前後になる。セダンは10%少々。以前は国内販売の柱だったセダンが、確かに今はサッパリ売れていない。
セダンの売れ行きに陰りが見え始めたのは1990年頃。バブル経済の崩壊と重なるが、理由はそれだけではない。1989年の消費税導入に伴い、自動車税制も大きく変わった。卸売価格に課税された物品税の廃止で3ナンバー車の価格が大幅に下がり、一気に年額8万1500円に達した自動車税も、排気量に応じた段階的な課税に改められた。この税制の変更を切っ掛けに、3ナンバーセダンが急増している。
ボディ拡大が売れない理由?
単にサイズを拡大しただけならまだ良かったが、問題は海外向けのモデルと共通化したこと。メーカーは、「3ナンバーサイズのセダンが増えれば日本のユーザーは豪華になったと喜び、海外向けの車両と共通化を図れば、開発も合理的に行えて好都合」と考えた。80年代から各メーカーとも海外に生産拠点を設け、北米を中心に売り上げを伸ばしていたから、海外モデルとの共通化はオイシイ話だった。
ところが3ナンバー化されると、セダンはもちろん、クーペの売れ行きも伸び悩み、国内販売は90年の778万台をピークに下降を開始した。ボディの3ナンバー化も、販売下落の要因ではあっただろう。今もそうだが、日本の道路環境は80年頃と大して変わっていない。住宅地に入れば道幅は狭く、3ナンバー車は取りまわし性で不利だ。「最近のセダンは運転がしにくくなった」という声も多く聞かれた。
売れないから海外モデルを日本仕様に、さらに売れない要因に
ただし、セダンが売れなくなった理由は、ボディの拡大だけではない。これを含む話として、「海外の顧客に向けて造ったクルマを国内市場に導入したこと」が最大の敗因。日本を副次的な市場に位置付けた結果、売れ行きを落とした。
クルマには外観や内装のデザイン、運転姿勢やシートの座り心地、さらに運転感覚まで、五感に訴える要素が多い。だからこそクルマは多くの人達を引きつけ、同時にユーザーは、誰に向けて開発されたかまで鋭敏に感じ取る。海外を向いて開発されたクルマには感覚的なズレが生じ、販売は落ち込む。「セダンが売れなくなった」のではなく、メーカーの視線が海外を向いたことで、「セダンを売れなくした」のだ。
このことは、先に触れた国内販売の現状を見れば明らかだろう。40%近くを占める軽自動車は、海外で売られることも稀にあるが、基本的に国内専売となる。ミニバンも、プレマシーやプリウスαなどの一部車種を除けば国内だけで売られる。コンパクトカーは海外でも販売されるが、セダンのように国内比率が10%を下まわる車種はない。国内市場も見据えて開発されている。
日本専用車がセダンマーケットを救う?
軽自動車/コンパクトカー/ミニバンが売れ筋になる現状を、メーカーの関係者まで「クルマの白物家電化」と表現することがあるが、とんでもない誤解だ。今、自宅で使っている冷蔵庫のメーカーを知らなくても、10年前に乗っていた軽トラックの車名は覚えている。クルマはジャンルが何であれ、ドライバーは一体感を抱き、白物家電にはなり得ない。軽自動車/コンパクトカー/ミニバンが好調に売れる一番の理由は、日本人の生活を見据えて開発され、その気持ちがユーザーに伝わって共感を呼んでいるからだ。
従って、現状を嘆くのであれば、日本のユーザーに向けた上質なセダンを開発すべきだ。今後は世界的にダウンサイジングが進むから、日本向けのセダンが、海外でも通用する可能性が高いと評価だ。
実際、クラウンやマークXは、日本で売りにくいとされる高価格の3ナンバーセダンだが、販売は堅調。この2車については、国内向けに開発され、その結果として売れている。ほかのメーカーも、クラウンやマークXが売れる理由を研究すると良い。
エコカー減税や補助金を導入したところで、国内販売は回復しない。需要が伸びたと騒がれたが、リーマンショック直後の09年を上まわっただけ。08年を超えたのは、補助金の駆け込み需要が発生した2010年の6~8月だけだ。国を挙げて販促活動を行っても、日本のユーザーは欲しくもないクルマを買ったりはしない。欲しいクルマが投入されれば、必要な時期に購入する。
その意味でも、日本向けに渾身のセダンを開発すれば、国内需要を回復させる糸口がつかめると思う。
日本のメーカーは、国内の市場をもっと大切にして欲しい。これから生き残っていくためにも、国内市場を強固にしておくことが重要になる。
コメント
富士重工は特にこれで自滅したと言えるでしょうね。
桂田勝さんがレガシィに携わっていた頃のレガシィは、他社の同クラスがこぞってワイドボディ化する中、頑なに5ナンバーに拘り続け、結果、スバリスト以外からも支持を得ました。
当初はデザインに難があり売れなかったセダンも、改善により売れるようになりました。
ところが・・・桂田さんがSTiに退いた途端に、日本市場をまるで無視するかのようにレガシィだけでなくインプレッサまでワイドボディ化。
気が付いてみたら、ワイドボディ車と軽自動車しかない両極端なラインナップになってしまいました。
これでは、「距離乗るから軽では耐久性に不安がある、しかし駐車場事情からワイドボディ車は所有できない」という人は何を買えばいいのでしょう?
スバルオリジナルの軽も晩年は、個性を追求しすぎて割高なものばかりだったし。
失礼ながら評論家ですら指摘できる間違いに、各自動車メーカーの
開発担当者が予測し理解できない事がオカシイ。
となると、トヨタクラスの売上や規模がないと純粋日本向けにセダンを
開発出来ないのでは?と勘繰りたくなります。
電力事情を言い訳に今後、トヨタが日本生産に見切りをつけだしたら・・・
将来は軽規格と路地で立ち往生する世界規模自動車しかない日本に
なるのでしょうか?
新車より中古車の方が販売台数が多く、海外の方が多いとなれば、この傾向は止まることはないでしょう。セダンが斬られ、ミニバンが斬られ、ひょっとしたらコンパクトカーまで斬られるかもしれません。
そうなれば、軽はイヤ、でも他の新車はみんな3ナンバーで取り回しに不安、だったら5ナンバーの中古車があるからそれを買おう、おまけに安いし…。となって触媒の被毒が進んだ中古車だらけとなり、大気汚染が進む、なんてことになるかもしれません。
途中まで、納得しながら読んでいましたが、次の文章で唖然としました。
「今、自宅で使っている冷蔵庫のメーカーを知らなくても、10年前に乗っていた軽トラックの車名は覚えている。クルマはジャンルが何であれ、ドライバーは一体感を抱き、白物家電にはなり得ない。」
小生は、車業界や家電業界には所属しない一般消費者ですが、15年前の自宅の冷蔵庫も自家用車も、どちらも良く覚えています。
渡辺先生が冷蔵庫メーカー名を御存知ないのは、自動車業界に長年居られて、一般人の感覚を失っておられるのではありませんでしょうか。
大変、失礼致しました。15年前に使っていた冷蔵庫の名前も、自家用車と同様、良く覚えておられるとの事。
それはモノに対して愛情を持って大切に使っている証だと思います。
私もかなり大切には使う方で、目の前の電気スタンドなど、30年を経ています(危険だという見方もありますけども)。
それでも家電製品のメーカーや名前は忘れております。
ご指摘のように、一般の感覚を失っているのかも知れません。モノに対する愛情が欠けているとも言えます。
匿名様のコメントを拝読して、愕然といたしました。
今後、原稿を執筆する際には、十分に注意したいと思います。
貴重なご指摘、有り難うございました。
渡辺様、はじめまして。
本記事を読ませていただき、今の世の中でもこのような鋭い視点の記事を書かれるモータージャーナリストが居られた事にほっと胸を撫で下ろしているところです。
80年代のCGの記事だったと思いますが、スバルがモーターショウに出したデザインスケッチは、狭い日本を多い尽くした巨大な「ミニバン」の前触れとなるものだったと記憶します。
そのキャプションが「"未来の家族のステータスシンボルに"・・・なるような時代がどうか来ませんように。」このキャプションwを入れた記者の悪い予感は当たってしまい、バブルが崩壊後、程なくしてその時代が来てしまいました。
家は大正時代からの古い路地が多いのですが、すれ違いも他所の土地を踏まなければ出来ない車で溢れ返っていて、子供が路地で遊ぶことは危険この上ない時代になってしまいました。
小生のような1970年代生まれを最後に、自動車への情熱を持つ人間も減少の一途を辿ったように思います。
いつしか、わたしもバブル以前の旧車にしか興味が無くなり、子供時代から走っているクルマの名前はグレードまで全て云えたのが、ミニバンの乱立と共に遂にはメーカー名まで判らなくなってしまいました。
道具としても無駄な電気仕掛けが溢れ、いたずらに重量増しになった自動車をエコカーと称して売っている現状に、少なからずの違和感を覚え、歳を重ねる毎に新しい自動車への魅力を感じなくなって来てしまいました。
そんな中、渡辺様の記事には、久しぶりに我が思いを晴らして頂いた様な爽快感を覚えました。
ありがとうございました。今後も、宣伝にぶれない姿勢での活躍を期待しております。
>>nostalgia1970氏
ノアやセレナは平面寸法はプレミオやシルフィとほぼ同じで、全高以外は「巨大」ではないのだが・・・。ましてやシエンタやフリードは多くのセダンより平面寸法は小さく、巨大呼ばわりされる謂れはない。
5ナンバーサイズを頑なに堅持するMクラスミニバンと、イストなど一部はスモールクラスまでワイドボディ化してしまったセダン。どちらが日本の消費者本位かは一目瞭然だ。
渡辺氏が言いたいのはそういう事であって、巨大化した車の悪しき例としてミニバンを挙げているのではない。
この記事に一番最初に入ったコメントにあるように、富士重工は海外市場におもねて何でもかんでもワイドボディ化した結果の完全な自滅だ。
富士重工はかつては多人数乗車車自体がサンバーベースのドミンゴや4WDが影も形もないトラヴィックしかなかった。エクシーガが出てきたのは最近。これでレガシィやインプレッサの市場をどうやってミニバンが食おうか。
それと、初代・2代目インプレッサSTiは、セダンとは思えないくらい後席の乗り心地や居住性が悪かったが、あれを走り屋のアンちゃん以外がどれだけ「乗りたい」と思ったかな?
ラリーで海外での名声を高めるには役立ったかもしれないけど、その辺りもセダンが忌避されるようになった理由があるように思う。
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