セレナにアラウンドビューモニターが必要な理由
東日本大震災以降の復興も進み、各メーカーとも、納期を従来のペースに戻しつつある。喜ばしいことだ。ただし一部のパーツには滞りが残り、セレナにアラウンドビューモニターを装着すると、納期が1か月ほど長引くという。
アラウンドビューモニターとは、ボディの前後、左右に装着されたカメラによる映像データを組み合わせ、車両を真上から見た画像として、カーナビの画面に表示する装備。ドライバーの死角を補い、安全性を高める効果が高いので、予算が許すならば納期が少し伸びても装着したい。
その一方で思うことは、「なぜ、このような装備が必要になるのか」だ。
セレナのような全高が1700mmを超えるハイルーフミニバンは、3列目の居住性を快適にして、車内の移動を容易にするため、燃料タンクの位置まで床を高めたフラットフロア構造を採用する。となれば視線も高まり、遠方が良く見える代わりに、ボディの左側面の死角が拡大する。セレナは、サイドウインドーの下端を低く抑え、視界の向上に力を入れたが、それでもなお、アラウンドビューモニターのような装備が必要だ。
視界の悪いクルマが多すぎる!
最近は、視線の低いセダンやワゴンにも、視界の悪い車種が増えた。日本車、輸入車を問わず、サイドウインドーの下端が高まったからだ。
60~80年代には、サイドウインドーを開き、マド枠に肘を引っ掛けて運転する姿を良く見かけた。もちろん危険を伴う誤った運転方法だが、マド枠は肘を引っ掛けられるほど低かった。今のクルマで同じことをすれば、肘が持ち上がって引っ掛けられない。着座位置に対するサイドウインドーの下端は、40~80mmくらい高まり、側方視界を悪化させている。
しかも、高く設定されたサイドウインドーの下端を、後ろに向けて持ち上げたデザインが多い。これでは斜め後方、真後ろも含め、全面的に視界が悪くなる。
ボディサイズも、最近は3ナンバー車ばかり。80年代までは2代目のBMW5シリーズなどを含め、日本車、輸入車の多くが5ナンバーサイズを採用した。良好な視界と相まって運転がしやすかったが、今は違う。視界の悪化とボディの拡大により、取りまわし性の悪いクルマが増えた。
視界の悪さは安全性低下に直結する
視界の悪化を問題視するのは、取りまわし性だけでなく、安全性も低下させるからだ。安全な運転には、クルマの周囲に潜む危険をいち早く察知することが不可欠。「視界の悪いクルマは危険なクルマ」と考えたい。
欧州製のセダンは、安全装備を充実させて日本車も見習うべき点があるとは思うが、ボディの拡大と視界の悪化は著しい。全面的に安全で誉められるクルマに発展したわけではない。
この点を複数の開発者に尋ねると、返答はおおむね共通。「サイドウインドーの下端を高めると乗員の安心感が高まり、ウインドーの下端を後ろに向けて持ち上げるウェッジシェイプを採用すれば、外観をエモーショナル(情緒的)にしやすい」と言う。
確かに極端に周囲が見えすぎると不安を抱くが、30年くらい前のクルマを運転しても、不安は感じなかった。不安が生じるとすれば、サイドウインドーの下端が極端に低く、腰のあたりに位置する一部の観光バスくらいだ。
デザイン重視が視界を悪くした。視界のよいクルマはコレだ!
結局、視界を悪くした原因は、主にスタイル優先のデザイン。外観を力強く、躍動的に見せる目的で、サイドウインドーの下端が高まり、ウェッジシェイプになった。クルマをたくさん売るための外観デザインにより、安全が犠牲になっている。
ならば、視界の良いクルマとは、具体的にどのような車種か。現行型で誉められるクルマは限
られ、セダンはティーダラティオくらい。ベース車のティーダも視界が良い。SUVならエクストレイル、ミニバンであればラフェスタ(ハイウェイスターではない方)、軽自動車ではエッセとミラが優れた視界を確保している。
確かに見栄えの面で厳しい車種が少なくない。ウインドーの下端を低く設定すると古臭くなり、逆にウインドーの下端を高めてウェッジシェイプにすれば、新鮮でカッコ良く見えることはありそうだ。
しかし、そこにこだわってしまうのは、本来の工業デザインのあり方ではない。優れた視界を確保した上で、外観もカッコ良く見せることにチャレンジして欲しい。
実際、先に述べた5ドアハッチバックのティーダは、視界の優れた運転のしやすいクルマで、なおかつ外観の見栄えも良い。04年に登場しながら、今でも相応に売れている。ミラ、コルト、スプラッシュなどは、サイドウインドーの下端を後ろに向けて持ち上げたウェッジシェイプだが、前端を低く抑えることで、後方視界もあまり損なっていない。輸入車では、先代ルノー・メガーヌが良好な視界を得ていた(現行型は悪化したが)。
小さな子供が隠れて見えない危険性
「マド枠の高い新型車に乗り替えたら、ボディの左側を壁に擦った」という話を時々耳にする。「擦った相手が壁で良かったですね」と返答する。
サイドウインドーを低めに設定してウェッジシェイプにしていない車種だと、リヤサイドウイ
ンドーの下端は、地上高が95~98cmくらい。一方、下端の位置が高めでウェッジシェイプにしていると、約10cm高まって110cm弱になる。
交通事故の被害に遭いやすい4歳から5歳の子供の平均身長は105cm前後。子供がクルマの脇に立っていた時、リヤサイドウインドーの下端が低めの車種なら頭部がドライバーの視野に入る。高めの車種では隠れてしまう。
コメント
> 欧州製のセダンは、安全装備を充実させて日本車も見習うべき点があるとは思うが、ボディの拡大と視界の悪 化は著しい。全面的に安全で誉められるクルマに発展したわけではない。
ドアミラーも、欧州車から採用され出して日本車にも後に持ち込まれた例ですよね。
普及した理由も 「ドアミラーのほうがカッコイイ」。
仕舞いには「フェンダーミラーだと四六時中視界にミラーが入って鬱陶しいが、ドアミラーなら見たい時だけ振り向いてミラーを見ればよいので前方視界に集中できる」などという、後付け的なドアミラー安全論まで蔓延る始末です。
作るメーカーも選ぶ消費者も誘導?指導?するような内容の
記事を書くべき。
メーカーは安全性を強調するなら「視界の良さ」も強調して欲しいですね。
良好な視界はアクティブセーフティの前段階に位置するもので、車の性能の一つだと思います。
怖い目に あった のは 私だけ でしょうか? 太いピラ-と サイドミラ-で 角度によっては 車1台くらい 隠れて しまいます!。
前方はAピラーが太すぎて左折、特に右折時、視界をさえぎられ、
後方は右、左後方がほとんど見えず、ちょっと危ないな、、と思い購入を断念したことがあります。
格好だけで車を選ぶのは危険極まりないです。
メーカーもしっかりとした視界を確保した車を販売するべきです。
何しろ車は乗り方次第で‘走る凶器‘にもなるのですから。。
他記事と連投で申し訳ないですが、こちらの記事もタイムリーでした。
皆さんが書いておられますが、Aピラーが太くなったことをはじめとする現代車の視界を問題視する論調をようやく見つけた気がしています。
この傾向は、以前乗った仕事場のスズキ・エブリィ(商用1ボックス)にまで観られました。
最近仕事で乗った、トヨタのお買い物カー「ポルテ」も同様でした。シートを必要以上に後ろに下げて乗る若者が最近多いですが、逆に背が低めの人が正規の運転ポジションをとると、交差点を曲がる時などに、太いAピラーの死角に、大人でも1人分完全に隠れてしまうことが判りました。
恐らく開発の人間は云うでしょう。「衝突安全性確保の為に太くなりました」と。
しかし、それは単なる言い訳に過ぎず、補強剤を中に入れる、ハニカム構造のようにして強度を上げるなど、幾らでも手段はあるはずで、それを捻出して来た結果、自動車は進歩し続けてきたのではないかと思います。これも「コストが」と決まり文句の言い訳をする開発者の姿が目に浮かぶようですが。
数年前、とある重鎮のモータージャーナリストが、スズキ・パレット車高、重心の高さに「点灯しませんか?」と聞いたら、開発者からあっさりと「するかもしれない」旨の返事が返って来たと云う話が忘れられません。
本記事にも同様にデザイン重視の姿勢が開発側にあるようですが、本来工業デザインとは、安全性や機能性とデザインと云う、一見相反する要素ををどれだけ高いレベルで融合できるかと云うところに腕の見せ所があるように思いますし、そのような製品に出会えたときには、感動すら覚えるものです。
残念なことに、最近の自動車に魅力を感じなくなったのは、このあたりの潜在的な部分も大きいかと思います。
デザインデザインと云う割りに、例えばホンダ・アコードとマツダ・アクセラを並べてバッジを取った時には、もはや生まれた頃からクルマが好きなわたしでさえ判別が難しい程の無個性です。
個人的に好きな工業デザイナーの、ジョルジェット・ジウジアーロ氏の仕事は、デザイン要素、機能、安全性、コストがとても上手く融合した製品が多いと思いますが、もはや21世紀もひとまわりしたわけですから、複雑な電気仕掛けでの対症療法ばかり考えていないで、せめてこのレベルを発展させるようなクリエイティブな仕事が出来ないのだろうかと、思わざるを得ません。
バブル経済頃までは、モータージャーナリストが、ある時は我々の声を代弁し、ある時はグローバルな鋭い視点からの提言を行って、メーカーを育ててきた面が少なからずあったように思います。が、昨今、広告主ありきのメディア社会がより強まった現在では、中々そのような力も及ばなくなっているように感じ、最近は専門誌を見ること自体も少なくなりましたが、現象の一途を辿る自動車の国内販売のみならず、自動車専門誌などの媒体の存続にはむしろ不可欠なことなのではないかと思う次第です。
棘の道かとは思いますが、渡辺様には、これからも広告主に媚びない視点での鋭い提言を期待します。
>とある重鎮のモータージャーナリストが、スズキ・パレット車高、重心の高さに「点灯しません か?」と聞いたら、開発者からあっさりと「するかもしれない」旨の返事が返って来たと云う話が忘れられません
貴殿のミニバン嫌いは分からんでもないが、それを言っていたらパレットより遥かに横転しやすいエブリィやジムニーはどうなんだ?という話になってしまう。
初代CR-Vが危なげなくクリアしたカーブで、CR-Vより車高も重心も低いメルセデスの初代Aクラスが横転した例然りで、車高・重心高だけで決めつけるのはどうかと思う。
当方はむしろパレットに関しては、初代ワゴンRと変わらない走安性でよくここまで広い室内を実現したと評価してるくらいだが。
あと、貴殿はミニバンの増加が若者の自動車離れの原因と決めつけてるみたいだが、それは少し短絡的ではないか?初代エスティマの高い次元での居住性と走りの融合、そしてそれを実現した独自のメカニズムは趣味的に見ても面白いものだったし、実際運転しても感動ものだった。
>複雑な電気仕掛けでの対症療法ばかり考えていないで
そう言ってカーナビやプリクラまで否定する人多いけど、電子制御技術を根本否定されたら今の自動車成り立たない。
初代・2代目ソアラはハイテク・電子技術満載だったからむしろ面白かった。にもかかわらずそれを理解しないジャーナリスト達が叩きまくり、4代目に至ってはハイテクは影を潜め、ベンツSLのコピーにしか見えない車成り下がった。
視界の良い車作りは大事だが、その批判のために電子技術を否定するのは筋が違う。
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