ZENOS E10試乗記と評価 EUを離脱した英国発の新たなスポーツカー [CORISM]

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2016/06/28

我々の前に現れたZENOS E10。あらたな試みの下に起こされた企業、その会社が作るクルマはいかなるものなのか?

英国からの挑戦状ZENOSとはなんだ!?

 ZENOS(ゼノス)というクルマをご存じでしょうか? 知っている方は、おそらくかなりのクルマ好きでしょう。それでも、今年の1月お台場を訪れた方なら、もしかしたら見たことがあるのかもしれません。

 ZENOSとは、英国発の新興コーチビルダーであり元々はケータ―ハムを辞めた技術者やそうした方々が集まり出来上がった新しいスポーツカーメーカーです。このメーカーは、チョッと異色の企業といえるかもしれません。と、いうのもスポーツカーメーカーでありながら、実は英国政府も関心を寄せているということなのです。今回は、ちょっとそんなお話にお付き合いいただきたいと思います。

 今年のニューイヤーミーティング(以下NYM)に、この車は展示をされていました。そして、それがこの国でのZENOSというクルマの初めての一般へのお披露目した。この日、インポーターであるアートインターナショナルの武蔵野氏は、あえてオートサロンではなく、このNYMに持ってきましたと話されていました。実は、そのときにお話を伺うと同時に連絡先をお渡ししておいたのですが、先月よもやのご連絡をいただき筆者他数名のライターでこの試乗に挑んでまいりました。

 このZENOS E10の車体重量は、700㎏と非常に軽いのです。もちろん、他にももっと軽量化された車体はあるのは承知していますが、リッターカーでも1tを超えるのが普通です。このご時世では、十分すぎるほど軽いのです。

 初めて見る車体に皆恐る恐る乗り込みますが、この車体には屋根はもちろんですがドアもありません。したがって、乗り込むにはこの車体の黒い部分(この黒い塗装の部分がカーボンでできています)をまたいで乗り込むことになります。普段運動不足の筆者は、上がらない足を必死に上げて乗り込むのですが、車体自体がもともと低いので頭で考えるよりはすんなりまたげます。

 グループMの甲斐氏には「シートに乗ってしまって構わないですよ」といわれたのですが、あえてそこは普通に乗り込むことをしてみました。室内は想像しているよりも、ずっと広く足元にはかなりの余裕がありました。実際パッセンジャーシートは、足元に余裕がありすぎて、足を踏ん張れるフットレストのようなプレートが必要ではないかという話が出るくらいに余裕があります。

 シートはホールド性が良く、しっかりとサポートしステアリングとシートのポジションも良好に思えます。実際、筆者は身長のある方ではないので、過去英国車に乗ると寝そべるようであったり、ステアリングにしがみつくようになったりとしたものです。しかしZENOSは、スポーツドライブに相応しいポジションがしっかりと取れるように調整幅がありました。調整もシートスライドだけではなく、実はABCペダルも3段階の前後調整ができるという実に細かい微調整もできるとのことです。もっとも、この日はシートの調整だけでも十分でした。

 シートに潜り込んで(これはフロントスクリーンとサイドとの関係からイメージ的にはそんな感じで)小径のステアリングに手を置くと、何とも笑みがこぼれます。当たり前といえばそうなのかもしれませんが、この車には基本アシストデバイスはありません。パワステもなければ、当然ですがMTのみです。ただ驚いたのがブレーキにさえアシストがないのに、クラッチは驚くほど軽いです。これは、その気さえあればどなたでもスポーツドライブを楽しめるようにクラッチはあえて扱いやすくしてあるとのことです。ですから、非常にクラッチはつなぎやすく、おそらくは車重も相まって軽自動車のMTと変わらないくらいスッと違和感なくクラッチ操作ができました。ただし、注意してほしいのは、他は一切の補助が無いので甘く見ると大変なことになります。

ZENOS E10

道の駅箱根峠にて。止めただけで観光客なのか地元の方なのか、「これはなんですか?」と早速に尋ねられました。

ZENOS E10

乗降はこの黒い部分を乗り越えて行うために決して楽とは言えないが、それゆえ集中できるといえるかもしれない。

ZENOS E10

アクセルを踏むたび、ステアリングを切るたびに、思わずニヤける中年2名。

走り始めて筆者とライターN氏の2人から口をついて出た言葉は“速い”とか“すごい”ではなく「楽しい」しかありませんでした。そう、痛快の一語に尽きるのです。あくまでも試乗であり、そんな激しく攻めるようなことはできません。あくまでも、状況に沿ったドライブの範疇になりますが、それでも文字通り意のままになる運動性能は痛快でした。これらの理由には、おそらくすべてがノンアシストだからこそのダイレクトな操作が起因しているのでしょう。山を下り、そして再び上がってくるだけの走行でも十分に感じ取れました。コレを自らのモノとして所有される方には、さらにより強く実感ができるのではないでしょうか。

英国の政府も行方を見守る新規事業

ZENOS E10 フォーカスRS用エンジン

エンジンはフォーカスRSの2L 200馬力、700㎏の車体には十二分どころか余りある出力といってもいい。

 英国発の新たなスポーツカーZENOS E10には、他の市販スポーツにはない特徴や今までにない素材が使用され注目をされています。その最大の部分が車体の構造材であり、ボディの外装でもあるカーボンパネルです。

 カーボンなど今更そこいらじゅうのメーカーやアフターパーツでも使われているじゃないか。そう思われるのも無理はありません、それでも、これが最大の特徴といえるのは、このカーボンパネル、実は再生カーボンなのです。そう聞けば見方が変わってくると思います。実際にNYMの日に武蔵野氏に「再生パーツというものは往々にして強度が落ちやすいものではないのですか?」とお尋ねしたのですが、それについては全く問題なくむしろ強度的には上がっているというお話を伺いました。なるほど、英国政府が注目をするわけは、このあたりなのかな(日本ではまずスポーツカーメーカーに補助金なんて国から出ません)と筆者も納得をいたしました。

 そして、もう一つの特徴がプッシュロッドによるインボードサスペンション。プッシュロッド式というのは過去にKTMのクロスボゥというクルマがありましたが、こちらはフォーミュラーカーと同様の縦置き式ですので、よりセンターに重量が寄り、またロッドのストロークからも走りに影響をもたらしているのであろうと思われます。

 各部のパーツは、コーチビルダーらしく随所に他メーカーからのパーツが使われています。エンジンは、フォードの2LでこちらはフォーカスRSに使われているものをミッドシップに搭載。リアのランプ周りなどはおそらくアルファの4Cからのモノではないかと思われます。そのほか、ウィンカーレバーやそうした細かい部分を観察すると見覚えがある見つけられると思います。そのほかにも、タイヤはエイボンを用意するなどいかにも英国らしいチョイスではないでしょうか。

ZENOS E10

しっかりとエンジンにはフォードのステッカーが。

ZENOS E10サスペンション

再生カーボンと並びE10の最大の特徴となっているのが、このインボードサスペンション。プッシュロッドのストロークゆえか、がっしりとした足回りというよりしなやかな足回りという印象を持つ。

ZENOS E10 エイボンタイヤ

タイヤはエイボン、このあたりは英国だよねと話していたが、評判もよくチョイスされたとのこと。


ZENOS E10
ZENOS E10コックピット

コクピットは乗り込むときこそ、またいで入るのですが、思いのほか広く、足元はいい意味でゆとりがあります。

ZENOS E10インテリア

メーターパネルは、センターとステアリング奥の2つ同じものも出せますが、ドライバーに余計な情報を見せることのない様にしているのかステアリング側は小さめなモニター。


ZENOS E10

痛快、軽快という言葉が似合うZENOSですが、その反面しっかりと操作をしないといけないということも改めて感じさせるクルマであります。サーボのないブレーキは、踏むなら踏むでガツンと踏まなければ止まってはくれないし、軽量な車体といえどもステアリングは軽くはありません。その意味では本当に車を操作すること、それを楽しむとはどういうことかを本当に思い出させてくれるクルマであることは確かです。

販売チャンネル グループM甲斐氏がその構想を語る

ZENOS E10

画像一番左端がグループMの事業部部長である甲斐氏

 今までドイツ車を中心にメンテナンスを手掛けてきたグループMですが、ここにきて新車を扱ってみてはどうだろうということになったそうです。その時に先の武蔵野氏から、折よく提案されたのがZENOSでした。それまで英国車を扱ったことがなかったという甲斐氏。そのこともあって、武蔵野氏や現地の人間との連絡を密にして進めてきたそうです。まだ、年間生産台数もどのくらいになるのかはっきりしていないようなときに、何台は輸入できるので生産を進めてくださいとお願いをし、さらに改善もどんどん提案をしていたそうです。

 ZENOS E10は、元々ニッチ層にしか受け入れられない車体なのははっきりしています。この際、徹底的にそうしたニーズにこたえられるようにと下地を作ろうと思ったそうです。そのため、顧客には購入前に一度、特に地方からの方には、それこそ観光がてらお越しいただき、ご本人に合わせてシートやペダルの配置や仕様を正確にオーダーメイドできるようにして決めていただいたそうです。また、工場はどういう設備と技術で整備を行っているのかも確認してもらったそうです。ZENOS E10は、1台1台完全なオーダー製で届けたいと考えています。

 また、国内の仕様に向けて、細かな要望に対してメーカーに応えてもらうためにも、そうしたことが必要なんですと話されていました。実際、社内でもそうした細やかな仕様変更を常に続け、メーカーにも提案し続けています。筆者をはじめとするライター陣に乗らせたのも、そうした不具合を潰していくのが目的の一つです。だから、この先はもっと乗りやすく楽しいクルマにもなっていけますと話す。

 発注の際にもZENOS E10は、スクリーンのないものもチョイスできるのですが、すべてスクリーン付きで輸入されます。「外すのは思っているほどむずかしくはありません。むしろスクリーン無しで届いたときにいざ付け直したいとなった時の方が大変でした。だったら、こちらで外した仕様にした方がいつでも直せる」ということでした。たしかに、その時には必要な穴も空いていないワイパーなどのモーターも別に送ってもらわないといけないなど、マイナス面の方が大きいのです。「やってくれることは向こうに頼み、あちらでできるかわからないものや、この方がいいというものもある」という。提案もこちらからが必要なら、部品を実際に作ってでも行います。それがいい関係を築くことにもなるとか。なるほど、ドイツを中心に海外のメーカーと交渉をされてきた甲斐氏のビジョンはとても明快に思えました。

ZENOS E10

話の中に出てきた国内に入ってからの改善点のひとつ、サイドミラー右と左で左のステーの方が若干(1インチ)長いのがお分かりいただけるでしょうか?

ZENOS E10

ドアが開かない反面、スペースとしてうまく活用してあるのが、カギ付サイドポケット。小物入れのないクルマといてはありがたいかもしれない。

ZENOS E10

屋根のない車体といえど、最低限の天候対策はしてあります。そのひとつがこのトノカバー。フィット感もよく突然の雨をしのぐには十分機能します。


ZENOS E10

この時点で、十分に走る楽しみを満喫できるZENOS E10ですが、すでにturboモデルも上陸予定になっているそうです。常にお客の声をメーカーにフィードバックし、新たな提案をし続けるようにしていくとのこと。選択肢や様々な細かいオーダーで、個々のオーナーの要求に完全に答えることになっていくでしょう。

ZENOS E10 イラスト
ZENOS E10

ボディ&シャーシ ハイブリッドカーボン/アルミモノコック スチールロールバー&サイドインパクトプロテクション

全長3800㎜ 全福1870㎜ 全高1130㎜ ホイルベース2300㎜ トレッドF/1560mm R/1600mm 重量700㎏

エンジン フォード2.0GDI 排気量1999㏄ ボア×ストローク 87.5㎜×83.1㎜

出力/トルク 200馬力(147.1kw)/6800rpm  21.4㎏(210Nm)/6100rpm  最高速216㎞

ギアボックス 5速マニュアル(6速マニュアル)トランスミッション 燃料タンク容量35L

タイヤサイズ F195/50 R16  R225/45 R17 Avon ZZS  ホイール F7.5J×16 R8.0J×17

販売価格 ¥6.480.000-(予価)

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