トヨタ ミライ(MIRAI)長期レポートVol.2 燃料電池車のどこが凄いのか? 世界初、市販燃料電池車(FCV)ミライの進化と美点 [CORISM]
小学生の時に習った水の電気分解の原理で、クルマが走るようになるまでに、度重なる試行錯誤の歴史がある!
燃料電池は、電池というよりも発電装置だ。クルマの場合は、水素自動車とか、水素発電自動車という呼び方をしたらもっと分かりやすかったと思う。電池だと使い捨ての乾電池のイメージが強いが、燃料電池車は継続して使用可能である。
燃料電池車は水素を使って発電するが、その原理は水の電気分解に由来する。小学校のときに理科で、水に電気を加えると、水が水素と酸素に分解されるという実験をしたのを覚えていると思う。この原理は、古くから知られていた。
そして、その逆をすれば電気を作れるのではないかと考えた人がいて、燃料電池の原理は100年も前からあった。電気分解とは逆に、水素と酸素を結合させれば水ができ、そのときに電気も発生すると考えたのだ。この考えは間違っておらず、燃料電池は早くから人工衛星などでエネルギー源として使われていた。
燃料電池をクルマの動力源として使えないかと考えたのは、恐らくメルセデス・ベンツが最初で、GMやトヨタ、ホンダなども含めて自動車用燃料電池の開発競争が展開されてきた。
だが、重力のある地球上で、1tから2tもあるような重量物であるクルマを動かす大電力を発生する燃料電池は簡単には作れなかった。各社の研究は、当初ミニチュアカーのようなものを動かすところから始まったのだ。
また、水素と酸素を結合させるといっても、水と電気を生むような化学反応を起こすのも簡単なことではなかった。反応をうながすために触媒が必要であり、触媒にはプラチナなどの稀少金属をたくさん使わなければならないというのも大きな壁だった。
プラチナの価格は、今でも1g当たり5000円前後するが、それを100gくらい使わないとクルマを動かすような燃料電池はできなかった。そうなると、プラチナ材料代だけで50万円にもなるわけで、大変なコストだった。さらに、プラチナを薄い膜にして燃料電池(スタック)に塗布するなどの加工をするための技術を確立するのが難しく、生産コストも高かった。1台当たりのコストが億円単位であると言われたのは、この時期だった。
その前に、そもそも水素をどのように作るかも課題とされた。初期の実験的な燃料電池車は、クルマに石油を積み、石油から水素を取り出す改質器を搭載する方法が考えられていた。しかし、この方法だと効率が悪いので、水素を直接搭載して空気中の酸素と反応させる方式が考えられるようになっのだ。
燃料電池車は、全く新しいクルマであり、従来のクルマのように機械的な部分だけでなく、水素と酸素の化学反応についても理解を進める必要があってたので、自動車メーカーにとってはいろいろな意味で新しい挑戦が必要とされた。
化石燃料の呪縛から解かれた世界初のFCVが「ミライ」。自動車史に、輝く新たな1ページ創った日本人の誇りともいえるクルマだ!
燃料電池車は、世界中の主要な自動車メーカーが取り組んでいる課題であり、メルセデス・ベンツやGMなどは早くから取り組んでいた。ホンダもひと世代前のFCXクラリティでは、量産を前提にしたクルマを提案するなど、相当に先行している印象があった。あるいは、現代自動車なども燃料電池車を試験的に走らせている。
トヨタは、クルーガーをベースにしたFCHVアドバンスを作っていたが、必ずしも先行しているというイメージではなかった。それを一気に挽回して市販にこぎつけたのは、技術的にいろいろな面でブレークスルーを進めたからだろう。
世界で最初の燃料電池車が日本の自動車メーカーであるトヨタ から発売されたことは、日本人として誇りに思うべきことである。
メルセデス・ベンツ やGM 、ホンダ や日産 も含めて、トヨタ が想像以上に早く燃料電池車を市販したことに驚いている。また、本体価格ベースで680万円という価格設定も驚きとするところだと思う。ホンダや日産が、市販する燃料電池車の価格をミライに合わせざるを得なくなったし、メルセデス・ベンツやGMはミライと同じような価格ではとても販売できないだろうと思う。
これまでもトヨタは、さまざまな部品などを自社の社内で開発し、その技術を手の内に入れた上で社外のサプライヤーに発注することが多かった。今回のミライでも、新技術は基本的に内製としている。燃料電池スタックや水素タンクを社内で生産するのがそれで、自らの手で直接取り組む姿勢を示している。
堅牢性、耐久性、安全性などが問われる水素タンクは、燃料電池車の技術的な肝となる要素のひとつであり、生産上のハードルも高いものがある。それをトヨタは自社で開発・生産することにしたのだ。
燃料電池スタックは、各社がそれぞれに開発・生産を進めているが、水素タンクについては専門メーカーに任せる例が多い。それを自社生産するのは、トヨタの意気込みを示すものといえる。
ミライの販売が始まり、初年度の生産台数が1000台以下にとどまるのは、この水素タンクの生産上の制約が大きいようだ。だが、トヨタは今後、水素タンク以外の部分も組めて生産能力を増強し、2017年には年間3000台ペースで生産できる態勢を整えていくことにしている。
水素はガソリンより安全!? それでも、徹底した安全対策を施しているミライ
そうした水素の扱いやすさは、ガソリン並み。それでいながら、クリーン性はガソリン以上であることが、水素が次世代の燃料として考えられる理由でもある。その水素の潜在能力を引き出すのが、トヨタのフューエルセルシステム(TFCS)だ。確かに、水素粗雑に扱えば危険が生じる可能性もあるが、トヨタは水素の安全性について入念に行っている。
ミライの水素タンクは、強化プラスチックや炭素繊維強化樹脂、ガラス繊維など、3層構造で作られている。万が一の水素漏れに備えて検知器を配置し、水素漏れを検知した場合にはバルブを遮断する仕組みとされている。さらに、水素系の部品を車室の外に配置することで、万が一の水素漏れのときには水素が車外に拡散しやすくするなど、二重三重の安全性が図られている。
FCスタックや、2つの水素タンクなどの適正な配置により、重量バランスにも優れる
ミライは、フロントにエンジンを搭載して、前輪を駆動するFF車であるのが基本だ。電気を発生する燃料電池スタックは、前後の車軸間の低い位置に搭載されている。さらに後席のシート下や後部のトランクとの間に2個の水素タンクが搭載されている。後部の水素タンクの上に、二次電池と制御系を搭載するレイアウトだ。
全体に低い位置、あるいはクルマの中心寄りに重量の重いコンポーネンツを搭載しているので、ミライは重心・重量バランスに優れたクルマになっている。
通常のFF車に比べると、後輪寄りの重量バランスになっていて、ざっと前輪が58%、後輪が42%という重量配分である。これが走りのバランスの良さにつながっている。燃料電池車としてだけでなく、クルマとしてもバランスに優れているのも特徴だ。
トヨタ ミライ価格、航続距離、スペックなど
代表グレード | トヨタ ミライ(TOYOTA MIRAI) |
---|---|
ボディサイズ[mm](全長×全幅×全高) | 4,890×1,815×1,535mm |
ホイールベース[mm] | 2,780mm |
トレッド前/後[mm] | 1,535/1,545mm |
車両重量[kg] | 1,850㎏ |
最小回転半径[m] | 5.7m |
FCスタック型式 | FCA110 |
FCスタック最高出力[kw(ps)] | 114(155)kw(ps) |
高圧水素タンク容量[L](2本) | 122.4L(前方60.0L/後方62.4L) |
モーター最大出力[kw(ps)] | 113(154)kw(ps) |
モーター最大トルク[N・m(kg-m)] | 335(34.2)N・m(kg-m) |
駆動用バッテリー | ニッケル水素電池 |
容量[Ah] | 6.5Ah |
サスペンション(フロント/リヤ) | ストラット式コイルスプリング/トーションビーム式コイルスプリング |
最高速度(㎞/h) | 175㎞/h |
一充電走行距離距離[㎞] | 約650㎞(JC08モード走行パターンによるトヨタ測定値) |
定員[人] | 4人 |
税込価格[円] | 7,236,000円 |
発表日 | 2014年11月18日 |
レポート | 松下 宏 |
写真 | トヨタ/編集部 |
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