2024 バンコク国際モーターショーレポート概要& BYD編の目次
日本勢危うし!? 中国車へシフトしたバンコク国際モーターショー
バンコク郊外のインパクトチャレンジャーで開催された第45回バンコク国際モーターショーを取材した。新型コロナウィルス禍で渡航が難しかった時期を除き、かれこれ30年くらい前からバンコク国際モーターショーの取材を続けてきたが、今回のショーは大きく様変わりしていて驚かされた。
バンコク国際モーターショーは、東南アジア最大のモーターショーであると同時に、日系自動車メーカー各社が圧倒的な存在感を示すショーでもあった。日本の自動車メーカー各社は、早くから販売だけでなく生産工場をタイ国内に展開するなどしてきた結果、タイの自動車市場で圧倒的なシェアを占めており、モーターショーも日系の自動車メーカーを中心にしたショーであった。
それが今回、大きく様変わりしたのは中国の自動車メーカーが圧倒的な存在感を示していたからだ。中国メーカーは10年前からイギリスのMGブランドを買収した上海汽車がMGとして出展しており、広州汽車やGWM(長城汽車)、BYD、長安汽車も出展していた。今回のバンコク国際モーターショーでは、これらのメーカーが展示スペースを大きく拡大して展示していただけでなく、前回に小さなスペースで出していたNETAが普通の自動車メーカー並のスペースに拡大し、さらにはシャオペン、ジーカーなど、タイでは全く知られていない自動車メーカーも含めて合計8社もの中国メーカーが出展していたのだ。
展示スペースが小さくなった日本勢。大きくなった中国勢
具体的には、今回のバンコク国際モーターショーで大きな展示スペースを確保していたのは、トヨタ+レクサス、BMW+ミニ、ホンダ4輪+2輪の3社だったが、中国メーカーのBYDは3社と同じスペースを確保していた。次いでMG、GWM、長安汽車の3社が拾いスペースを持ち、これに広州汽車(AION)、ヒュンダイ、キア、三菱、メルセデス・ベンツなどが続き、さらに日産、マツダ、スズキ、いすゞ、アウディ、NETAなどが続くといった感じだった。
モーターショーの会場であるインパクトチャレンジャーでは、今回のショーから新しい展示スペースが設けられていた。だが、それはこれまでの展示スペースから少し離れた位置にあった。部品・用品メーカーなどの一部を新ホールに移すことでメインの展示会場の広さに余裕が出た部分はあるが、主会場の広さは基本的には変わらないため、中国の自動車メーカーがスペースを拡大した分だけ、ほかのメーカーが影響を受けることになる。
さらにいえば、韓国のメーカーもスペースを拡大。ベトナムからも新しい自動車メーカーのビンファストが参入したこともあり、これまで大きなスペースを占めていた日やヨーロッパの自動車メーカーの展示スペースがグンと縮小する結果になった。
象徴的なのはトヨタだ。さらにいえば、メルセデス・ベンツだ。トヨタはレクサスと合わせて最大級のスペースを確保して存在感を示していたものの、昨年に比べるとかなり縮小れていたし、メルセデス・ベンツに至っては配置が変わって格段に小さなスペースになっていた。日産以下の日系メーカー各社もほぼ同様の傾向にあり、従来のスペースを維持していたBMWを除く欧米の自動車メーカーも同様の傾向にあった。
BEVへの優遇措置を追い風にタイ市場への参入を強化する中国勢
中国の自動車メーカー各社は、BEV(バッテリー電気自動車)やPHV(プラグインハイブリッド車)などの電動車を中心にタイ市場への参入を図ろうとしている。特にタイ政府が力を入れているBEVを戦略の中心に据えるメーカーが多い。
タイでは完成車の輸入に対して高い関税がかけられるが、BEVに関してはこれが一時的に免除されている。タイでBEVの生産を開始することを条件としてBEVの完成車輸入を関税なしで認めているのだ。
今回初出展した中国の自動車メーカーの中には、このBEV優遇措置を狙って出展した会社がある。生産開始へのハードルは決して低くはないが、BEVは販売時に課税される物品税も低いので、本気で取り組むならタイ市場で一定のシェアを確保できるとにらんでいるようだ。
物品税に関しても、ガソリン車は25%~40%とかなり高いが、BEVは8%に抑えられるなど、BEVに対する税制上の優遇措置はいろいろ設けられている。
また中国政府も、自動車の輸出や海外での現地生産によって外貨獲得を目論んでおり、新能源汽車(BEVやPHV)を生産する自動車メーカーに対し、積極的に海外市場に進出するように促していると言われる。それは明確な指示として出されているものではないが、今回のバンコク国際モーターショーに出展した中国メーカーの中には、政府に背中を押されて出てきたメーカーもあったようだ。
いずれにしても、日本の自動車メーカーが金城湯池としてきたタイを始めとする東南アジアの市場において、BEVで出遅れ気味になっている日本メーカーを狙い撃ちするような形で中国メーカーが進出を図っているのは間違いない。
バンコク市内を見ても、日本では見られないような中国製のBEVをけっこう見かけるようになっている。日本でも販売されるようになったBYD製のBEVを見かけることも多かった。また、価格の安さを武器に販売を伸ばしていると言われるNETAのBEVも見かけた。
日本勢がタイでシェアを落とした要因はBEV!?
ジェトロの統計によると、2023年のタイの自動車販売台数は80万台弱で、これは2023年に比べると8.7%減少したという。日本車のシェアは2022年が85.4%だったのに対し、2023年は75.8%と10ポイント近く減少しているが、それに変わって販売台数やシェアを伸ばしたのが中国車で、2024年は10.6%に達したという。国別では欧米各国を抜いて2位に躍り出た形だ。
ちなみにタイの自動車生産台数は184万1,663台で、このうち輸出が11.4%増の115万6,035台で、国内販売向けが19.0%減の68万5628台だったとのこと。中国メーカーによるタイ国内での生産が増えれば、生産台数も国内販売台数も伸びていくものと思われる。
出展した中国の自動車メーカー各社が、すべてタイ市場で成功するとは考えにくいが、中国メーカーが一定程度にシェアを確保することで、日本車のシェアが低下していくことは十分に考えられる。日本車のシェアは2022年に80%台だったものが、2023年には70%台へと急落した。これはその大半が中国メーカーのBEVによるものと見られている。
このような状況を受けて、今回のバンコク国際モーターショーのレポートは中国メーカーから始めてゆきたい。
BYD(比亜迪)
低価格を武器にBEVの販売台数でテスラを抜いて首位に立ったと言われているBYDは、タイの自動車市場でも年々存在感を高めている。今回のバンコク国際モーターショーでも、期間中に会場で販売したクルマ台数はトヨタに次ぐ2位で5345台を販売したと言われている。ショー会場では拡大されたスペースに、数車種のBEVを出品していた。
BYDでは、市販車のシーライオンやシールなどの主力車種を展示していたが、目玉にしていたのは電動大型ミニバンのデンツァD9だ。展示されていたのは左ハンドル車だったが、右ハンドル車の販売を前提にして受注を集めていた。東南アジアではアルファードが圧倒的な存在感を誇っているが、これに対抗するBEVモデルとしての訴求を図っている。タイの富裕層に一定程度に浸透していくのは間違いないだろう。
BYDの出展車両の中で、やや微妙な存在となるクルマが2車種あった。ひとつはソンマックスと呼ぶクルマで、これはすでにタイでタクシー用車両としては販売しているe6を自家用車仕様に変更したモデルらしい。ワイドボディに高めの全高を持つためSUV感覚の使い勝手を実現しそうなモデルだ。
もうひとつは、コンパクトカーのシーガルだ。このモデルについては日本への導入がウワサされていて、中国での価格をベースに低価格で提供されれば相当に売れるのではと指摘する声もある。
タイではNETAという低価格のコンパクトBEVが一定の売れ行きを確保しているので、これに対抗するために市販するのではないかと言われている。ただ、BYDの関係者の話だと、導入はそう簡単ではないとのことだ。現在の販売ラインナップが低価格のシーガルに置き換わるようなことになれば、利益率が低下するだけの結果に終わってしまうので、それを恐れる考えも強いようなのだ。
BYD デンツァD9
BYDシーライオン
BYD シール
BYD ソンマックス
BYD シーガル
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