トヨタ ミライ(MIRAI)長期評価レポートVol.3 発熱するFCスタックで、マイナス30度の極寒地でも「水」が凍らず走行可能! ミライの実力を雪上試乗でチェックする!! [CORISM]
優れた重量配分と低重心化で、雪道を難なくこなすトヨタ ミライ
トヨタ ミライは、FF車だけの設定で、4WD の設定はない。FFはFRに比べれば雪道に強い駆動方式だが、4WDに比べたらやや劣る。ミライが雪道でどんな走りを示すか、大いに興味深いものがあった。東京に住んでいると、ふだんは雪道を走る機会はなく、スキーなどに出かけるなら雪道も走ることになるという程度だが、いざというときのことを考えたら雪道での性能を知っておきたいと思った。
結論から先に書くと、ミライの走りは想像していた以上に雪道に強かった。これには前後の重量バランスが効いているところが大きいのだと思う。
トヨタ ミライの車両重量は、けっこう重い。モーターを始め燃料電池スタックや水素タンク、電池、制御ユニットなど、重量のかさむ部品がけっこう多いからだ。1850kgという重量は、FFのハイブリッド車 であるカムリ と比べてもざっと300kgくらい重いのだ。
その重さが前輪に1090kg、後輪に760kg配分されている。一般論として言うと、FF車の重量配分は60:40くらいが理想ともされている。ミライはほぼその通りとなる前輪59%、後輪41%の重量配分だ。この重量バランスの良さが滑りやすい路面での安定性につながっている。
また、重量の重さそのものも滑りやすい路面での安定感につながる要素だ。どっしりと落ち着いた感じの走りとなるのは、車両重量によるところも大きいという思う。
さらにいえば、クルマの低い位置に燃料電池スタックや水素タンクなどの重量物が搭載されているため、一般的なFF車に比べると重心高が低くなっている。これらのさまざまな要素によって、雪道での安定した走りが実現されている。
ちょっと意外に思えるくらいに雪道での走りの強さを発揮したのがミライだった。ちなみに、雪道での試乗車にはブリヂストン のスタッドレスタイヤ ブリザックが装着されていた。
横滑り防止装置(VSC)が早めに効果を発揮し、滑りやすい路面でも安心感がある!
そんなコースを走らせたミライが安定した走りを示したのは、重量バランスの良さに加えてVSCの制御が早めに入ることも関係している。ミライでは、ドライのオンロードでも早すぎると思えるくらいのタイミングでVSCが介入する設定とされている。
ドライ路面でそれだから、雪道ではそれ以上に早めにVSCが介入してくる感じになる。ドライ路面で介入が早いのは議論のあるところだが、雪道での介入は早いほど良いくらいだ。このVSCの設定が、走りの安定性につながっている。後輪が滑り出す瞬間にVSCの制御が入るという設定なので、安心してハンドルを切れる感じがあった。
もちろん車速や操舵角などで、無理な操作をすればスピンモードに入ってしまうが、全体的な安定性は並みのFF車の水準を超えるものがあった。
試乗コースの途中には、長い直線の登り坂というシーンもあった。ここでの発進・停止を繰り返したが、トラクションのかかり方、トラクションコントロールの効き具合にも不満はなかった。
前述したように、ミライの重量配分はFF車としてはやや後輪側が重い。これは全体的には良いことだが、登り坂での発進加速では後輪寄りの重量配分はやや不利に働く部分である。ところが、その不利を感じさせずに後輪にトラクションがかかり、車体が左右にブレることもなくスムーズに発進していくのだ。
アクセルを踏みすぎて急発進の状態になれば、トラクションコントロールの制御が入るが、それを含めて安定した坂道発進が可能だった。
この他、市街地を模した試乗コースも設定されていた。信号の手前が完全にツルツルのミラーバーン状態の路面になっていたり、あるいは車両の走行によって深い轍(わだち)が掘れていたりするシーンもあった。
さすがに、このシチュエーションは厳しかった。赤信号に変わった瞬間に急ブレーキをかけても、ABSが作動するもののずるずると進んで交差点の真ん中で止まってしまったりした。これはミライの問題ではなく路面状況の問題であり、こうしたシーンでは十分に注意して走る必要があるということだ。これは仮に4WD車であっても変わらない。
また、あるいは深い轍をまたいで右折しようとするシーンでは、前輪が反対車線の轍の中に入った瞬間に、スピンし180度回転して反対車線の轍の中にすっぽり収まって止まるようなケースもあった。これもミライの問題ではなく、路面状況の問題である。
いずれのシーンでも雪道の手強さを感じさせると同時に、完全な破綻を示すところまではいかないミライの走りのしぶとさも感じられた。
個人的には、トヨタ ミライを購入した後で、積極的に雪道を走ろうとは思わないが、雪道を走る前提での使い方も十分に可能であることが分かった。
素朴な疑問。排出される「水」が凍結して、走れなくなることはないのか?
こうした心配は、当然のことだ。しかし、この当然と思えるようなリスクを世界初の市販燃料電池車を開発した世界屈指の頭脳をもつミライの開発陣が、気が付かないことはないというのも当然だ。こうしたリスクは、完全に取り越し苦労であることも確認できた。
トヨタ ミライは、化学反応によって電気を発生し、そのときに同時に水を排出するのは間違いない。でも燃料電池スタックの中で発電時に発生する水は、燃料電池の発熱のためにぬるま湯くらいの温度がある。なので燃料電池内で発生した水が凍結することはない。
また、発生した水はそのまま垂れ流しにするのではなくタンクに貯め込んでおく仕組みになっている。この水はインパネに設けられたH2Oボタンを押して走行中に意図的に排出することが可能なほか、駐車場などに停めてシステムをオフにしたときに排出されるから、貯めた水が凍結することはないのだ。
マイナス30度の極寒でも使えるトヨタ ミライの秘密は「逆転の発想?」
そこで、トヨタ は氷点下始動直後の発電性能や暖機性能の向上を行った。多種多彩な手法を用いているのだが、面白いのが逆転の発想から生まれた凍結防止方法だ。電気を発生するFCスタックは、一定の熱を発生する。熱が大きいということは、エネルギーをロスしていることになる。そのため、FCスタックの開発は極力無駄な熱を抑え、効率よく電気に変換する。この「FCスタックの熱」こそが凍結防止に役立った。
FCスタックは、より効率よく稼働させるために発熱を抑え効率を重視してきた。逆に、効率を落とせばより発熱し、凍結を防ぐことができる。これが逆転の発想。そこで、あえて始動直後はFCスタックの効率を下げ熱を発生させ暖気。始動後、70秒でミライは100%の出力を確保することができた。始動35秒で60%の出力が確保できるので、通常走行するのであれば、なんら問題ないことも分かる。こうした排出される水の管理により、マイナス30度という極寒でも、ミライは普通に使用できる燃料電池車となったのだ。
こうした寒冷地では、スタートボタンを押したときにはシステムが立ち上がってREADYの表示が出るまでの時間が多少は長くなるようだが、それもわずかな違いでしかない。寒冷地であっても水素スタンドのインフラが整えば、トヨタ ミライを走らせることに何の問題はないのだ。
トヨタ ミライ価格、航続距離、スペックなど
代表グレード | トヨタ ミライ(TOYOTA MIRAI) |
---|---|
ボディサイズ[mm](全長×全幅×全高) | 4,890×1,815×1,535mm |
ホイールベース[mm] | 2,780mm |
トレッド前/後[mm] | 1,535/1,545mm |
車両重量[kg] | 1,850㎏ |
最小回転半径[m] | 5.7m |
FCスタック型式 | FCA110 |
FCスタック最高出力[kw(ps)] | 114(155)kw(ps) |
高圧水素タンク容量[L](2本) | 122.4L(前方60.0L/後方62.4L) |
モーター最大出力[kw(ps)] | 113(154)kw(ps) |
モーター最大トルク[N・m(kg-m)] | 335(34.2)N・m(kg-m) |
駆動用バッテリー | ニッケル水素電池 |
容量[Ah] | 6.5Ah |
サスペンション(フロント/リヤ) | ストラット式コイルスプリング/トーションビーム式コイルスプリング |
最高速度(㎞/h) | 175㎞/h |
一充電走行距離距離[㎞] | 約650㎞(JC08モード走行パターンによるトヨタ測定値) |
定員[人] | 4人 |
税込価格[円] | 7,236,000円 |
発表日 | 2014年11月18日 |
レポート | 松下 宏 |
写真 | トヨタ/編集部 |
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