トヨタ ミライ(MIRAI)長期評価レポートVol.13 公道5,000㎞走破! 実生活で使って分かった魅力と課題とは?
5,000㎞走行時の平均燃費は109.7km/kg! 燃料費は53,488円、高い? それとも安い?
トヨタミライ が納車され、3カ月間でちょうど5000kmの距離を走った。ひとつの区切りとなる距離を走ることができたと思う。そこで、5000km走った結果を改めてレポートしたい。
5000kmを走る間に水素を17回充填した。以前に乗っていたBMW320d はクリーンディーゼル だったので航続距離が長く、5回とは言わないがせいぜい10回も給油をすれば5000kmを走れたから、それに比べるとミライは充填スタンドに足を運ぶ回数が多くなる。その気になれば満タンで1000km走れるBMW320dと比較したのでは相手が悪いが、ミライの航続距離が短いことが充填回数の多さにつながっている。
水素の合計充填量は、17回で45.58kgになった。5000kmの距離をこれで割ると燃費は109.7km/kgだったことになる。全体として高速道路を走った距離が多かったが、燃費としてはまずまずの数値であるといえよう。水素タンクは約5㎏なので、ざっくり550㎞走れる計算になる。
参考までに、この17回の水素充填に要した費用は5万3488円だった。この金額を5000kmで割ると、1km当たり10.7円かかった計算になる。またまたBMW320dと比較したので税金の安い軽油との比較なので分が悪くなるが、ざっと計算して比較してみよう。
私が乗っていた間のBMW320dの生涯燃費は17.4km/Lだった。5000km走るのに必要な軽油の量は287.4Lだったことになる。直近の軽油価格は113.4円とのことなので、これを掛けると3万2591円になる。ミライにしたことで燃料代が2万897円余分にかかった計算である。これは3カ月間の数字だから年間で換算すると8万3588円である。ミライというまったく新しい次世代車に乗れることを考えたら、この程度の負担増は十分に許容範囲である。
さすがに、クリーンディーゼル車相手だと分が悪いので、ガソリン車と比較してみよう。クラウン のハイブリッド 車が良い比較対象になると思う。クラウンのハイブリッド車はJC08モード燃費が23.2km/Lで、この燃費で5000kmを走ったとすると、215.5Lのガソリンを必要とする。最近のレギュラーガソリンの価格である135.4円を掛けると2万9179円である。軽油代よりガソリン代のほうが高いがカタログ燃費で計算したので、燃費が良いために軽油よりも安上がりになる計算になった。
一般的に言われる実用燃費は、JC08モード燃費の七掛程度ということで計算すると、4万1784円になり、水素代との差額は年間で4万7000円ほどになる。水素代はハイブリッド車並みの燃料代負担ということで算出されたものらしいが、現実には水素代のほうがやや高くついている。ただし、ハイブリッド車は燃費が良いのでこういう結果になったが、ガソリン車と比べれば、水素の方が安く済んでいることは明確だ。
現在の時点ではまだ、水素は本当に商業ベースに乗っているわけではなく、わずかな台数の燃料電池車のためにわざわざ作っているような状態である。今後、燃料電池車の台数が増えてくれば水素の作り方が変わって価格も安くなることだろう。逆に現在は課税されていない燃料課税も実施されることになると考えられる。水素のランニングコストについて語るのはその先のことである。
圧倒的な静粛性。アクセル操作した瞬間に反応する力強い走行フィーリングに高評価
ミライに乗って走った5000kmは、全体としてとても満足できるものだった。静かで快適かつスムーズで力強い走りは特に好感が持てる。ほとんどのシーンをエコモードで走っていて、元気良く走らせたりしたことは少ないが、ワインディングなどでの走りも安定感がある。これは重量物が中心に近く、低い位置に配置されていることによる低重心化が大きい。
しかも、ボディが大きく重いのに、それに負けない走りを示してくれる点も高評価だ。ミライに搭載されるモーターの動力性能は113kW(154ps)なので、数値上は特にパワフルなものではないが、実際の走りはそれ以上のものを感じさせる。ミライの最大トルクは335Nm。モーターはトルクの立ち上がりが早いので、アクセルを踏み込むと瞬時に、この335Nmという大トルクでグイと前に出ている印象がある。追い越し加速や合流のときに、とても楽に走れるのが良い。結果的に、疲労感も少ない。
また、ミライの静粛性は非常に優れている。逆に静か過ぎるので、通常色々な音で打ち消されているはずの入ってこない音が入って来る。エンジン音や排気音がないので、最も気になるのはロードノイズだ。ロードノイズは路面とタイヤによる影響が大きいが、静かであれば静かなほど良い。これだけ静かだと、もっと、下げられるのではないかと思う。
音に関して言うと、制動時に回生ブレーキが働くときの音も大きめに聞こえる。最近、プラグインハイブリッド 車のゴルフGTE に試乗したが、回生ブレーキの音は全く気にならないレベルに抑えられていた。
ミライの未来は軽量・小型化がカギを握る?
今後のミライの未来を考えると、軽量・小型化が大きな課題だと思う。5mに近い4890mmの全長と1815mmの全幅は日本での使い方を考えると大きすぎる。つい最近も品川グランドホールの機械式駐車場に入れようとしたら、微妙なところで全長がセンサーに引っ掛かり、何度か前進と後退を繰り返さないとちょうど良い位置に納まらなかった。
1800mmを超える全幅も二段重ね、三段重ねの機械式駐車場を利用していると、車庫証明が取れないケースも大きい。全幅1800mmを基準にして設計されているからだ。
1533mmの全高は問題になることは少ないが、タワーバーキングの中には1500mmを基準にしている例もあるのでやはり大きすぎる。
ミライのボディの大きさは、燃料電池のシステムの大きさに起因する部分が多いのだろう。ミライというクルマをまとめるにあたって、いろいろな部分で軽量化や小型化を進めたはずだが、それでもまだ大きい。
これは、初めての市販燃料電池車ということもあって、安全マージンを十分に取っていることなども影響していると思う。今後は燃料電池スタックやコントロールユニットなどは、だんだんに小さくなっていくだろうが、現在のサイズだとクルマのサイズも前述のように大きくなってしまう。
将来的に燃料電池車を普及させようとするなら、プリウス くらいのサイズにすることも必要になる。プリウスくらいのサイズになったとしても、航続距離を考えたら水素タンクの容量は小さくできないだろう。逆に容量は大きくしたいくらいだ。水素タンクも含め、燃料電池スタックや制御系の部分での軽量・小型化が必要である。
航続距離は、まだまだ物足りないものがあるが、インフラ整備が進めば解決される?
軽量化が進めば、それによってミライのもうひとつの課題である航続距離も長くなるはずだ。ミライの車両重量は1850kgもあってかなり重い。それでも元気良く走れるとはいえ、軽くなればもっと軽快な走りも可能になるはずだ。プリウス並の1300kg~1400kg台にまでしろとは言わないが、せめてレクサスHS 並の1600kg台には抑えてほしいところである。
航続距離はJC08モードで650kmという数値と実際に可能な航続距離との乖離が多いように思う。水素を満タンにしたときに表示される航続可能距離は430kmほどであることが多く、これはJC08モードの650kmに対して66%ほどの数値である。これは、完全に水素タンクを空にできないため、かなりマージンをとっているとはいえ、せめて東京から箱根を2往復できる500km以上の航続距離を正味の数字として確保して欲しいところだ。
実際に走らせて確認したように、高速巡行など条件の良い走りをするなら東京から名古屋まで軽く走れるのだが、いろいろな走りをしても500kmくらいの航続距離が確保できるともっと良い。現在の航続距離でも、一昔前の3.0Lクラスのセダン 並み。このくらいの航続距離だとしても、水素ステーションが現在のガソリンスタンドくらいあれば、なんの問題も無く乗れる。しばらくの間は、インフラ頼みであるということになる。
来年3月に発売されるホンダクラリティFC の燃料電池車は、JC08モードでミライよりも100km多く走れることを発表している。航続距離が、なぜ長いのかは発表されておらず、燃料電池の効率が高いのか、水素タンクの容量が大きいのか分からないが、当面は燃料電池車の航続距離が競争になるのは間違いない。
ただし、ミライがクラリティFCに比べ優れている点は、一般に販売したことだ。ホンダ クラリティFCは、しばらくの間、法人などのリースに販売に限られるという。こうした売り方を比べるだけでも、トヨタはミライの完成度にかなり自信があるということにもなる。
このほか、すでに書いたことだが、足踏み式バーキングブレーキを電気式にし、クルーズコントロールを全車速対応型にし、プリクラッシュセーフティシステムをトヨタセーフティセンスPにすることなどが望まれる。現状のミライの仕様では、安全装備面がやや未来感覚に欠け物足りなさを感じる。
トヨタ ミライ価格、航続距離、スペックなど
■トヨタ ミライ価格:7,236,000円
代表グレード | トヨタ ミライ(TOYOTA MIRAI) |
---|---|
ボディサイズ[mm](全長×全幅×全高) | 4,890×1,815×1,535mm |
ホイールベース[mm] | 2,780mm |
トレッド前/後[mm] | 1,535/1,545mm |
車両重量[kg] | 1,850㎏ |
最小回転半径[m] | 5.7m |
FCスタック型式 | FCA110 |
FCスタック最高出力[kw(ps)] | 114(155)kw(ps) |
高圧水素タンク容量[L](2本) | 122.4L(前方60.0L/後方62.4L) |
モーター最大出力[kw(ps)] | 113(154)kw(ps) |
モーター最大トルク[N・m(kg-m)] | 335(34.2)N・m(kg-m) |
駆動用バッテリー | ニッケル水素電池 |
容量[Ah] | 6.5Ah |
サスペンション(フロント/リヤ) | ストラット式コイルスプリング/トーションビーム式コイルスプリング |
最高速度(㎞/h) | 175㎞/h |
一充電走行距離距離[㎞] | 約650㎞(JC08モード走行パターンによるトヨタ測定値) |
定員[人] | 4人 |
税込価格[円] | 7,236,000円 |
発表日 | 2014年11月18日 |
レポート | 松下宏 |
写真 | トヨタ/編集部 |
コメント
■ミライの高速走行安定性について
ミライが昨年の4月に納車とは、私よりも1~2カ月早いじゃないですか。凄いで
すね。
私のミライは、条件の許すところでは100km/hを大きく領域での走りも試してい
ますが、走行安定性に不満を感じるようなシーンはありませんでした。
同様にトヨタ自動車の広報車両に試乗しても安定性に不満を感じるシーンはあり
ませんでした。
ミライは一般のクルマに比べると、重心高の低さからむしろ走行安定性に優れる
クルマという印象を持っています。
おっしゃるふらつきがどのようなものか、そのクルマに乗っていないので分かり
ませんが、ちょっと理解しがたいところです。
全高がやや高めなので横風の影響を受けやすい面があるかも知れませんが、それ
だってミニバンなどに比べたらずっと良いです。
【関連記事】
- BYDシール(SEAL)試乗記・評価 日本勢脅威のスポーツセダン【その他】
- 日産、ホンダ、三菱連合誕生! トヨタ、ダイハツ、マツダ、スバル同盟に対抗? それとも「オールジャパン」体制への布石?【日産】
- スズキ、10年先を見据えた技術戦略とは?【スズキ】
- ヒョンデ アイオニック 5 N(IONIQ 5 N)試乗記・評価 驚異の走りと脅威な価格【その他】
- ホンダN-VAN e: 新車情報・購入ガイド ライバル発売延期で、千載一遇のチャンス!?【ホンダ】
- 日産アリアNISMO(ニスモ)試乗記・評価 走りを極めたプレミアムスポーツEV!【日産】
- 2024 バンコク国際モーターショーレポート VINFAST編【BLOG】
- 2024 バンコク国際モーターショーレポート Zeekr編【BLOG】
- 2024 バンコク国際モーターショーレポート シャオペン編【BLOG】
- 2024 バンコク国際モーターショーレポート GAC/AION編【BLOG】
【オススメ記事】
- ホンダWR-V試乗記・評価 大満足か後悔か? 成功か失敗か? 見極め重要なコンパクトSUV【ホンダ】
- 日産エクストレイル(T33型)vs トヨタ ハリアーハイブリッド(80系)徹底比較!【対決】
- 日産フェアレディZ新車情報・購入ガイド 2025年モデルが登場! 納期は? 転売ヤー対策は?【日産】
- BMW M2クーペ(G87)試乗記・評価 「サーキットで乗ってみたい!」クルマ好き女子が試乗!【BMW】
- 2024-2025日本カー・オブ・ザ・イヤー、栄えある10ベストカーが決定! 今年のナンバー1は、どのクルマに!?【イベント】
- 2024-2025日本カー・オブ・ザ・イヤー、ノミネート車31台が決定!【イベント】
- マツダCX-80試乗記・評価 すべてに大人の余裕を感じた国内フラッグシップ3列SUV【マツダ】
- 三菱 アウトランダーPHEV新車情報・購入ガイド 大幅改良&値上げ。それでも、コスパ高し!!【三菱】
- スズキ フロンクス試乗記・評価 価格、燃費値を追加。欧州プレミアムコンパクトに近い上質感【スズキ】
- 日産セレナAUTECH SPORTS SPEC新車情報・購入ガイド 走りの質感を大幅向上した特別なモデル【日産】
CORISM公式アカウントをフォローし、最新記事をチェック!