同じCセグメントSUVに2台のモデルを投入したマツダ
マツダは、新型のコンパクトSUVであるMX-30の発売を開始した。新型マツダMX-30は、すでに発売済みのコンパクトSUVであるCX-30の基本骨格などをベースとしたモデル。マツダは、同じクラスに異なる2つのSUVを投入したことになる。
一般的に、同じクラスに異なるモデルを2車種投入することは異例。トヨタのように、販売チャネルが多く人気カテゴリーのモデルであると、ヴォクシーやノア、エスクァイアといった姉妹車を投入し差別化して対応していた。この方式は、ちょっとしたデザイン変更程度の差別化とはいえ、非常に効率が悪い。そのため、トヨタでさえ全ディーラー全車種扱いとして、車種を整理していく方向性に舵を切っている。
圧倒的な販売台数を誇るトヨタでさえ、同じクラス複数の車種を投入することをやめているのに、マツダはあえて逆張りする戦略をとった。一般的な営業戦略と比べると、奇策と言える手法だ。
新規顧客獲得が狙い?
当然のことながら、同じセグメントに2車種を投入するということは、カニバリ(共食い)が発生する。マツダとしても、カニバリの発生は織り込み済み。それでも、あえて挑戦する意味があった。
その大きな理由のひとつが、従来のマツダ顧客系とは違う新規顧客の獲得だ。従来のマツダ車は、精悍なデザインやこだわりの走行性能などがメインの訴求ポイントで、古典的なクルマ好き向けともいえる。しかし、こうした顧客層だけでは、顧客は増えず企業としての成長は難しくなる。
そこで、従来のマツダ車とは、かなり毛色の違うMX-30を投入することで、新たな顧客層獲得を狙った。
カニバリは想定内。より、顧客のニーズに合ったモデルを投入し、販売台数の底上げを目指す
とはいえ、新規顧客の獲得は用意ではない。MX-30は、デビュー直後から注目されていて、マツダのウェブサイトには、CX-30のデビュー時と比べると約2倍のアクセスがあった。店舗への来店も多く、今のところ販売は好調だ。
すでに、MX-30での来店からCX-30の購入。逆に、CX-30での来店からMX-30の購入など、カニバリも発生している。
ただ、これは、無駄なことではなく、最終的にMX-30を投入したことで、マツダ車全体の販売台数が伸びればよい。
例えば、CX-30の月販販売目標は2,500台。MX-30の月販販売台数は1,000台だ。合計3,500台の月販目標台数になる。MX-30の月販販売台数は、少々弱気に感じるが、2車種合わせて3,500台以上がコンスタントに売れるようであれば、同セグメント2車種投入戦略は成功ということになる。CX-30とMX-30のキャラクターは、大きく異なることから、十分に目標を達成できるとマツダは考えている。
まぁ、よく考えてみれば、すでに軽自動車マーケットは、同じ軽自動車枠に、ロールーフ系、ハイト系、スーパーハイト系、さらにカスタム系などが加わり、非常に多くの車種が存在する。これは、顧客ニーズの多様化に対応した結果だ。その多様化に上手く対応したことから、軽自動車マーケット全体が徐々に大きくなってきている。
こうした状況を考えれば、マツダの同一セグメントに2車種戦略には活路ありだろう。より、自分好みのクルマが選べれば、顧客にとってデメリットは、それほどない。
マツダ車では稀なゆるいデザイン?
そんな新型マツダMX-30は、「わたしらしく生きる」をコンセプトに、クルマとともに自然体で自分らしい時間を過ごしていただくことを目指し、創造的な時間と空間を提案する、コンパクトSUVとした。
新型MX-30のデザインは、CX-30や他のマツダ車とは、かなり毛色の異なるデザインとなった。従来のマツダ「魂動デザイン」を継承しながらも、魂動デザインの拡がりにチャレンジする「Human Modern」をデザインコンセプトとした。クルマに対する価値観の変化や、新しいライフスタイルに寄り添うことを目指し、親しみやすさや温かみを感じるデザインだ。
従来のマツダデザインは、睨みの効いた精悍な顔つきでスポーティさを感じさせる。しかし、MX-30は、むしろそうしたデザインはとは逆で、ピンと張った緊張感はあまりなく、全体的に少しユルイ印象がする。全体的に、やや可愛らしくゆるキャラ的な愛嬌もある。
また、リヤの筒型テールランプなど、ややクラシカルなイメージながら斬新さをアピールしている。
観音扉のフリースタイルドアを装備し個性を主張
そして、MX-30最大の特徴ともいえるのが、フリースタイルドア。少々分かりにくいネーミングだが、端的にいえば中央から左右に開く観音扉だ。
そのため、MX-30にはBピラーがない。マツダは、センターオープン式としたことで、移動することなく前後ドアの開閉操作を行うことが可能で便利とアピールする。
しかし、後席に座ると自分でドアの開閉はできない。リヤシートを倒したり引き起こしたりする場合、一度フロントドアを開けてからでないとリヤドアを開けず、手間がかかるなど、利便性が高いとはいえない。むしろ、デザイン的にちょっと個性的なモデルであることをアピールしたいために使っている印象がある。
コルクを使った温かみあるインテリアデザイン
インテリアは、気品あるスタイリッシュなデザインだ。インパネは、水平基調でスッキリとした広々感あるデザインだ。そして、太めでタフネスさを主張するセンターコンソールは、ボルボ的なフローティングタイプ。
そのセンターコンソールのパネルには、クルマ用としては珍しいコルク材使用している。コルク素材が使われたことで、最近のマツダ車にはない明るく温かみのある空間に仕上げており好印象だ。
コルクは、一般的に崩れやすくクルマ用としては使いにくい素材。しかし、マツダは、コルクの間に樹脂を浸透させるなどの技術より、クルマ用の素材として成立させている。
さらに、地球環境に優しい素材も積極的に採用されている。コルクも自然に優しい素材。そして、ペットボトルのリサイクル原料を素材としたドアトリムアッパー部素材、一部のシートには、リサイクル糸を約20%使用したファブリックを採用している。
機能面では、エアコン操作パネルをマツダは車初となる7インチタッチタイプとした。
顧客メリットの少ないマイルドハイブリッドシステム
新型マツダMX-30は、すでに欧州でEV(電気自動車)として発売されている。日本市場向けのEV車は、やや遅れて2021年1月に発売を予定。
その間、メインになるのは、24Vのマイルドハイブリッドシステムを搭載した2.0Lガソリンのe-SKYACTIV Gとなる。このe-SKYACTIV Gには、156ps&199Nmの2.0Lガソリンエンジンに、6.9ps&49Nmのモーターが加わる。
欧州などで中心になっているのは、48Vのマイルドハイブリッドシステム。これに対して、マツダは24Vを使う。出力や効率という面では48Vに分があるが、やはりコストは高めになる。
さらに、マツダは独自の火花点火制御圧縮着火(SPCCI)技術を採用したスカイアクティブXも24Vのマイルドハイブリッドシステムを搭載。マツダにとって、24Vマイルドハイブリッドシステムの方が、既存の技術やシステムを活用できコストを低減できるメリットもある。
ただ、その分、燃費への貢献度は低い。燃費は15.6㎞/L(FF、WLTCモード)に止まった。CX-30ガソリン車の燃費が15.4㎞/Lなので、ほとんど差がないと言っても良い。これでは、顧客メリットは無いに等しい。
マツダファン以外の新規顧客を得るためには、やはり減税メリットの大きいストロングハイブリッド車の投入が必須だ。クルマが生活の中心にない顧客にとっては、燃費の良さから得られるランニングコスト低減は大きなメリットとなる。アクセラで行ったように、トヨタとの提携により開発されたハイブリッドシステムも搭載すべきだろう。
右直事故にも対応した自動ブレーキ機能を追加
新型マツダMX-30の予防安全装備は進化した。CX-30に装備されている歩行者(昼間/夜間)、自転車(昼間)検知可能な自動ブレーキは、右直事故回避アシスト機能もオプション設定された。
すでに、こうした類似した機能をもつ自動ブレーキは、1クラス下のトヨタ ヤリスクロスに1グレードのみを除き標準装備化されている。
マツダは、エントリーグレードであっても予防安全装備を充実させている。これは、高く評価できる。ブラインド・スポット・モニタリングなど、ヤリスクロスには標準装備化されていない装備がMX-30では標準装備化されているが、本来なら、こうした実際の事故形態に合致し予防安全機能として大きなメリットがある右直事故回避アシスト機能も標準設定するべきだ。
マツダMX-30価格
・MX-30 FF 2,420,000円/4WD FF 2,656,500円
・MX-30 100周年特別記念車 FF 3,157,000円/4WD 3,393,500円
マツダMX-30燃費、ボディサイズなどスペック
代表グレード:MX30(FF)
全長×全幅×全高 4,395×1,795×1,550mm
ホイールベース 2,655mm
トレッド前:後 1,565mm
最低地上高 180mm
車両重量 1,460kg
エンジン 直列4気筒DOHC+マイルドハイブリッド
エンジン型式 PE-VPH型
排気量 1,997cc
最高出力 156ps(115kW)/6000rpm
最大トルク 199Nm(20.3㎏f-m)/4000rpm
モーター型式 MJ型
最高出力:6.9ps(5.1kW)/1800rpm
最大トルク:49Nm(5.0㎏f-m)/100rpm
WLTCモード燃費 15.6㎞/L
最小回転半径 5.3m
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