日本の誇りともいえる世界初の量産FCVが初代ミライ
トヨタは、FCV(燃料電池自動車)である新型「ミライ(MIRAI)」をフルモデルチェンジし発売を開始した。このフルモデルチェンジで、ミライは2代目となった。
初代ミライは、世界初の量産FCV(燃料電池車)として2014年に登場。水素を燃料とし、空気中の酸素と化学反応をさせ電力を得て、その電力でモーターを駆動して走る。排出されるのは水だけ。そのため、究極のエコカーとも言われている。
日本の技術を代表するモデルということもあり、初代トヨタ ミライは日本カー・オブ・ザ・イヤー実行委員会特別賞を受賞。日本カー・オブ・ザ・イヤーのレギュレーションを満たしていなかったのだが、日本カー・オブ・ザ・イヤー実行委員会が、日本のクルマの歴史として、後世に残すべきモデルと判断したのだ。
初代トヨタ ミライは、まさにトヨタの技術の結晶ともいえるモデル。その完成度は高く、発売当初から個人ユーザーへの販売されていた。
こうした先進技術の塊のようなクルマは、限られた法人リースから始まるパターンが多い。実際に、やや遅れて登場したFCVであるホンダ クラリティFUEL CELLは、当初法人リースのみ。最近になってようやく個人リースも開始した。
リース契約にすることで、何かしらのトラブルがあった場合、すぐに車両を回収できるメリットがある。検等も確実に行われ、メーカーとしてデータの収集やトラブルの早期対応がしやすいメリットなどもある。
個人に売ってしまうと、その後どう扱われて、どんなトラブルが起きるか分からないリスクがある。簡単に言ってしまうと、少々トラブルが心配なクルマはリース販売というのがセオリーでもあるのだ。
つまり、初代ミライには、そんなリスクなどなく、完成度が高さへの自信から、発売直後からの個人販売を可能としたのだ。
トヨタは不思議な会社?
さらに、驚きだったのが価格。 デビュー当時の価格は7,236,000円。ほとんど手作りでとも言われ、超赤字モデルともいわれていた。
そんな破格な価格とはいえ、車両価格は700万円超え。庶民には、関係のないクルマ的だったが、国の補助金が約200万円も出た。東京都に至っては、さらに約100万円の補助金が出ていた。実質300万円前後の補助金が出ると、ミライの価格は400万円台まで落ちる。世界最先端の技術を搭載したミライが400万円台で買えるという夢のような状態だったのだ。
そんな初代トヨタ ミライ、非常にコスト高だったこともあり、長期に渡り販売されると思われていた。しかし、デビューから6年という短い期間でのフルモデルチェンジとなった。このフルモデルチェンジ、スキンチェンジなどと呼ばれる外板パネルなどを変えるなどをしたものではなく、ほぼすべてが新開発されている。
これは、コストを重視するトヨタの中でも異例中の異例。トヨタは、恐らくしばらくの間、ミライで大きな利益を出そうとはしていないと推測できる。むしろ、ミライは未来への投資ともいえるのかもしれない。
過去を振り返れば、初代プリウスも売れば売るほど赤字になると言われていた。トヨタは、ごく稀に儲けるクルマと未来への投資は別として、ミライのように振り切ったモデルを出すことがある不思議な会社だ。
FCシステムは、クルマだけではなく、日本のエネルギー政策にも大きな影響を与えるものだ。再生可能エネルギーの多くは、電力としては安定供給しにくい。しかし、電力を一旦水素にして保存すれば、持ち運びも可能で、さらに必要な時にFCシステムで発電すれば安定供給できる時代になるかもしれない。クルマの未来だけでなく、日本の未来へのカギも握る。トヨタが静岡県裾野市に建設予定の「Toyota Woven City」(トヨタ・ウーブン・シティ)でも、FCシステムは、重要なエネルギー供給システムのひとつとなっている。
走る楽しさを重視したFR化した新型ミライ
そんな2代目新型トヨタ ミライの開発コンセプトは「EDGE For FUN FUTURE」。少々分かりにくいのだが、EDGEとはEmotional Distinctive Genius Enjoyableの頭文字を取ったもの。トヨタによると、感性に訴えるデザイン、唯一無二の走り、一歩先を行くあふれる先進性、安心の航続距離を備えたクルマということになっている。
まず、新型2代目ミライは、駆動方式が変更された。初代ミライはFF(前輪駆動)だった。新型2代目ミライでは、レクサスLSやクラウンなどに使われているGA-LプラットフォームをベースとしFR(後輪駆動)に変更されている。
初代ミライやEVなどのエコカーは、環境性能はよいが走って楽しいクルマではない、という間違った印象が強いようだ。しかし、モータードライブ車の多くは、アクセルレスポンスに優れ、低重心化されており、ガソリン車以上にスポーティな走りを誇る。2代目新型ミライでは、そんなエコカーの悪いイメージを払拭するために、走りの楽しさを磨いている。そのため、FR化でもあるり、ドライバーの意のままに走れるハンドリング性能を手に入れている。
また、FCシステム/駆動系の配置変更に加え、フロントオーバーハングを極限まで切り詰め重心位置を中央に設定。車両の重心から離れた部材にアルミ材などを使用し軽量化を図るなどの対策を徹底。その結果、前後の重量配分は理想的な50:50とした。こうした低重心化と重量配分により、2代目新型ミライは、俊敏なコーナリング性能、気持ちの良いハンドリングを手に入れている。
ワイド&ロー化されスポーティなセダンへ
最新GA-Lプラットフォームの採用により、FR化された2代目新型ミライは、デザイン面でも大きく変化している。ボディサイズは、全長が4,975mm、全幅1,885mm、全高1,470mmとなっている。全長は+85mm、全幅は+70mm、それぞれ拡大。全高は-65mm下げられている。初代ミライと比べると、よりワイド&ローでスタイリッシュなシルエットになっていることが分かる。
新型2代目ミライのデザインコンセプトは「SILENT DYNAMISM」。全体のシルエットは、流行りのクーペルックのセダン。ルーフラインは、前方から後方へ向けて緩やかに傾斜し、クーペのようなシルエットをもつ。
フロント部分は、FRモデルらしく短いオーバーハングが特徴。ロングノーズショートデッキ的で、FRのクーペ的でなかなかスタイリッシュだ。レクサス系のモデルは、複雑な線と面、強烈なキャラクターラインが組み合わされ、かなり濃いスタイリングになっているが、2代目新型ミライはレクサス系とは異なるデザイン手法となった。キャラクターラインに頼らない“ミニマルで大らかな” 造形となっていて、シンプルなカッコよさが光る。
フロントフェイスでは、側面まで流れるように配されたシャープで切れ長のヘッドランプを採用。上段にスリット感覚で薄くワイドに見せるターンランプを下段とした2段構成のデザインとなっている。フェンダーまで続く長いデイライトとメインユニットを囲むメッキ加飾が印象的で、ひと目で2代目新型ミライと分かるシンプルなデザインとした。
リヤコンビネーションランプは、シンボルマークを跨いで横一文字に伸びる薄型のデザインとなった。ターンランプ、バックアップランプが収まる下段を暗く落とすことで赤レンズの薄さを際立たせ、先進感をアピールした。また、一筆書きのようにつながった3本のグラデーションラインで、オリジナリティあるリヤビューとしている。
ミニマルさを目指すも、意外とコッテリ系なインテリア
インテリアのデザインコンセプトは「SILENT DYNAMISM」。ミニマルな機能表現と乗員を包み込む素材感の新しいコーディネートで、運転する楽しさ/高揚感と乗員のリラクゼーションを同時に叶える考え方でデザインされている。
トヨタはミニマルなデザインとしているが、やや色々な装飾は立体的な面の組み合わされていて、コッテリとした印象がある。FCVシステムに代表するような、圧倒的な先進感といったデザインではないようだ。前面液晶モニターになったホンダeの方が先進性があるように見える。せっかくのFCVなのだから、ホンダeやレクサスESのようにデジタルアウターミラーくらいは装備してもよかったかもしれない。
センターコンソール上部には、12.3インチ高精細TFTワイドタッチセンターディスプレイを設置。また、メーターは8.0インチTFTカラーメーターが装備される。
また、2代目新型ミライでは、法人需要に対応するために「エグゼクティブパッケージ」設定。後席からシートヒーター・シートベンチレーションをはじめ、オーディオ・エアコン・電動式リヤサンシェードなどの操作を行えるコントロールスイッチを採用。また、リヤドアイージークローザーや肩口パワーシートスイッチ(助手席)、可倒式ヘッドレスト(助手席)などが装備される。
FCシステムを刷新。航続距離は850㎞へ!
そして、2代目新型ミライのパワーユニットであるFCシステムは刷新され、高性能化・小型軽量化。さらに、航続距離の拡大も達成した。
FCスタックなど主要パワーユニットは、フード下のコンパートメントに配置。高出力モーターと駆動用バッテリーはリヤにレイアウトした。また、高圧水素タンクは、従来の2本から3本へ変更。その内1本は、センタートンネル内に設置するなど、居住性を犠牲にしないように配慮されている。
新開発の燃料電池ユニットは、小型化と世界最高レベルの高出力を実現。FC昇圧コンバーターは、燃料電池の出力を制御し、その電圧を駆動用モーターの高電圧システムへ昇圧。今回、次世代の半導体材料シリコンカーバイ(SiC)を用いたパワーMOSトランジスタをトヨタ初採用。高出力化に貢献している。
その結果、2代目新型ミライの燃料電池ユニットは、出力密度:5.4kW/L、最高出力:128kW(174PS)を達成してる。初代ミライが出力密度:3.5kW/L、最高出力:114kW(155PS)だったので、大幅に能力が向上している。
駆動用モーターも高出力され、従来の154PSから182PSとなった。最大トルクは、若干減少し335Nmから300Nmとなっている。
また、水素タンクの容量も増えた。初代ミライは122.4Lだったが141Lとなっている。FCスタックの改良も含め、航続距離は850㎞と大幅に伸びている。
空気をキレイにするクルマ?
2代目新型ミライで驚いたのが「ゼロエミッション」の先を行く、「マイナスエミッション」へ、という考え方だ。走れば走るほど空気をきれいにするという仕組みが取り入れられている。
この仕組みは、発電のため走行時に空気を取り入れるFCVだけの特長を活かしたもので、吸入した空気をきれいにして排出するというものだ。トヨタは、ミライに「空気清浄システム」を開発し搭載。
このシステムは、エアクリーナーエレメント(ダストフィルター)に加工を施しPM2.5レベルの細かい粒子まで捕捉。ケミカルフィルターで有害な化学物質を除去するとともにPM2.5の発生を抑制する。このシステムにより、2代目新型ミライは、走れば走るほど大気を浄化するクルマとなっている。
最新の予防安全装備に、自動運転時代を予感させるハンズオフ機能も
2代目新型ミライの安全装備は充実している。昼夜の歩行者、昼間の自転車を検知し、もしもの時は自動ブレーキを作動させる機能の他、交差点右折時の対向直進車両、右左折時に前方から横断して来る歩行者を検知し、衝突回避・被害軽減を支援する最新の「トヨタセーフティセンス」が標準装備されている。実際の事故形態にマッチしたもので、より衝突リスクを軽減してくれる機能だ。また、車道の歩行者に対して、車線を逸脱しない範囲の操舵アシストを行いドライバーの衝突回避を支援可能となっている。
運転支援機能では、カーブ走行時、システムが速度抑制を必要と判断した場合、ハンドルの切り始めで速度抑制を開始し、切り戻しで速度抑制を終了する機能を追加したレーダークルーズコントロール装備。
高速道路などで、レーントレーシングアシスト作動中に、体調急変等でドライバーが無操作の際、徐々に車両を減速させ、安全な停車を支援するドライバー異常時対応システムも用意。
また、高齢者の多いペダル踏み間違い事故への対応として、障害物がないシーンにおいても、ペダル踏み間違いを検知し加速を抑制する「プラスサポート」も全車に装備した。
2021年発売予定のモデルには、最新の運転支援機能である「Advanced Drive」が搭載される。この機能は、自動車専用道路での運転において、ドライバー監視のもと、実際の交通状況に応じて車載システムが適切に認知、判断、操作を支援し、車線・車間維持、分岐、レーンチェンジ、追い越しなどを実現。いわゆる、ハンズオフ機能をもつ自動運転により近付いた運転支援機能だ。この機能により、より安全で快適な移動が可能になる。
高度運転支援技術「Toyota Teammate」は、トヨタ独自の自動運転の考え方である「Mobility Teammate Concept」に基づいて開発した最新の高度運転支援技術を採用。ディープラーニングを中心としたAI技術も取り入れ、運転中に遭遇しうる様々な状況を予測し、対応することを支援する。
さらに、Toyota Teammateではソフトウェアアップデートを活用。車両が顧客の手に渡った後も機能追加、性能向上を可能としている
また、2代目新型ミライは、FCシステムを使い発電し走行する。この発電機能を使い、災害による停電時やアウトドアなどで便利な給電機能をもつ。2ヵ所のアクセサリーコンセント(AC100V 1500W)を使えば、一般家庭で使っている電子レンジやテレビ、炊飯器などの電気製品が使える。
さらに、外部給電器(別売)を接続すると、大出力の電力を住宅や電気製品に供給が可能。最大9kWの給電に対応する。
さて、2代目新型ミライを購入するうえで、足かせになっているのが水素ステーションの少なさだ。水素ステーションの整備目標は2020年度までに160基程度、2025年度までに320基程度とされているという。
これでは、まだまだFCVを普及させるには、非常に少ない。まだ、地方では2代目新型ミライを買うにはハードルが高い。ただ、東京23区や23区に近い神奈川・埼玉・千葉あたりであれば、多少手間はかかるが、さほど水素スタンドを探すのには苦労しないだろう。水素スタンドの検索は、こちらで可能だ。トヨタ公式HP内水素ステーション一覧
トヨタ ミライのグレード選び
トヨタ ミライのグレードは、大きく分けて上級グレードのZとエントリーグレードのGの2タイプになる。それぞれに、法人向けの後席優先の仕様となるエグゼクティブパッケージが用意された。また、エントリーグレードのGには、少し装備を充実させたG Aパッケージが用意されている。
FCシステムなどは、どのグレードでも同じなので、2代目新型ミライは豪華装備の有無で選ぶことになる。GとZの大きな差は、Gは合成皮革シートなのに対して、Zは本革シートになる。オーディオでは、ZにはJBLのプレミアムサウンドシステムが標準装備となる。また、ヘッドライトや機能が若干異なり、置くだけ充電、カラーヘッドアップディスプレイがZには標準装備となる。そして、Zではオプションの20インチホイールやパノラマルーフなどが選択できるがG系では選択不可となる。
ざっくり言ってしまえば、エントリーグレードのGは、高級車としてはやや装備が物足りなく感じるのでG Aパッケージ以上から選ぶとよい。G Aパッケージの価格は735万円で、上級グレードであるZの価格は790万円。価格差は、55万円だ。この差で、本革シートやJBLオーディオなどがプラス装備されるのであれば、Zを選んでいたほうが満足度は高い。予算重視であるならば、G Aパッケージでも十分だ。
そして、気になる優遇税制・補助金などは、初代ミライほどではないものの、エコカー減税、環境性能割、グリーン化特例、2020年度CEV補助金を含めると、おおよそ140万円前後の優遇が受けられる。2代目新型ミライにZグレードなら、実質650万円前後で手に入れることができる。
さらに、地方自治体では独自の補助金が出るケースがある。こうした補助金を受けることができれば、さらに安価に購入することが可能だ。
トヨタ ミライ価格
・G 7,100,000円
・G “A Package” 7,350,000円
・G “Executive Package” 7,550,000円
・Z 7,900,000円
・Z “Executive Package” 8,050,000円
トヨタ ミライ燃費、ボディサイズなどスペック
・代表グレード ミライZ “Executive Package”
・全長/全幅/全高 mm 4,975/1,885/1,470
・ホイールベース mm 2,920
・トレッド フロント/リヤ mm 1,610/1,605
・最低地上高mm 155
・乗車定員 名 5
・車両重量 kg 1,950
・最小回転半径 m 5.8
・最高速度 km/h 175(推定)
・一充填走行距離[参考値]km 750
・燃料消費率(国土交通省審査値)燃料電池車 km/kg 135
・水素タンク容量 L 141(前方64+中52+後方25)
・公称使用圧力 MPa 70
・モーター型式 3KM
・モーター定格出力 kW 48.0
・最高出力 〈ネット〉 kW(PS)/r.p.m. 134(182)/6,940
・最大トルク 〈ネット〉 N・m(kgf・m)/r.p.m. 300 (30.6)/0~3,267
・駆動用モーター種類 リチウムイオン電池
・駆動用モーター容量 Ah 4.0
・サスペンション フロント/リヤ マルチリンク/マルチリンク
・駆動方式 後輪駆動方式
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