EVのリーディングカンパニーとして存在感をアピールしたい日産
日産は新型クロスオーバーEV(電気自動車)であるアリア(ARIYA)を世界初公開した。
新型日産アリアは、2019年の東京モーターショーでコンセプトモデルが公開されていた。今回のモデルは、その市販モデルということになる。
この新型日産アリアの発売は、2021年中頃。価格は500万円程度からとされた。発売は、まだ1年も先の話である。なぜ、日産が新型アリアをこれほど早く発表したのには訳がある。
2020年から2021年にかけて、世界中のメーカーが多くのEVを投入、投入予定とされている。国産では、2020年にホンダe、2021年にはマツダMX-30、レクサスUX300eなどが登場予定。欧州車では、すでにプジョーe‐208やBMW iX3がデビューし、アウディe-tronも近々登場予定だ。
こうした世界の自動車メーカーがEV攻勢をしかけている中、日産のEV事情は少々寂しい状況だ。
日産は、世界に先駆けて2010年12月に量産EVであるリーフをリリース。2代目リーフを2017年9月に投入している。その間、リーフは、確実に進化してきて、EVにありがちな航続距離不足という不安も払拭。最新のリーフe+は、458㎞(WLTCモード)にまで達している。また、2019年3月には、リーフのグローバル累計販売台数が400,000台を超えた。日産は、EVのリーディングカンパニーとなっている。
ところが、徐々に海外メーカーは、人気SUVのEVを投入していき話題となる。日産は、2010年に投入された初代リーフから、新たなカテゴリーに新型EVを投入できないままだった。地道にリーフを販売してきたことから、EVに関するいろいろなノウハウは蓄積されてきた。
しかし、人気カテゴリーや、新技術を搭載した新型車がなくマーケットからEVのリーディングカンパニーとして、注目度が薄れてきたことは確かだ。
とくに、2020~2021年は多くのEVが投入されることが予想され、日産としてEVのリーディングカンパニーとしての存在感をマーケットに示す必要がある。そこで、1年も前から新型EV日産アリアが公開されたのでは? と、予想できる。
グリルレスの新感覚デザインとなった新型アリア
新型日産アリアのデザインは、なかなか攻めたデザインとなった。まず、すぐに気が付くのが、グリルレスなとこと。EVなので、ボンネットの中には冷やすべきエンジンがない。だから、グリルは必要ないからだ。フロントフェイスをグリル中心でデザインしてきたクルマが多いこともあり、グリルレスのデザインは斬新に見える。ただ、見慣れていないので違和感がある人も多い。
日産によると、新型アリアは日産の新しいデザインランゲージと「ニッサン インテリジェント モビリティ」技術を体現したモデル。シンプルでありながら力強く、かつモダンな表現で「タイムレス ジャパニーズ フューチャリズム」をデザインに反映したという。この横文字表現は、某都知事の表現とよく似ている。日本企業なのだから、もう少し日本的な表現ができないものだろうかと感じる。
だが、横文字表現が続く中、グリルレスデザイン部分では、突如として日本的な要素が加わる。従来のグリルだった部分のパネルは、日本の伝統的な組子パターンが立体的に表現した。このパネルは、内部に配置されたプロパイロットなどの先進技術を支えるセンサー類を守る役目に代わっていくことから、日産ではシールドと表現。空力性能に優れたシールドの中心には新しい日産を象徴する新ブランドロゴがLEDによって光る。
ヘッドライトは、4つのLEDを配し非常に薄くデザインされている。日産のデザインシグネチャーであるVモーションは、白い光で表現され、ウインカー点灯時にはシーケンシャルウインカーとしても機能する。
ボディサイドは、流行りのクーペ調。低く滑らかなルーフラインをもち、スタイリッシュなサイドビューとなった。
リアビューは、スモークがかった水平基調に延びるリアコンビネーションランプが特徴的。消灯時はすっきりとした印象だが、点灯時は細い赤い光がボディサイドまで延び、ワイド感を表現。同時に、夜間で存在感あるリアビューとしている。
ボディカラーは、9種類のツートーンと5種類のモノトーンをラインナップ(仕向地によって異なる)。また、「暁(あかつき)」と呼ばれるカッパー(銅)とブラックのツートーンカラーは、夜が明け太陽が昇る瞬間をイメージした。カッパーが新型「日産アリア」の流線形なデザインを際立たせるとともに、電気を流す銅を表現し、今後やってくる電気自動車時代の幕開けを感じさせるという。
広大な室内と先進感あふれるインパネデザイン
インテリアは、モノとモノの間にある空間や、連続するコトとコトの間の時間を意味する日本語の「間(ま)」をキーワードとしてデザインされた。
ダッシュボートには、従来のような物理的なスイッチは無く、クルマの電源を入れるとアイコンが浮かび上がる。ただ、タッチセンサーは操作感が無く、扱いにくい。そこで、運転中でも操作感がわかるように振動するハプティクススイッチを採用した。全体的に近未来を感じるデザインとなった。
メーター類は、2つ並んだ12.3インチのディスプレイを設置。木目調のインストルメントパネルには、エアコンなどの操作スイッチが白く浮かび上がる。
地図や音楽情報などを映すセンターのディスプレイは、スワイプ操作が可能。ナビゲーションのルートなどをメーターディスプレイに移動させ表示させるなど、ディスプレイもシームレスにつながる。ただ、運転中の揺れる車内では、的確なスワイプ操作など難しく、前方監視が疎かになり安全運転上マイナス要因になる。簡単な音声操作など、今後のバージョンアップに期待したい。
室内空間は、セグメントを超える広大さがウリだ。新開発のEV専用プラットフォーム(車台)は、今後、三菱やルノーを含むグループのEVに採用されるという。このプラットフォームフラットは、空調ユニットをモータールームに配置することで、Cセグメントのボディサイズでありながら、Dセグメントレベルの広い室内空間を確保した。
また、スリムなデザインのゼログラビティシートを採用。静粛性の高いEVの利点を生かしながら、さらに遮音材をふんだんに使用。従来にない高い静粛性を実現。乗る人すべてがストレスを感じない、リラックスした空間を生み出した。
EV最多? 4タイプの仕様を用意。最速モデルは600Nm、0-100㎞/h加速5.1秒の俊足
新型日産アリアは、2種類のバッテリーサイズ(65kWhと90kWh)と2種類の駆動方式(FFと4WD)をラインナップした。顧客は、これら計4タイプの設定から選ぶことができる。これだけのラインアップを誇るEVは、今のところ新型アリアくらい。選択肢の豊富さにより、顧客はより自分に合ったアリアを選ぶことができる。
この4つの仕様、それぞれ独自の個性が与えれていて出力などが異なる。まずは、FF(前輪駆動)モデル。65kWhの出力は、160kW&300Nm。0-100㎞/h加速は7.5秒、最高速度は160㎞/h、最大航続距離は450㎞となった。90kWhは、電池容量アップだけかと想像していたが、なんと65kWh車よりパワーアップされており、出力は178kWで最大トルクは変更なく300Nmとなった。0-100㎞/h加速は7.6秒、最高速度は160㎞/h、最大航続距離は610㎞だ。この仕様がモデル中、最も航続距離が長い。
e-4ORCE と呼ばれる4WD車は、後輪側にもモーターを設置していることから、出力は大幅にアップしている。65kWhの出力は、250kW&560Nm。0-100㎞/h加速は5.4秒、最高速度は200㎞/h、最大航続距離は430㎞となった。90kWhは、アリア最速仕様。出力は290kWで最大トルクは変更なく600Nmで、0-100㎞/h加速はスポーツカー並みの5.1秒、最高速度は200/h、最大航続距離は580㎞だ。e-4ORCEは、かなり走りを重視した仕様といえる。
このe-4ORCEは、単に速いだけでなく、前後に搭載したモーターと、4輪のブレーキを繊細にコントロール。優れたトラクションとハンドリング性能が期待できそうだ。
また、これだけ大出力を誇るとなると、気になるのがバッテリーの温度管理。リーフは、真夏になるとバッテリーの温度が上がり、出力抑制が出る、急速充電の効率が悪くなるなどのトラブルがあった。新型アリアでは、バッテリーの温度を一定に保つ水冷式の温度調節システムを搭載。バッテリーの温度が安定するように配慮されているという。
充電面では、最大130kWの急速充電に対応。30分の急速充電で最大375km分を充電することが可能となった。
さらに、大容量バッテリーでも、より短時間での充電を可能とする最大出力150kWのCHAdeMO急速充電器を、2021年度内に国内の公共性の高い場所に設置できるよう調整を進めている。
ハンズオフが可能な進化型プロパイロット2.0を搭載
新型日産アリアには、自動運転時代を見据えた技術として、スカイラインハイブリッドにも搭載されている先進運転支援システム「プロパイロット2.0」が用意されている。
この機能は、車両に搭載した7個のカメラ、5個のレーダー、12個のソナーで、白線、標識、周辺車両を検知。さらに、ナビゲーションシステムと3D高精度地図データを使うことで、高速道路上をハンズオフで走行できる。
新型日産アリアでは、準天頂衛星システムなどからの高精度測位情報を受信し、自車位置をより高精度に把握することが可能となり、より進化している。
同様に、リーフと同じく「プロパイロット パーキング」も用意。この機能は、駐車可能なスペースを自動で検知。簡単な3つのステップで、前向き駐車、後向き駐車、縦列駐車に対応する。そして、新型日産アリアには、この機能を車外から操作可能な「プロパイロット リモート パーキング」(日本市場に設定)も用意。狭いスペースに駐車するようなシーンにおいても、ドライバーや同乗者の乗り降りを容易に行う事が可能となっている。
クルマと自宅をつなげるコネクテッド技術
もはや、コネクテッド技術は、クルマに不可欠のものとなった。新型日産アリアでは、乗車前のエアコンの温度設定や稼働、ドライブルートの転送などがスマートフォンで可能。
また、インテリジェントなパーソナル・アシスタンス技術は、空調やナビゲーションも音声で操作ができるようになっている。音声認識機能は「ハローニッサン」と呼びかけることで起動。ドライバーの操作をサポートする。
そして、新型日産アリアには、Amazonが提供する音声サービス、Amazon Alexaを搭載。音楽の再生や天気予報の確認、家族や友人との通話、スマートホームデバイスのコントロールなどを音声のみで操作可能となった。
こうした機能は、日進月歩。そのため、新型日産アリアは、日産で初めてとなるリモート・ソフトウェア・アップグレードと呼ばれる、無線でクルマのソフトウェアをアップデートする機能を装備。この機能によって、クルマのソフトウェアは常に最新の状態に保てる。
EVの低価格化に期待
新型日産アリアの日本発売は、2021年中頃を予定。価格は約500万円からとなる見込みだ。世界中の自動車メーカーから、続々とEVが投入される中、新型日産アリアは、コストパフォーマンスに優れた価格といえる。
こうした価格設定ができるのも、リーフで長年ノウハウを蓄えてきた結果だろう。EVのリーディングカンパニーとして、再び存在感を示せるはずだ。
とはいえ、やはり約500万円からという価格帯は、まだまだガソリン車やハイブリッド車にとって代わる存在とはいいにくい。また、500万円からという価格は誰もが買える価格帯ではない。
日産が圧倒的なEVリーディングカンパニーになるためには、リーフの大幅価格引き下げや、幅広い車種バリエーションなども含め、選択肢の豊富さとリーズナブルな価格がカギになりそうだ。日産のEV攻勢に期待したい。
V2H時代の中古車選び。走る蓄電池としても活用できる初代リーフが激安!
日産アリア電費、ボディサイズなどスペック
ボディサイズ 全長4595×全幅1850× 全高1655mm
車重 1900kg – 2200kg
ホイールベース 2775mm
荷室寸法 466L (2WD) / 408L (AWD)
タイヤ寸法 235/55R19、255/45R20 (グレード別設定)
バッテリー総電力量( )は使用可能電力量 90kWh(87kWh)
最高出力 290kW
最大トルク 600Nm
加速性能 (0-100 Km) 5.1秒
最高速度 200 km/h
航続距離(WLTCモードを前提とした社内測定値) 最大580km
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