約5年、ムーキャンバスを放置してきたスズキ
スズキは、ハイト系軽自動車である新型ワゴンRスマイルの発売を開始した。ワゴンRスマイルは、車名からも分かる通り、ワゴンRをベースとして後席側左右両側をスライドドアとしたモデルだ。
ただ、この新型スズキ ワゴンRスマイルは、巧遅拙速感がある。と、言うのも、このクラスには、すでにライバルメーカーのダイハツが、ムーヴキャンバスを2016年に投入済み。当時、ムーヴキャンバスは、ハイト系軽自動車の中で、唯一スライドドアをもつモデルだった。
当時、軽自動車マーケットは、両側スライドドアをもつスーパーハイト系が大人気。ハイト系は、存在感を失っていた。ムーヴキャンバスデビュー以前、ダイハツも含め、軽自動車メーカーは、ハイト系は価格が重要。スライドドアを装備すれば価格がアップし売れないとしていた。さらに、スライドドアを装備すれば車重も重くなり、燃費も悪くなるので尚更だという回答がほとんどだったのだ。
ところが、ダイハツはハイト系モデルの手詰まり感が強い中、顧客ニーズの多様化と、女性が自分のライフスタイルを豊かにしてくれる生活の相棒的な軽自動車を求めていることに注目。ライフスタイルを豊かにしてくれる可愛らしいデザインと、両側スライドドアという便利な機能を融合させたムーヴキャンバスを開発したのだった。
ムーヴキャンバスは、大ヒットとは言わないまでも、デビュー直後から販売は好調。ダイハツの思惑通りに、着実に成長していく。
ワゴンRスマイルの勝機はある?
ムーヴとムーヴキャンバスを合わせた2020年度の軽自動車販売台数は、128,218台となっている。これに対して、ライバル車ワゴンRの販売台数は66,003と約6.2万台もの差を付けられて大敗を喫している。
ムーヴ販売台数の内、ざっくり6~7割がムーヴキャンバスで約7.7~9.0万台という販売台数になる。つまり、これを差し引くとワゴンRはムーヴ単体に勝っていたか同等程度。だが、ムーヴキャンバス分となる約7.7~9.0万台をみすみすダイハツにプレゼントしていたようなものだった。
さすがに、スズキとしてもうムーヴキャンバスを放置できない状態ということもあり、ライバル車として新型ワゴンRスマイルを投入した。
ただ、もはや遅すぎたかもしれない。すでに、ムーヴキャンバスはデビューから5年間販売を続け、納客を増やしている。
しかも、ムーヴとムーヴキャンバスは、すでにモデル末期でいつフルモデルチェンジしてもおかしくない状況。フルモデルチェンジすれば、すでに多数いる顧客からの乗り換えも発生するだろう。デビュー直後で顧客がいない新型ワゴンRスマイルは、苦戦することも予想できる。
実際、逆のパターンで、ハスラーが1人勝ち状態だったマーケットに、ダイハツがライバル車タフトを送り込んだ。しかし、結果はハスラー優位のままで、タフトはやや苦戦し続けている。
目がクリクリ! 西川きよし氏に似ている?
さて、そんな新型スズキ ワゴンRスマイルだが、かなり後出しとなったことから、完成度はかなり高い。
まず、ボディサイズ。軽自動車なので、全長と全幅はムーヴキャンバスと同じだが、全高が1,695mmと+40mmとワゴンRスマイルの方が高い。ワゴンRと比べると+45mmとなる。
軽自動車は、スーパーハイト系の人気が高いように、大きく立派に見える方が好まれる傾向がある。そうしたニーズを満たすためには、やはりムーキャンバスより全高を高くした方がよいという判断だろう。
新型ワゴンRスマイルのデザインは、自分らしさを表現できる「マイスタイル マイワゴン」をテーマとした。
全体のシルエットは、ハスラーで好評な角を丸くした四角いフォルムが特徴。
その四角いデザインに丸型のヘッドライトを組み合わせた。丸みを帯びたボクシィなデザインと丸型ヘッドライトの組み合わせは、ムーヴキャンバスと共通。
しかし、フロントフェイスのアクの強さはワゴンRスマイルが勝る。グリっと大きく丸い目玉のようなヘッドライトは、かなり個性的。漫才師の西川きよし氏の目玉感がある。この大きな目玉を水平基調のメッキ加飾グリルがつないでいて、一度見たら忘れられない個性的な可愛らしさがある。
リヤビューは、LEDテールストップランプに厚肉インナーレンズを採用。フローティングデザインで奥行き感を表現した。フロントフェイスと比べると、かなりスッキリまとめられているため、少し物足りなさも感じる。
広い室内、隙の無い装備
インパネデザインは、センターコンソール上部に9インチのモニターを設置。その下に、エアコンやシフトノブなどの操作系を集中配置。大き目なメーターフードなど、全体的にコッテリ感のあるデザインになった。
また、艶と潤いを表現したインパネカラーパネルを用意。車体色に合わせてアイボリーパールとネイビーパールの2種類を設定している(HYBRID X、HYBRID S)。
また、インパネとドアトリムに革を手縫いしたようなステッチ風の模様を施し、質感を高めている。
ワゴンRスマイルの室内空間は、全高を高くしたことでワゴンRより室内高を65mm拡大。上部によりゆとりある空間を確保。
後席は、左右独立リヤシートスライド&リクライニング機構&ワンタッチダブルフォールディングリヤシートを装備した。
そして、スライドドアの開口幅は600mmとなった。ムーヴキャンバスの開口幅は、595mmなので、ほぼ同等だ。
装備関連では、スズキ初となるパワースライドドアが閉まる動作中にリクエストスイッチ、または携帯リモコンでドアロックを予約できる「パワースライドドア予約ロック機能」を採用(HYBRID X、HYBRID S)。
ワゴンRスマイルのメインターゲットは、女性であることもあり、日焼けの原因となる紫外線(UV)とジリジリとした暑さのもとである赤外線(IR)をカットして、強い日差しから肌を守る「360°プレミアムUV&IRカットガラス」を採用した(HYBRID X)。このガラスは、紫外線(UV)を約99%カット、赤外線(IR)を約60%~80%カットする。
夜間の歩行者を検知する自動ブレーキを装備
そして、重要な予防安全装備は、夜間の歩行者も検知することができるステレオカメラ方式の衝突被害軽減ブレーキ「デュアルカメラブレーキサポート」を標準装備。
その他、誤発進抑制機能、車線逸脱警報機能、ふらつき警報機能、先行車発進お知らせ機能、ハイビームアシスト、後退時ブレーキサポート、後方誤発進抑制機能、リヤパーキングセンサーがセットで装備される。
また、運転に必要な情報をフロントガラスに投影して、視線移動を最小限にして安全運転に貢献するヘッドアップディスプレイ、高速道路などドライバーの疲労軽減に効果がある全車速追従機能付きのアダプティブクルーズコントロール(ACC)などを「セーフティプラスパッケージ」としてメーカーオプション設定とした(HYBRID X、HYBRID S)。
ワゴンRスマイルのようなモデルは、生活の足というよりファーストカーといえる。それならば、せめて全車速追従式クルーズコントロールくらいは、標準装備化してほしいところだ。
そして、クルマの周囲を俯瞰で見たような映像に変換し、接触リスクを低減する全方位モニター用カメラ装着車には、「すれ違い支援機能」をスズキで初採用した。この機能は、狭路での車速が約5km/h以下でのすれ違い時に自動でナビゲーション画面に左側及び前方の映像を表示。死角を減らし、接触防止をサポート。運転が苦手な人には便利な機能だ。
燃費でムーキャンバスを圧倒しながら、戦略的価格に
搭載されたエンジンは、ワゴンRと同じ直3 660ccのR06D型。出力は49ps&58Nmだ。これに、2.6ps&40Nmの小さなモーターが組み合わされたマイルドハイブリッドシステムとなっている。
新型ワゴンRスマイルの燃費は、ハイブリッドGで25.1㎞/L(FF、WLTCモード)。ムーヴキャンバスの燃費は、20.6㎞/L(FF、WLTCモード)なので20%に近い差が付き、ワゴンRスマイルの圧勝だ。
これは、やはりマイルドハイブリッドを採用していることと、車重が大きくかかわっている。ワゴンRスマイルの車重は870㎏なのに対して、ムーヴキャンバスは920㎏と50㎏も重い。
ワゴンRスマイルは、マイルドハイブリッドなので、アイドリングストップからの再始動時にキュルキュルとしたセルモーターの音やエンジン音が非常に静かなのも特徴だ。これは、ガソリン車しかないムーヴキャンバスとの大きな差になる。
ただ、残念なことに、ワゴンRスマイルはムーヴキャンバスと同様、ターボエンジンの設定がない。これは、少々残念なポイント。新型ワゴンRスマイルは、両側スライドドアをもつことから、車重が80㎏程度ワゴンRよい重い。これだけ重いと、やや非力と感じるシーンもある。4人乗車や高速道路をよく使うような人には、やはり高出力なターボエンジンが欲しいところだ。
ワゴンRスマイル価格は、なかなか戦略的。ムーキャンバスとほぼ同じ価格帯となる。だが、ワゴンRスマイルは、高コストになるマイルドハイブリッドを搭載。マイルドハイブリッドを搭載し、燃費もよく、価格も同程度であれば、ワゴンRスマイルという選択になるのが必然だ。
スズキ ワゴンRスマイルのグレード選び
新型ワゴンRスマイルのグレードは、ハイブリッドXとハイブリッドS、ガソリン車のGの3グレード構成。Gは廉価仕様で、パワースライドアやアイドリングストップも装備されていないので、新型ワゴンRスマイルらしさを十分に堪能できない。
そこで、選択肢はハイブリッドXとハイブリッドSに絞られる。この2グレードの大きな差は、LEDヘッドランプ類、360°プレミアムUV&IRカットガラス、パーソナルテーブル、フロントアームレストボックス、6スピーカーなどだ。価格差は約12万円となる。
予算重視なら、ハイブリッドSで十分だが、やはりLEDヘッドランプ類、360°プレミアムUV&IRカットガラスは魅力的だ。満足度という面ではハイブリッドXがお勧めだ。
このグレードに、9インチの全方位モニター付メモリーナビゲーションのオプションを選択するとよいだろう。高速道路の移動が多い人なら、全車速追従式クルーズコントロールが装備されるセーフティプラスパッケージを選択したい。
新型ワゴンRスマイルの値引きは、デビュー直後なので、しばらくゼロベース。しかし、スズキにとって、ワゴンRスマイルはムーヴとの差を縮めるために用意された攻めのモデル。すでに、ムーヴキャンバスはモデル末期。さらに、新型ワゴンRスマイルが登場したことで大幅値引きが確実だ。そんなムーヴキャンバスと新型ワゴンRスマイルを競合させれば、新型車とはいえ値引き対応に応じる可能性が高い。ジックリ商談すれば、大幅値引きは期待できなくても、一定の値引き額は提示される可能性は高くなるだろう。
スズキ ワゴンRスマイル価格
・G 2WD 1,296,900円/4WD 1,420,100円
・HYBRID S 2WD 1,472,900円/4WD 1,596,100円
・HYBRID X 1,592,800円/4WD 1,716,000円
スズキ ワゴンR燃費、ボディサイズなどスペック
代表グレード ワゴンR HYBRID X
ボディサイズ[mm](全長×全幅×全高) 3,395×1,475×1,695
ホイールベース[mm] 2,460
トレッド前/後[mm] 1,295/1,300
車両重量[kg] 870
総排気量[cc] 657
エンジン最高出力[ps(kw)/rpm] 49(36)/6,800
エンジン最大トルク[N・m(kg-m)/rpm] 58(5.9)/5,200
モーター型式 WA04C
モーター最高出力[ps(kw)/rpm] 2.6(1.9)/1,500
モーター最大トルク[N・m(kg-m)/rpm] 40(4.1)/100
動力用主電池種類 リチウムイオン電池
容量(Ah) 3
WLTCモード燃費[㎞/L] 25.1
ミッション CVT
サスペンション前/後 マクファーソンストラット/トーションビーム
タイヤサイズ 155/65R14
定員[人] 4人
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