車名は同じでも、まったく違うモデルとなるGRヤリス
ヴィッツ改め「ヤリス」は、乗ってみると似て非なるものだった。世界ラリー選手権(WRC)で活躍しているヤリスWRCのイメージをそのままに、走りのいいコンパクトカーに成長していたのである。
その頂点に立つスパルタンモデルが、新しい魅力を携えて発売に移された。それがガズーレーシングの名を冠したGRヤリスだ。これは、モータースポーツ用の車両に手を加え、公道を走れるようにした究極のホットハッチである。限定発売のファーストエディションは、瞬く間に完売。GRヤリスの注目度の高さが分かる。
GRヤリスのボディは、専用の3ドアハッチバックで、全幅は1805㎜まで広げられている。プラットフォーム(車台)は、フロント側がBセグメント用のGA-B、リア側はCセグメント用のGA-Cだ。
開口部の骨格を専用とし、構造用接着剤も積極的に採用した。また、スポット溶接の打点も増やしている。軽量化を図るため、ボンネットとドア、そしてリアゲートにはアルミ製を採用。ルーフだけは、新しい工法を用いたC-SMCと呼ばれるカーボン製だ。これも軽い。このように、車名こそヤリスだが、プラットフォームも異なっており、まったく別のクルマなのだ。
グレードは4つあり、マイルドな性格のRSはパワーユニットもトランスミッションも、そして駆動方式もFF(前輪駆動)と、他のグレードとは違う。
主役はGR-FOURと名付けられたアクティブトルクスプリット4WDを採用する1.6Lの直噴ターボ搭載車である。
モータースポーツ参戦のベース車両、RC、快適性を加味したRZ、さらに走りの質を高めたRZハイパフォーマンスを設定した。トランスミッションは6速MTであるiMTだけに絞っている。
超高性能エンジンだが、ずぼらな運転でもOKな懐の深さが魅力
最初にステアリングを握ったのは、ちょっと頑張れば手が届く価格設定のRZだ。エンジンは専用に設計した1618ccのG16 E-GTS型直列3気筒DOHC4バルブ直噴ターボである。
最高出力は200kW(272ps)/6500rpm、最大トルクは370N・m(37.7kg-m)/30000〜4600rpmだ。車両重量は、1280kgだからパワーウエイトレシオは驚異的な4.71kg/psだ。
ドアを開けてドライバーズシートに滑り込む。思いのほか着座位置は高いが、ファブリック地のスポーツシートは身体にフィットする。インパネはスポーツムード満点で、280km/hフルスケールのスピードメーターには「GR」のロゴが入っていた。
クラッチ、シフトフィールともに適度な重さがあり、只者でないと感じさせる。エンジンは、軽やかな回転フィールだ。アクセルを踏み込むと一気に回転が上がり、ターボの応答レスポンスも驚くほど鋭い。
高性能なエンジンだが、一般道での扱いにくさも感じさせない。2000回転台でも不満のないトルクを発生し、フレキシブルな走りを披露した。1速から3速、3速から5速といった、ずぼらな運転でも十分に対応する懐の深さがある。
マニア、ビギナーにも対応するiMT
だが、刺激的な加速を引き出せるのは3000回転を超えてから。そこから、レッドゾーンの7000回転めがけて一気に上りつめる。リニアにパワーとトルクが盛り上がり、ちょっと油断すると瞬時に7200回転に達してリミッターが作動した。3気筒エンジンならではのパンチの効いた走りは逆に新鮮だ。
エンジンの組み付け精度が高いこともあり、3気筒エンジン特有の振動と不快なノイズも上手に抑え込んでいた。
剛性感たっぷりのシフトフィールも本格派のマニア好みの味わいだ。ちょっと重めのクラッチは、繋がりが分かりやすい。シフトダウンした時に自動的に回転を合わせてくれる自動ブリッピング機構(iMT)も、この手のハイパフォーマンスカーに乗り慣れていないビギナーにも頼りになる。
硬めの乗り味で軽快なハンドリング
サスペンションは、マクファーリンストラットとダブルウイッシュボーンの4輪独立懸架を採用。225/40R18サイズのファットなタイヤを履く。
4WDだが、身のこなしは軽やかだ。ワインディングロードでは、タイトコーナーでも狙ったラインにたやすく乗せられるなど、正確なライントレース能力を披露した。
ロールは抑え込まれ、荷重移動を感じ取れる気持ちいいハンドリングを身につけている。操舵フィールはちょっと重めだし、乗り心地も引き締まっているが、これは想定の範囲内だ。
走る楽しさを支える電子制御4WD
驚かされたのは、電子制御の4WDシステムも出来栄えで、とても賢い。ノーマルモードは、前後のトルク配分が60:40で、FF車のようなちょっとアンダーステア気味の挙動を見せる。これはこれで楽しい。
スポーツモードでは30:70と、後輪寄りのトルク配分とした。FRベースの4WDのような動きを見せ、リアの駆動力を強く感じる。操る楽しさは格別だ。
トラックモードでは、50:50の前後トルク配分になる。4輪のグリップ感が強く、ホットな走りでもリアだけでなくフロントも踏ん張りが効く。
ハンドリングは素直で、ニュートラルだ。4輪の優れた路面追従性を強く感じる。ワインディングロードを安心して攻められるし、トラックモードをチョイスすればサーキットを走っても満足度は高いはずだ。
RZハイパフォーマンスはデートに向かない?
RZハイパフォーマンスは、タイヤが225/40ZR18サイズのミシュラン製パイロットスポーツ4Sになり、前後にトルセンLSDを装着する。
サスペンションもさらにハードなセッティングだから公道では硬いと感じるし、荒れた路面では凹凸を拾う。乗り心地はハードだが、4輪のグリップレベルは驚異的に高く、うねった路面を駆け抜けても荷重が抜けない。滑りやすい路面でも安心感は絶大だ。だが、スパルタンすぎてデートカーや、普段使いにはあまり向かない。ドライバーが、走りを楽しむホットハッチだ。
街乗りでも走りが楽しめるRS
GRヤリスには、エントリーモデルが用意されている。それが1.5Lの直列3気筒直噴DOHC4バルブエンジンを積むFFスポーツの「RS」だ。
最高出力は88kW(120ps)/6600rpm、最大トルクは145N・m(14.8kg-m)/4800〜5200rpmで、トランスミッションは発進用のギア機構を備えた10速CVTを組み合わせた。
基本は上級のGRヤリスと同じだし、タイヤもRZと同じ225/40R18(ダンロップ製SPスポーツマックス050)を履く。
だから、シャシー性能は強靭で、限界レベルまで攻めてもアンダーステアに手を焼くことなくコントロールしやすい。リニアな操舵フィールを身につけ、乗り心地もGRヤリスの中では、街乗りベストと感じられる仕上がりだった。
発進ギア付きのCVTを採用した1.5Lエンジンは、ノーマルのヤリスより車重が増えているから、パワーモードを選び、パドルシフトを駆使すると気持ちいい加速を楽しめる。パワー感はそれなりだが、GRヤリスの兄貴たちと同じように運転するのが楽しいのがRSだ。
<レポート:片岡英明>
トヨタ GRヤリス価格
・RS Direct Shift-CVT FF 2,650,000円
・RC 6速マニュアルトランスミッション(iMT) スポーツ4WDシステム“GR-FOUR” 3,300,000円
・RZ 6速マニュアルトランスミッション(iMT) スポーツ4WDシステム“GR-FOUR” 3,960,000円
・RZ“High performance” 6速マニュアルトランスミッション(iMT) スポーツ4WDシステム“GR-FOUR” 4,560,000円
トヨタ GRヤリスのボディサイズ、出力、燃費などスペック
代表グレード:RZ High-performance
・全長×全幅×全高(mm) 3,995×1,805×1,455
・ホイールベース(mm) 2,560
・トレッド<フロント / リヤ>(mm) 1,535/1,565
・最低地上高(社内測定値)(mm) 130
・乗車定員(人) 4
・車両重量(kg) 1,280
・最小回転半径(m) 5.3
・エンジン 型式 G16E-GTS
・総排気量(cc) 1,618
・エンジン種類 直列3気筒インタークーラーターボ
・使用燃料 無鉛プレミアムガソリン
・最高出力<ネット>(kW[PS])/r.p.m. 200(272)/ 6,500
・最大トルク<ネット>(N・m[kgf・m])/r.p.m. 370(37.7)/3,000〜4,600
・燃料タンク容量(L) 50
・トランスミッション iMT(6速マニュアル)
・サスペンション<フロント / リヤ> ストラット式コイルスプリング / ダブルウィッシュボーン式コイルスプリング
・駆動方式 4輪駆動方式
・タイヤサイズ 225/40ZR18
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