2021年度5ナンバーミニバン販売台数ナンバー1に輝いたヴォクシー
全世界的なSUV人気もあり、圧倒的な人気カテゴリーであった5ナンバーミニバンもやや減少傾向。2021年度の販売台数は、コロナ禍での部品不足なども加わり、全車前年比割れとなった。ただ、すべての車種がモデル末期なので、仕方のない状態だったともいえる。そんな状況下ながら、ヴォクシー人気は高く、このクラスで2021年度販売台数ナンバー1に輝いた。
モデル末期に入っていたヴォクシー&ノアだったが、2022年1月、フルモデルチェンジして4代目となっている。
3代目ヴォクシー&ノアは、2014年にクラス初のフルハイブリッド車として登場。ハイブリッド車全盛時代であり、まさに待望のモデルということもあり、非常に売れた。しかし、実際、試乗すると個性に欠けていて、なんだか全体にボヤっとした印象しか残らなかった。
マイナーチェンジでは、フルモデルチェンジか? と、思わせるほど、フロントフェイスを中心に大きなデザイン変更が加えられ、静粛性や乗り心地の向上も図られた。熟成が進んだのだが、ライバル車に対して走行性能や予防安全装備などは遅れていた印象が否めなかった。
パワー不足は解消されたのか?
こうしたイメージが強かったので、4代目新型ヴォクシー&ノアで注目していた点は大きく2つある。1つ目が1.8Lハイブリッドの非力感と走行フィーリング。2つ目は、予防安全装備「トヨタセーフティセンス」のパフォーマンス不足だ。
まず、驚いたのは、1.8Lハイブリッドシステムだ。3代目ヴォクシー&ノアでは、非力感があったので、パワーアップした2.0Lハイブリッドシステムでも載せてくると予想していたからだ。試乗する前は、1.8Lハイブリッドで大丈夫なの? と、思っていたが、アクセルを踏んだ瞬間にそんなマイナスイメージは一瞬で吹き飛んだ。
アクセルひと踏みで、先代モデルとの違いが実感できる。3代目ヴォクシー&ノアでは、車重に対してトルク不足感があり、ジワっとアクセルを踏んだだけではクルマはあまり反応を示さず、アクセルを強く踏み込む必要があった。
アクセルを強く踏み込めば、普通に走ることができるのだが、瞬時にエンジンが始動。ハイブリッド車感に欠け、ほとんどEV走行できない状況になる。もちろん、燃費面でもあまり期待できない。
しかし、4代目新型ヴォクシー&ノアでは、アクセルをジワっと踏み込んだ状態でも瞬時に十分なモータートルクが立ち上がり、車速を伸ばしていく。とくに、市街地での走行では非常にキビキビと走る印象だ。アクセル操作に対するレスポンスも抜群に良くなった。もはや、4代目新型ヴォクシー&ノアに、パワー不足感は一切ない。
先代モデルでは、すぐにエンジンが始動してしまっていたが、新型4代目新型ヴォクシー&ノアは、大幅にEV走行できる領域が増えた。上手にアクセル操作すれば、街中であればなかなかエンジンが始動しない。エンジンがかからないのだから、当然、実燃費向上も期待できる。
それもそのはず、1.8Lハイブリッドという文字面的には違いはない。しかし、中身は先代のものとはまったく別物になった。システム出力は、先代の136psから、わずかにアップして140psとなっている。
パワーアップさせながら、燃費もアップ! もはや敵なしな新ハイブリッドシステム
より力強い走行フィールに感じたのは、システム出力というより、モーター出力の向上によるもの。先代モデルのモーター出力は、82psから95psと約16%もアップしているのだ。
しかも、約15%も軽量化&ダウンサイジングされている。さらに、リチウムイオン電池も出力が約15%向上。その上で、約30%も小型化された。
こうした新ハイブリッドシステムにより、より力強く走るようになっただけでなく、大幅に燃費も向上している。4代目新型ヴォクシーの燃費は23.0㎞/L(FF、WLTCモード)。先代モデルが19.0㎞/L(FF、WLTCモード)だったので約21%も燃費が向上している。出力と燃費という二律背反する要素を見事に両立。
今のところ、圧倒的クラスナンバー1の燃費値。もはや、このクラスだけでなく、トヨタのハイブリッド車に燃費で勝るモデルは、ほとんど無い状態だ。それほど、トヨタのハイブリッドシステムは優れている。
クラストップどころか、世界トップレベルに進化した予防安全装備「トヨタセーフティセンス」
そして、懸念事項の2つ目、先代モデルの予防安全装備パッケージである「トヨタセーフティセンス」のパフォーマンス不足も、完全に払拭されていた。もはや、劇的進化といった印象。クラスナンバー1どころか、世界トップレベルと言えるほど高性能なものとなった。
重要な自動ブレーキ機能は、多岐にわたる。昼夜の歩行者と自転車、昼間の自動二輪車を検知し衝突回避・被害軽減が可能。さらに、交差点内で多い事故パターンである右左折時の歩行者、右折時の対向車にも対応する。
また、新たにフロントクロストラフィックアラートも用意された。この機能は、見通しの悪い交差点などで、左右から接近する車両を検知し注意喚起してくれるので、出合い頭の衝突リスクを下げることが可能だ。
そして、少々慣れが必要だが一般道でも使うことができる「プロアクティブドライビングアシスト」も優れモノ。上手く使えるようになると、疲労軽減につながる運転支援機能だ。
「プロアクティブドライビングアシスト」は、「歩行者の横断」「飛び出してくるかもしれない」など、運転の状況に応じたリスクを先読み。例えば、前方に横断中の歩行者や自転車を検知すれば、自動で減速。また、側方歩行者や自転車、駐車車両に近付きすぎないように自動で減速しながら距離を取るよう、ステアリング操舵の支援をしてくれる。また、カーブ前で速度が高いとシステムが判断すると、自動減速制御が作動する。もちろん、先行車に対しても同様で、車間が短くなれば自動減速し一定の距離を保つ。
この機能を使い街中を走行すると、まず、アクセルオフの場合で先行車に近付いていくと、自動で減速し一定の車間を保つ。停止こそ自分でブレーキを踏む必要があるものの、停止までの減速は車両任せでOK。ドライバーは、アクセルとブレーキの操作量が大幅に減り、疲労軽減になる。
郊外路で便利だったのが、カーブ前での減速機能。ドライバーがカーブに気がつきアクセルを戻したタイミングで、速度が高いとシステムが判断すると早い段階で緩やかに減速制御が入る。カーブが想像以上にきつくて、慌ててブレーキを踏むようなこともなくなるので、非常に安心・安全だった。
「プロアクティブドライビングアシスト」に関しては、クルマが勝手に制御しているような違和感がある。最初は、少し信用ならない感じもあり不安になるだろう。
ところが、ある程度任せて走っていると、こういう時はこうなるといったような規則性も理解できるようになる。そうなると、もはや「プロアクティブドライビングアシスト」に任せて、ドライバーは不測の事態に備えていればより安心・安全に走行できるのだ。しかも、自らブレーキ操作する回数も大幅に減るので疲労も軽減される。試乗時も、疲労をほとんど感じなかったほどだ。
さらに、全車速追従式クルーズコントロールには、アドバンストドライブが設定された。アドバンストドライブは、クルーズコントロールでの走行時に高速道路で約40km/h以下の渋滞時にハンズオフが可能になる。ドライバーは、前方の監視は必要だが、ハンズオフにより大幅な疲労軽減が可能だ。
さらに、ハイブリッド車には、車外からスマートフォンを使って駐車が可能なアドバンストパークなど、最新の技術が満載されている。
操縦安定性、静粛性もさらに向上
そして、操縦安定性も大幅に向上。最新のプラットフォーム(車台)GA-Cをベースとして、4代目新型ヴォクシー&ノア用に改良。このGA-Cプラットフォームは、低重心で軽量。
ボディサイズは、全車3ナンバー化され、全幅は1,730mmとなった。全高も先代より+70mm高くなり1,895mmとなっている。本来なら、これだけ全高が高くなると、重心高も高くなり、フラフラする傾向が強くなるが、低重心化されたプラットフォームにワイドになった全幅により、意外なほど高い操縦安定性を披露。先代モデルでは、やや上部が揺さぶられるようなシーンでも、4代目新型ヴォクシー&ノアは安定して駆け抜けていく。
そんな優れた操縦安定性を誇る4代目新型ヴォクシー&ノアのハイブリッド車だったが、4WD(E-Four)車はさらに気合が入っていた。なんと、41ps&84Nmの出力をもつリヤモーターを設置。
このモーター出力は、プリウスの約6倍となっている。より車両安定性を向上させながら、ライントレース性も高めている。先代モデルのハイブリッド車には、4WDの設定が無く、降雪地域の人々の中には、ハイブリッド車が欲しくても買えない状態だった。4代目新型ヴォクシー&ノアに4WDのE-Fourが設定されたことで、降雪地域の人々も超低燃費を誇るハイブリッド車のメリットを享受できるようになった。
また、4代目新型ヴォクシー&ノアのハイブリッド車は、静粛性も高い。とくに、EV走行できる範囲が広くなったので、EV走行中はとくに静かだ。
この時点で、4代目新型ヴォクシー&ノアのハイブリッド車は、クラス最強と実感。2022年5月26日デビュー予定のライバル車、ホンダ ステップワゴンがどの程度まで仕上げてくるかにもよるのだが、公表されているレベルで判断すると予防安全装備面では、すでに4代目新型ヴォクシー&ノアの圧勝といった印象が強い。
唯一の弱点は、ガソリン車にアイドリングストップ機能が無いこと!
そして、意外なほど良かったのが2.0Lガソリン車。先代の2.0L 3ZR-FAE型から、4代目新型ヴォクシー&ノアではM20A-FKS型に変更された。このM20A-FKS型エンジン、高回転型でなかなかパワフル。出力は、170ps&202Nm。先代モデルが152ps&193Nmだったので、ガソリン車も走り出してすぐに力強さを感じる。クラストップレベルの出力だ。ただし、高回転までエンジンを回すと、かなり賑やかになる。
通常走行であれば、静粛性も高く、価格もハイブリッド車より安価。しかも、燃費も15.0㎞/L(FF、WLTCモード)とこちらもガソリン車トップレベル。予算次第だが、ガソリン車もあり、と思えるほど。
ところが! なんと、この2.0Lガソリン車には、アイドリングストップ機能が付いていない。「カーボンニュートラルに全力で取り組む」と、トヨタはアピールしている。これでは、言行不一致だ。さすがに、環境問題を考えると、2.0Lガソリン車は選びにくい。
4代目新型ヴォクシー&ノアは、先代モデルの弱点を完全克服するどころか、ライバル車がフルモデルチェンジしても、しばらく追いつけないくらいのレベルまで引き上げてきた。
取材したエンジンニアも、ガソリン車にアイドリングストップ機能が無いこと以外、自信満々。まさに、4代目新型ヴォクシー&ノアの隙が無いほどの高い完成度をもつミニバンとして劇的進化を遂げた。
<レポート:大岡智彦>
新型90系トヨタ ヴォクシー、ノア価格
■90系ヴォクシー 2.0Lガソリン車
・S-G 7/8人乗り FF 3,090,000円/4WD 3,288,000円
・S-Z 7人乗り FF 3,390,0000円/4WD 3,588,000円
■90系ヴォクシー 1.8Lハイブリッド車
・S-G 7/8人乗り FF 3,440,000円/7人乗り 4WD 3,660,000円
・S-Z 7人乗り FF 3,740,000/4WD 3,960,000円
■90系ノア 2.0Lガソリン車
・X 7/8人乗り FF 2,670,000円/4WD 2,868,000円
・G 7/8人乗り FF 2,970,000円/4WD 3,168,000円
・Z 7人乗り FF 3,240,000円/4WD 3,438,000円
・S-G 7/8人乗り FF 3,040,000円/3,238,000円
・S-Z 7人乗り FF 3,320,000円/4WD 3,518,000円
■90系ノア 1.8Lハイブリッド車
・X 7/8人乗り FF 3,050,000円/7人乗り 4WD 3,270,000円
・G 7/8人乗り FF 3,320,000円/7人乗り 4WD 3,540,000円
・Z 7人乗り FF 3,590,000円/4WD 3,810,000円
・S-G 7/8人乗り 3,390,000円/7人乗り 4WD 3,610,000円
・S-Z 7人乗り 3,670,000円/4WD 3,890,000円
■90系トヨタ ヴォクシー燃費、ボディサイズなどスペック
代表グレード:90系 トヨタ ヴォクシー ハイブリッドS-Z(FF)
ボディサイズ[mm]: 全長4,695×全幅1,730×全高1,895
ホイールベース[mm]: 2,850mm
車両重量[kg]: 1,670kg
総排気量[cc]: 1.797cc
サスペンション前/後:マクファーソンストラット/トーションビーム
エンジン最高出力[kw(ps)/rpm]: 72(98)/5,200rpm
エンジン最大トルク[N・m(kg-m)/rpm]: 142(14.5)/3,600rpm
モーター最高出力[kw(ps)]: 70(95)
モーター最大トルク[N・m(kg-m)]:185(18.9)
システム全体[kw(ps)]: 103(140)
ミッション: 電気式無段変速機
WLTCモード燃費[km/l]: 23.0km/l
バッテリー 種類/容量(Ah):リチウムイオン/4.08
セレナ e-Power vs ステップワゴン スパーダ ハイブリッド
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