ヒョンデの電気自動車アイオニック5に激速スポーツモデル「N」が登場!
2023年以降、海外からも多くのバッテリーEV(BEV)が日本に上陸し、BEV戦国時代の様相を呈している。
最初は、ファミリーカー的な性格のBEVばかりだった。だが、バリエーションが増えてくると、徐々にスポーツモデルも発売されるようになる。当然だろう。モーター駆動のBEVは、瞬時にパワーとトルクが立ち上がり、加速は強烈だ。ちょっと手を加えるだけで、バカッ速いホットモデルに生まれ変わる。
内燃機関には、古くからバリバリにチューニングしたスポーツモデルが存在した。メルセデス・ベンツにはAMGが、BMWにはMシリーズがあり、運転する楽しさは格別だ。日本勢を見てもトヨタにはGR、日産にはNISMOブランドがある。また、レクサスが送り出した「F」も同類と言えるだろう。
BEVの世界でリーダー役を務めているヒョンデは、主力モデルのアイオニック5にホットモデルの「アイオニック5N」を投入した。
これは、ヒョンデがハイパフォーマンスEVと呼んでいる高性能スポーツモデルだ。ヒョンデが冠した「N」は、研究開発センターがある「ナムヤン(NAMYANG)」の頭文字であり、走行テストを行なったニュルブルクリンクサーキットの意味でもある。
650㎰の高出力モーターで、ドリフトも自由自在なアイオニック5「N」
そのスポーツDNAの源泉となっているのは、ヒョンデが参戦している世界ラリー選手権(WRC)だ。アイオニック5Nも、意のままに曲がる痛快なスポーツモデルに仕立てている。
ウリの一つが、ドリフトを楽しめるNドリフトオプティマイザーの設定だ。ドリフトしやすいように、前後のモーターのトルク配分と車両のコンピュータ制御を最適化し、リアを流して向きを変えやすくした。
それを証明するために、試乗会の駐車場に水を撒き、ドリフトを楽しめるスキッドパッドを作ってくれたのである。パイロンを回っての360度ターンや八の字旋回ではターンするきっかけを作りやすく、フロント側のグリップを残したままリアがスッと流れてパイロンに寄せられた。アンダーステアに手を焼くことがなく向きが変わり、とても楽しい。
アイオニック5Nは、前後のアクスルにモーターを配したツインモーター4WDだ。フロントのモーターは最高出力238ps(175kW)/4600〜10000rpm、最大トルク370N・m(37.7kg-m/0〜4000rpm)を発生。リアのモーターはさらに強力で、412ps(303kW)/7400〜10400rpm、400N・m(40.8kg-m)/0〜7200rpmを絞り出す。モーターのシステム合計出力は650ps(478kW)、同様に最大トルクも770N・m(78.5kg-m)まで引き上げられている。
これは、Nグリンブーストと名付けられた擬似ブーストアップ機能を使い、ステアリング右側の赤いボタンを押すと10秒間だけマックスパワーを発生させるというものだ。
EVなのに疑似エンジン音や変速音を備え、やる気にさせる演習が上手い
サーキット走行をドライバーに楽しませる機能は充実している。ドライバーが任意に前後のトルク配分を設定でき、ドリフト走行やスピンターンのようにリア駆動の面白さも味わえるのがNトルクディストリビューションである。
左右の足を使ってアクセルとブレーキを同時に操ることができるレフトフットブレーキングシステム、一段と強力な回生ブレーキが得られるNペダルなども異色の装備だ。ツインクラッチDCTのような小気味よい変速感も味わうことができるのも魅力だろう。
Nグリンブーストのように、走りの愉しさにこだわるドライバーを喜ばせるバーチャル機構が充実している。これがアイオニック5Nのウリの一つだ。ほほが緩んでしまうのが、Nアクティブサウンド+だった。パドルを使ってシフトアップやシフトダウンを擬似変速できるが、そのときにアクセルワークなどとシンクロしてエンジン音が聞こえ、減速するとシフトダウンしたような気分になる。そのバーチャルの味付けが絶妙なのだ。EV嫌いをも納得させる出来栄えだった。
サーキット走行でもねを上げない優れた冷却性能をもつバッテリー制御
アイオニック5Nの加速は強烈である。アクセルを踏み込み、Nグリンブーストを作動させると強烈なGを感じさせながら猛然と加速していく。アイオニック5のカタログモデルのシステム出力はそれぞれ305ps(225kW)/2800〜8600rpm、605N・m(61.7kg-m/0〜4000rpm)だから、その差は大きい。
しかも、加速時のトルク感はV8エンジン搭載車のように力強く、上質だ。猛々しい擬似エンジン音と相まってその気にさせてくれた。パドルシフトを使ってDCTのようにシフトダウン的な減速を楽しめるのも、これまでのEVと違うところだ。操る楽しさは格別だった。
ちなみに0-100km/h加速は3.4秒の俊足を誇る。アイオニック5Nのすごいところは、サーキットを全開走行しても、バッテリーが音を上げないことだ。ほとんどのBEVはサーキットを走るとモーターとバッテリーを保護するためにセーフティモードに入り、出力とトルクを抑えてしまう。だが、ニュルブルクリンクサーキットで鍛えたアイオニック5Nは違う。冷却性能を最大限に発揮するNレースモードを備え、温度の制御管理が絶妙だ。
その結果、全長20kmのニュルブルクリンクサーキットのオールドコースを2周全開で走れる実力を秘めている。だから、試乗会場の袖ヶ浦フォレストレースウェイのコースを6周するくらいならパフォーマンスの低下をまったく感じなかった。サーキットでは、鋭い応答レスポンスに磨きがかけられ、痛快というよりレーシングカーのような刺激的な加速を楽しむことができる。
それでいて公道では、ジェントルな走りを見せた。ゴーストップの多い市街地を走ってもフレキシブルで扱いやすいし、静粛性も高いレベルを保ち続ける。これがBEVのすごいところだ。ジキルとハイドの両面を持つ、付き合って楽しい相棒がアイオニック5Nと言えるだろう。
驚愕の車両価格858万円! 日本・欧州勢には脅威?
サスペンションは、専用にチューニングされている。サスペンションは、ストラットにマルチリンクの組み合わせで、減衰力可変ダンパーを装着し、タイヤは専用開発のピレリPゼロだ。サーキットではロールを上手に抑え込み、狙ったラインにピタリと乗せることができる。ステアリングを切り込んだときのノーズの入りがよく、身のこなしは軽やかだ。しかも絶大なグリップ感を身につけ、コーナー出口でも挙動を乱すことなく駆け抜けていく。
コントロールできる領域が広く、ブレーキも高性能なパワーユニットに見合ったものだ。踏力コントロールしやすく、剛性感のある減速フィールも好ましかった。ホールド性とサポート性に優れたシートもいい仕上がりだ。しかも、公道では路面の凹凸を上手にいなし、舐めるような走りを披露した。引き締まってはいるが、不快な乗り心地ではない。
ルーフスポイラーなどのエアロパーツをまとっているが、エクステリアに派手さはなく、ちょっと見ただけではハイパフォーマンスBEVとは分からないだろう。まさに羊の皮を被った狼なのである。
公道でのロングドライブから、サーキット走行まで難なくこなすマルチプレイヤーがアイオニック5Nだ。いくつか制御に荒っぽいところがあるし、多くのモードがあるから、それを使いこなすには慣れが必要だった。だが、このハイパフォーマンスBEVは、858万円のバーゲンプライスを掲げて発売されたのである。日欧のライバルにとって、は脅威の存在になるだろう。
<レポート:片岡英明>
日産アリアB6 VS マツダMX-30 EV MODEL徹底比較評価
ヒョンデ アイオニック5N新車価格
アイオニック5N 8,580,000円
ヒョンデ アイオニック5 N 電費、航続距離、ボディサイズなどスペック
代表グレード:アイオニック5 N
全長×全幅×全高 (mm) 4715×1940×1625
ホイールベース (mm) 3000
最低地上高(mm) 142(アンダーカバー)
乗車定員 (名) 5
車両重量 (kg) 2210
タイヤサイズ 275/35ZR21
最小回転半径 (m) 6.21
サスペンション (フロント/リヤ) ストラット式/マルチリンク式
駆動方式 4WD
モーター型式前/後 EM/EM27
フロントモーター最高出力 (kW/rpm) 175kW(4,600-10,000)
フロントモーター最大トルク (N・m/rpm) 370Nm(0-4,000rpm
リヤモーター最高出力 (kW/rpm) 303kW/7,400-10,400rpm
リヤモーター最大トルク (N・m/rpm) 400Nm/0-7,200rpm
駆動用バッテリー種類 リチウムイオン電池
総電力量(kWh) 84.0
WLTCモード 航続距離(km) 561
交流電力量消費率 (WLTCモード/自社測定値) (Wh/km) 167
電費(航続距離÷総電力量)(㎞/kWh) 6.68
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