ホンダ国内唯一のセダンがアコード
2024年3月、ホンダ アコードがフルモデルチェンジし11代目(CY2型)となった。初代アコードが1976年に登場してから、48年もの歴史を刻んできたモデルだ。今でこそ北米メインの重要なモデルへと成長したものの、日本国内では人気薄のセダンカテゴリーであることも加わり存在感があまりない状態だ。
セダン離れは、アコードだけでない。圧倒的な営業力をもつトヨタでも、セダンであるクラウンをクロスオーバー化すると同時に、ボディタイプの選択肢を増やしリブランドしたほどだ。
日産の場合、スカイラインをガソリン車のみとして細々と販売を続けている。アコードも国内販売は厳しい状況で、ホンダの月間国内販売計画台数は200台と少ない。すでに、レジェンドやインサイト、シビックセダン、グレイスなど多くのセダンが国内から撤退しているため、国内ホンダ唯一のセダンとなった。
販売台数が少ないとはいえ、国内営業面から見れば、セダンがあること自体が重要。ホンダのセダンユーザーが一定数いるからだ。アコードが無くなれば、セダンユーザーは他メーカーに流れてしまう。こうしたセダンユーザーの受け皿としての役割もあるため、セダンを販売し続けることは重要だ。
よりワイド&ローなスタイルを強調したアコードのデザイン
新型アコード(CY2型)のプラットフォームは、先代アコード(CV3型)からのキャリーオーバーとなった。ホイールベースは2,830mmと同じだ。
ボディサイズは、全長4,975mm×全幅1,860mm×全高1,450mm。先代モデルと全幅と全高は同じだが、全長は75mm長くなった。室内スペースは、ほぼ同等だ。
先代アコードと、全体のシルエットは似ている。プラットフォームはキャリーオーバーで、全幅と全高は同じだからだ。しかし、よりワイド&ローなスタイルの強調に成功している。
外観デザインには、水平基調のヘッドライトやリヤコンビネーションランプを採用した。アッパーグリルとロアグリルはブラックアウトしている。
全長が少し伸びたことも相まって、先代アコードと似たシルエットながら、よりワイド&ローなスタイルが強調された。
さらに、ルーフはBピラー上部付近を頂点とし、滑らかにリヤエンドに向けて傾斜するクーペ風としている。
そんな新型アコードのデザインコンセプトは、フォーマルでありながら、創造性を兼ね備えた「クリエイティブ・ブラック・タイ」だ。少々難解だが、フォーマルなセダンでありながら、個性的でスタイリッシュなデザインと読み解ける。
音声認識はグーグルを採用。精度や使い勝手が飛躍的に向上
新型アコードのインテリアは、シンプルながら上質感がある。水平基調のインパネデザインにより、広々とした空間を演出した。ソフトパッドの多用や、リアルステッチを効果的に使うことで、派手さを抑えながら高い質感あるインテリアとしている。
運転席に座るとノイズの少ないデザインなどにより、視界の良さが際立つ。左右のフロントフードの位置も分かりやすいので、ワイドな全幅ながら運転しやすい。これは美点だ。最近のホンダ車では、多く採用されているデザイン手法だ。
シートはやや大型で、サイドのサポートも適度にあるため、体をしっかりとホールドしてくれる。同時に、快適な座り心地を提供してくれた。
メーターは、10.2インチのデジタルメーターだ。ドライバーの好みで、2眼、オーバル、シンプルの3タイプから選択できる。ただ、細かい文字が小さいため、中高年の老眼ドライバーだと、内容を確認・理解するには少々時間がかかるだろう。
センターコンソール上部には、グーグル搭載の12.3インチタッチパネルであるホンダコネクトディスプレイを装着。14インチ前後の大型ディスプレイが続々と登場している中で、12.3インチだと小さく思うかもしれない。だが、実際に使ってみると、とくに不便さもなくこれで十分だと感じた。
劇的進化を遂げたのが、音声認識機能だ。音声でエアコンやナビなど車両の操作が可能になる。過去に開発したホンダ独自のパーソナルアシスタントを利用した際は、音声を正しく認識してくれずかなり苦労した経験がある。
さすがに、ホンダも限界を感じたのか、独自パーソナルアシスタントサービスを終了し、グーグルを採用した。その結果、音声認識や操作性はもちろん、数々の機能も飛躍的に向上し、別次元の使いやすさとなった。やはり、餅は餅屋ということだ。
新型アコードのパワーユニットは大幅進化したスポーツe:HEV
新型アコードのパワーユニットは、先代から引き続き2.0Lのシリーズハイブリッドシステム「e:HEV」を用いた。文字面では同じ2.0L e:HEVだが、中身は大幅に進化している。
2.0Lエンジンは、LFB型からLFD型となり最高出力は2㎰アップし147㎰に。最大トルクは7Nmアップの182Nmとなった。
駆動用モーターも同様に進化。最高出力は184㎰と同じだが、最大トルクは20Nmアップの335Nmとなった。
驚いたのが、新型アコードの燃費性能だ。パワーアップしつつも、燃費性能は23.8km/L(WLTCモード)と、先代比で1.0km/Lアップを実現している。
2.0L e:HEVは若干トルクがアップしたものの、通常の加速ではパワーの違いはほとんど感じ取れなかった。
だが、走行中にアクセルオフからアクセルオンにした際はパワーの差を明確に感じた。出力&トルクの立ち上がりが早く、旧モデルと比べると少し排気量が大きくなったようなフィーリングで、アクセルレスポンスもよい。
ただ、日産のe-POWERほどグイグイとトルクを立ち上げるタイプではない。ジェントルなセダンらしく、スムースでレスポンスの良い力強さが新型アコードの魅力だ。
また、市街地など50km/h以下の速度でのEV走行が可能な領域も増えた。走行状況にもよるが、EV走行が可能な領域が増えれば、さらなる実燃費の向上も期待できる。
とにかくよく曲がる!そのs訳とは?
山道を走行すると、アコードのキャラクターがより鮮明になる。ステアリング操作に対して、新型アコードは俊敏に反応して旋回する。俊敏だが、過敏ではない。上級セダンらしい、しっとり感のあるハンドリングだ。
このハンドリングを支えている技術が「モーションマネジメントシステム」であり、従来のアジャイルハンドリングアシストの進化版とも言える。
アジャイルハンドリングアシストは、ドライバーの操舵や車速からクルマの動きを予測し、必要に応じてカーブ内側の前輪に軽くブレーキをかけるなどしてコーナリングを支援する機能だ。
新型アコードに搭載されたモーションマネジメントシステムは、この機能に加えて、走行用モーターとブレーキを統合制御する。適度に減速させることで前輪荷重を増大させ、前輪のグリップ力を高めることで旋回性能を向上させる。市街地や山道など、一般的な走行シーンはもちろん、雪道など滑りやすい路面でも効果を発揮する。マツダの車両制御技術である「GVCプラス」に近い。
このモーションマネジメントシステムが、自然で気持ち良い走りをアシストする。スキルのあるドライバーなら、カーブの際、ブレーキやアクセル操作で前輪荷重を意識して曲がっているだろう。
ところが、このモーションマネジメントシステムなら、自然に前輪荷重にしてくれる。ドライバーが前輪荷重を意識しなくても、クルマはクイクイとよく曲がるのだ。まるで自分の運転が上手くなった気がする。多くの人が運転を楽しめるようになる技術と言えるだろう。
自らステアリングを握りたくなるスポーティセダン
新型アコードには「アダプティブ・ダンパー・システム」が装備されている。ダンパーの減衰力を車両の走行状況に合わせて連続的に最適化する機能だ。
そのおかげで、全般的に前後左右の揺れが減っており、車両は常にフラットな姿勢を維持してくれる。特にカーブで車体の傾きは適度に抑えられていて、安定してアクセルを踏めた。
新型アコードの乗り心地は、路面の凹凸が続く荒れた道だとゴツゴツ感が伝わってくる。235/45R18という扁平タイヤを履いていることも、ゴツゴツ感の要因だろう。速度がある程度上がると、快適性がグッと増すタイプだ。
新型アコードは、スポーティセダンとしてキャラクターを際立たせる技術が満載だ。自らステアリングを握り、走りを楽しみたい人向けのセダンであることが明確に伝わってくる。新型アコードは、いかにもホンダらしいスポーティセダンといえる。
特に街中での使い勝手が良かったのが「減速セレクター」だ。ステアリングに取り付けられたパドルで速度を操作する機能である。先代モデルにも装備されていたが、新型アコードでは4段から6段へ多段化された。このパドルを使えば街中での速度調節もブレーキを使わず行えるので、とても便利な上、疲労軽減にも繋がる。減速度を大幅に高めたことで、最高段に固定するとアクセルペダルだけで車速を停止間際までコントロール可能になった。
新型アコードは予防安全装備「ホンダセンシング360」を新搭載!障害物検知能力が大幅向上
予防安全装備も進化した。新型アコードは、全方位で安全運転を支援する「ホンダセンシング360」を国内モデルとして初搭載した。フロントセンサーカメラに加え、フロント中央と各コーナーに計5台のミリ波レーダーを搭載。12台に増設したソナーセンサーとともに360度の対象物検知が可能となった。
こうしたセンサーの増設などにより、従来のホンダセンシングにはない機能が追加されている。一つ目は、接近する見通しの悪い交差点などで、車両の接近をドライバーへ通知する機能だ。接触する危険性がある場合、システムがドライバーへ音とメーター表示で危険を警告し、衝突回避の運転操作を要求する。
二つ目は、高速道路などでシステムが車線変更するためのステアリング操作を支援する機能だ。渋滞追従機能付アダプティブクルーズコントロール(ACC)と車線維持支援システム (LKAS)が作動中にドライバーがウインカー操作をすると発動する。
他にも、車線変更時衝突抑制機能などの機能が追加されている。これは、車線変更時に隣接車線から接近する車両と接触の可能性がある場合、衝突回避のためのアラートやステアリング操作を支援するものだ。
上級セダンらしく、予防安全装備がすべて標準装備化されているのは高く評価できるポイントだ。
「あえてセダンに乗りたい人のためのセダン」がアコード!
新型アコードのグレードは、「e:HEV」のみでオプション設定もない。価格は5,449,400円だ。先代アコードの価格が4,650,000円だったので、約80万円の価格アップとなった。資材高騰などもあるとはいえ、かなり高額になった。この価格が国内マーケットでどう評価されるか注目だ。
SUVの人気は止まることを知らない。そんな時代だからこそ、あえてセダンに乗るという選択も良い。セダンには、SUVには無い走りの良さなどの魅力がある。また、周囲の流行や意見に左右されず、自らの好みや自分らしさを貫き通すには、かなり勇気がいる。だからこそ、今、あえてセダンに乗るということは、付和雷同なクルマ選びはしない。セダンらしさを凝縮した新型アコードから、そんなメッセージが聞こえてきた。
<レポート:大岡智彦>
CY2型ホンダ アコードの新車価格、 サイズ、燃費などスペック
・アコードe:HEV:5,449,400円
代表グレード | e:HEV 2WD |
全長×全幅×全高 | 4,975mm×1,860mm×1,450mm |
ホイールベース | 2,830mm |
最低地上高 | 135mm |
最小回転半径 | 5.7m |
車両重量 | 1,580kg |
エンジン型式 | LFD |
エンジンタイプ | 直列4気筒DOHC |
総排気量 | 1,993cc |
最高出力 | 147ps(108kW)/6,100rpm |
最大トルク | 182N・m(18.6kgm)/4,500rpm |
モーター最高出力 | 135kW(184ps)/5,000~8,000rpm |
モーター最大トルク | 335N・m(34.2kgm)/0-2,000rpm |
燃費(WLTCモード) | 23.8km/L |
動力用主電池 | リチウムイオン電池 |
駆動方式 | 前輪駆動(2WD) |
サスペンション | 前:マクファーソンストラット式 後:マルチリンク式 |
タイヤサイズ | 235/45R18 |
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