横浜ゴムのスタッドレスタイヤの歴史と最新のアイスガード6
横浜ゴムが、AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)の会員向けに、スタッドレスタイヤの勉強会&試乗会を実施した。
日本では1991年からのスパイクタイヤ規制開始を控え、タイヤメーカー各社は1980年代後半からスパイクのないスタッドレスタイヤの販売を始めた。横浜ゴムも1985年にガーデックスの名前で最初のスタッドレスタイヤを発売している。
その後、改良を重ねながら雪上性能、氷上性能を進化させ、2017年には7世代目に当たる最新のアイスガード6を発売している。日本には、世界にも類を見ないくらいに過酷な冬季の道路環境があるため、さまざまな気温と路面状況に対応することを目指してスタッドレスタイヤの開発を勧めてきた成果だ。
商品コンセプトとしては、①最も重要な氷上制動性能を進化させること、②好評を得ている効きの長持ちと燃費性能への期待に応えること、③ウェット性能、静粛性を向上させること、の3点を上げている。
スタッドレスタイヤが圧雪路などを普通に走るのはもはや常識といって良いレベルで、最も厳しい条件である表面が濡れたアイスバーン状態の路面での制動性能をしっかり確保するのが第一義ながら、今の時代のスタッドレスタイヤにはほかにもさまざまな性能が求められている。
それが効きの長持ちであり、燃費性能であり、静粛性であり、オンロードでのウェット性能であったりするわけだ。これらの性能も併せ持つスタッドレスタイヤとして、アイスガード6が開発されている。
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スタッドレスタイヤのキモは吸水材にあり!?
かつてのスパイク(スタッド)タイヤは、スタッドが氷に突き刺さることでグリップを発生させていたのに対し、スタッドレスタイヤはゴムと氷の密着力を高めることでグリップを実現している。
この原理は、冷蔵庫から取り出したばかりの氷を考えると良く分かる。当初は表面が乾いているのでつかみやすいが、少し時間が経つと表面の氷が溶けて水の膜ができるため、滑って簡単にはつかめないようになる。溶けた水が潤滑材の働きをするからだ。
スタッドレスタイヤでは、凍った路面の表面にある水分を除去することで氷とタイヤのグリップ力を発生させている。そのために必要なのが吸水材であり、吸水材が発生する気泡だ。
タイヤのトレッド部分のゴムの表面に、ミクロン単位の小さな気泡を作り、そこに水を含ませることで氷とタイヤの密着度を上げるという手法が採用されている。発泡剤の材料などはタイヤメーカーによって異なるが、各社のスタッドレスタイヤは、同じような考え方によって作られている。
今回の勉強会では、こうしたスタッドレスタイヤの原理について改めてじっくり解説を受けたほか、さまざまな手法によって氷とタイヤの密着度を評価していることなどの説明があった。
日本未発売のオールシーズンタイヤ「ブルーアース4S AW21」
また日本国内では未発売だが、欧州などで発売して好評を得ているオールシーズンタイヤの紹介もあった。ブルーアース4S AW21と呼ぶオールシーズンタイヤは、2018年のジュネーブショーで発表されて欧州での販売を開始したもので、ウインター系タイヤの新しいカテゴリーを確立したという。
氷上での制動性能はスタッドレスタイヤに比べて劣るものの、高いスノー性能とウェット性能を両立させるとともに、ドライ性能や磨耗性能にも優れたタイヤとして評価されているという。その性能についてはドイツの評価機関であるTUVからもクォリティやパフォーマンスが認められたとのことだ。
この日はほかに、トラック・バス用スタッドレスタイヤについての解説があったほか、横浜ゴムが開発したクルマの外装に使われる自己修復コート材についての解説もあった。
何も起きない?! 不安感のないトラック・バス用スタッドレスタイヤ
スタッドレスタイヤの試乗会は、まずは見学から始まった。前日に解説を受けたトラック・バス用スタッドレスタイヤの発進性能の確認だ。大型トラックは生産財として乗用車用のタイヤとは異なる性能が求められる。
北海道や東北などでは、スタッドレスタイヤを履き潰す形で使われ、関東から西の地区などではオールシーズンタイヤを履き潰す形か、あるいはオールシーズンタイヤとスタッドレスタイヤを履き替える形で使われているという。
サマータイヤの場合には、経営者の視点から経済性を重視して選ばれることが多いトラック・バス用タイヤだが、スタッドレスタイヤになると必ずしも経済性重視だけではなくなり、ドライバーの意見によって選ばれることも多くなるという。氷上・雪上性能の高さが選択のポイントになるわけだ。
今回見学した大型トラックの雪道での発進と登坂路での走行では、何も起こらなかった。要するには、スムーズに発進して坂道を登って行った、ただそれだけだ。それはスタッドレスタイヤの性能によるものなのだが、ホイールスピンを生じさせることもなく、スムーズに走った。
次のメニューは、大型トラックに同乗してスラロームを体験するというものだ。大型トラックというと鈍重なイメージが強く、パイロンスラロームなどできるのかという感じだったが、これまた意外なくらいに優れ性能を示してくれた。
車速は時速35km程度とそう高くはないのだが、かなりタイトな感じのスラロームコースを自然に駆け抜けて行った。
同乗試乗の最後には、ABSを効かせての急制動なども体験した。大型トラック用のABSはかなりがさつというか、効かせた瞬間にガンガンガンという感じで強い振動と騒音がやってくるが、それによって雪上での性能の向上が実現されているのが分かった。
圧雪路では、穏やかな挙動だったアイスガード6
試乗会では、雪上コースと氷上コースの2種類のコースが設定されていた。最初に試乗したのは屋外の雪上コースだったが、この試乗のときには雪がかなり強く降ってきて、視界もかなり悪い状況だった。試乗者の中には道路と雪壁の区別がつかなくなってスタックした人もいたほどの環境だった。
このコースで確認したのは、発進性能、加速性能、パイロンスラロームによるハンドリング性能、フルブレーキングしての制動性能などだ。路面の状態は圧雪路に降りしきる雪がうっすらと積もったような状態で、雪上性能を判断するのは絶好ともいえるコンディションだった。
まずはスタンディング状態からの発進を確認し、そのまま約16m間隔で配置されたパイロンの間時速30km~40km程度でスラロームしてハンドリング性能を、さらにその先でフルブレーキングして制動距離を確認するという設定。その後はUターンして少し広めの27m間隔で配置されたパイロンの間を今度は少し車速を上げて時速50km程度でスラロームする。これを3回繰り返す設定になっていた。
発進時は、ラフにアクセルを開けたりしなければ、何の問題もなく走り出して行ける。アクセルを強めに開けたときには瞬間的にトラクションコントロールの警告灯が点灯するものの、すぐに落ち着いた走りになった。
16m間隔でのパイロンスラロームは、なかなか時速40kmまで速度を上げるのが難しく、時速35km程度での走りになったが、クルマの挙動は落ち着いていてテールを流すようなシーンはなく、またハンドルを切った分だけノーズが向いていく感じがあった。心持ちアンダー傾向を示すこともあったが、それはむしろ穏やかな挙動につながるものだった。
フルブレーキングでの制動も安定したものだで、時速40kmくらいからの制動を3回繰り返したが、制動距離に大きな違いが出ることもなかった。圧雪路でのアイスガード6の性能は十分に高いものがあることが分かった。
27m間隔のパイロンスラロームでは、車速が上がる分だけテールが出やすくなるものの、それもコントロールできる範囲内でのもので、不安感を感じさせるようなシーンはなかった。
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過信はNGだが、氷上でもしっかりとした制動力をみせたアイスガード
横浜ゴムの北海道タイヤテストセンターは、旭川空港から約15kmという便利な立地にある。かつて、ばんえい競馬場として使われていた土地を買い取ったとのことで、東京ドーム19個分に相当する約90万㎡の広さがあるという。そのうち平坦な部分が40万㎡以上とのことで、とても良いテストコースである。
その一角に立てられたのが屋内氷盤試験場だ。一見すると倉庫のような外観の建物の中に、長さ94m、幅18mの氷盤路がある。氷の状態は自然条件によって大きく変化するため、安定した状態でテストするには屋内での試験場が欠かせない。ほかのメーカーや研究機関なども屋内氷盤試験場を設けている。
冬季なので、タイヤメーカーとして本来の試験スケジュールもいっぱいのはずだが、この屋内試験場でAJAJ会員向けの試乗会を設定してくれたのはとてもありがたい話である。
それはともかく、氷盤路での試乗はやはりプリウスアイスガード6を装着した車両で実施された。スタンディング状態からの発進と、時速30kmからのフルブレーキング、さらにスラローム走行といった走りを3回繰り返した。
この試乗は正直、かなり難しかった。発進から時速30kmまで速度を上げ、そこからフルブレーキングして氷上制動性能を確認するのだが、恥ずかしながら3回の試験条件をうまく合わせられなかった。
μが0.1程度という超スリッピーな路面のため、発進するとすぐにタイヤが空転し、それによってスピードメーターの速度表示が上がってしまう。慌てて速度を下げようとすると下がりすぎたりして、ブレーキングポイントでの車速が同じにできなかったのだ。
ただ、メーター読みで時速30kmに近い速度からのフルブレーキングは、完全にABSを効かせながらの制動で、おっ、どこまで行くのかなという感じながら、タイヤが氷を掴んでいる感覚も体感できた。ブレーキ開始時の車速がばらついたため、制動距離には違いがあったが、最新のスタッドレスタイヤの氷上制動性能は大したものだと思った。
実際の路面ではさまざまな状況が考えられるから、スタッドレスタイヤを装着しているからといって油断は禁物だが、タイヤによって救われるシーンも多いのだろうというのは良く分かった。
まだまだ伸びる氷上性能? アイスガード6と試作品タイヤの比較試乗
これに加え、今回の試乗では、もうひとつのメニューも用意されていた。市販されているタイヤとはゴムの組成を変えた試作品タイヤを装着車車両での試乗も用意されていた。同じプリウスに市販のアイスガード6装着車と、市販品のタイヤに対して発泡剤の量を30%ほど増量した試作品タイヤを装着した車両が用意されていたのだ。
発泡剤を増やすことで、氷の表面にある水分を除去する能力が高まるので、それだけ制動距離が短くなるというわけ。実際に試乗すると、ばらつきはあるものの、制動距離が1割以上短くなった感覚があった。厳密に測定したわけではないが、試乗コースのサイドに目盛りが用意されていて、それで確認できたのだ。
制動距離が短くなるなら、この試作品タイヤを市販品にしたら良いのではと思ったが、ことはそう簡単ではない。前述のように、スタッドレスタイヤでは氷上制動が最も強く要求されるとはいえ、ほかにもいろいろな性能が求められる。
発泡剤を多くすることは、コストが上昇し、耐久性や静粛性にも影響するなどのデメリットもあるため、単純に発泡剤を増やせば良いというものではないようだ。ただ、こうした試作品を作ったさまざまなテストを繰り返すことで、最適な性能を持つスタッドレスタイヤを作ろうとしているのだ。
日本未発売のオールシーズンタイヤ「ブルーアース4S AW21」を試す
もうひとつ、前日の勉強会で説明のあったオールシーズンタイヤのを装着したCX-5への同乗試乗も用意されていた。
このタイヤはまだ日本での発売は決まっていないので同乗試乗の形になったが、アイスガード6に比べるとやや性能は劣るとは言うものの、圧雪路を中心にした試乗コースでは十分に良く走る印象だった。
問題は氷上制動性能で、これはアイスガード6に比べるとやや劣るため、北海道や東北などのミラーバーンのような路面ができやすい本格的な積雪地での使用は難しいかも知れない。ただ、関東以西のようなふだんは雪の降らない温暖な地区では、急な雪に対応できるタイヤとして評価されるのではないかと思う。
急に雪が降ってきたために、クルマを置いて別の方法での帰宅を迫られることがなくなるというメリットかあるからだ。ドライのオンロードでの性能に優れることやコストなども含めて、ブルーアース4S AW21が市販されれば、オールシーズンタイヤを選択するユーザーは案外多いかも知れない。
逆にいえば、関東地区でも雪の後にはビルの陰などで雪が凍っていることも考えられるから、そんなシーンでは厳しい状況になることもあるわけで、ユーザーの使い方次第ということになるだろう。
<レポート:松下 宏>
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