国内唯一! EV投入で、4つのパワーユニットをもつことになったX3
BMWは、プレミアム・ミドル・クラスSAV(スポーツ・アクティビティ・ヴィークル)「BMW X3 (エックス・スリー)」のラインアップに、純電気自動車(BEV)の「BMW iX3(アイ・エックス・スリー)」を追加した。
BMW X3はオフロードの走破性を極めたSUVの機能に、スポーツモデルに引けを取らない、俊敏なスポーツ走行性を持たせたクロスオーバーSUVだ(BMWではSAVと呼ぶ)。
このBMW iX3は、BMWが新たに展開する純電気自動車「iX」と同じく、ミドルクラスSUVのBMWX3に電動パワーユニットを搭載したもの。エンジン(ガソリン・ディーゼル)とプラグイン・ハイブリッド(PHEV)に、新しく純電気自動車「iX3」が加わることで4種類のパワーユニットをを持つラインアップとなった。より細かくユーザーの嗜好や要求に対応出来るようになっている。国内で販売されるモデルの中で、4種類ものパワーユニットが設定されているのはiX3のみだ。
また、現在ガソリン価格の高騰が続き家計を圧迫。さらに、全世界でカーボンニュートラルが叫ばれていて、EVシフトが加速している。そんな中、iX3販売比率によっては、自動車マーケットの近未来が見えてくるような気がする。
遠目には、普通のX3! EVらしさのアピールは控えめ
新型BMW iX3のデザインは、BMW X3そのままで所々に電気自動車であることを主張するデザインを採用している。
外観で分かりやすい部分は、ラジエターグリルが塞がれている点。EVなので、ラジエーターが無いためだ。また、定番的なキドニーグリルやホイール、フロントフードBMWオーナメントへの「ブルーの差し色」、リアではエキゾースト部分もブルーになり、電気自動車であることを控えめに主張している。遠目から差異の判別は難しい。
新型BMW iX3の室内インテリアは、ブラック・ハイグロスでまとめられたセンターコンソールと、エアコン・システムのスイッチ類が並び、落ち着いた雰囲気を醸し出している。
さらに、新素材(センサテック)を用いた雰囲気の良い配色(MAMUモカ)のスポーツ・シートは滑りにくく、身体がしっかりとホールドされて安心感がある。これは長距離も疲れにくいと想像できる。
また、直感的な操作が出来る12インチのセンター・インフォメーション・ディスプレイなどが配置された。インストルメントパネル付近はBMW X3そのままだが、センターコンソールのスタート/ストップボタン、シフトノブにも「ブルーの差し色」を使ってクリーンなイメージを演出して差別化を図っている。
ドライバーズシートに座って、ステアリングやインストルメントパネルを目の前にしても全く電気自動車は感じさせず、良い意味で普通にX3だ。
当然の事ながら、ブルーのイグニッションスイッチを押してもエンジン音は無く、スイッチON時に小さなチャイムの様な音色と、インストルメントパネルの点灯で準備OKとなる。
慣れるまではエンジン音が聞こえないので2回・3回とスイッチを押してしまいので注意したい。あとはシフトレバーの「Dレンジ」を選択してアクセルを踏めば、音も無くスーッと動き出す。正直セルモーターやエンジン音の無い、この静かな空間にはまだまだ違和感をがある。
ボンネットを開けると、忘れ物をした気分に・・・
新型BMW iX3を走らせるために用意された大容量80kWhのリチウムイオン電池は、車両中心部分の床下に搭載されている。
本来エンジンの指定席であるボンネットフードを開けても、当然エンジンは見当たらない。ボンネットフード内の黒いカバーを持上げても、ステアリングのリンクなどが見えるだけで、ポッカリと大きな空間が広がり、何か大切な忘れ物でもした様な気分にさせられる。
貧乏性なので空きスペースを見ると、何か置けないか? 収納出来ないか? と、思ってしまう。ボンネットフードとグリルが一体化して跳ね上げが出来れば、この空いたスペースを有効に利用できそうだ。
「雑味」の無さが物足りなさを感じる
今回試乗する新型BMW iX3は、最高出力210kW(286ps)、最大トルク400Nm(40.8kgm)を発揮するモーターで後輪を駆動する。航続距離はフル充電で約508km(WLTCモード)と実用上十分な性能を持っている。これだけの航続距離があれば日常・長距離共に充電回数も少なくそれほど困ることはないだろう。
X3ハイブリッドのxDrive30e Msportと比較すると、車両重量で100kg程重くなっていることや床下にリチウムイオンバッテリーを搭載したこともあり、最低地上高は約25mm低い179mmとなった。トレッドもフロントは15mm広く、リアは15mm狭い。
新型BMW iX3の加速はナチュラル。床下に搭載された重量物(リチウムイオンバッテリー)の恩恵で、低重心化されている。荷重移動が少ないのか、リアの沈み込みや、フロントの浮きは感じられずフラットにグイグイと加速する。
エンジン搭載車で感じるザラついた振動(エンジン鼓動)が、ハンドルやシート、アクセルペダルに感じられないので、クルマに乗っている、操っている感覚が薄く寂しい。
走行中は、エンジンの回転数に伴った音や振動(エンジン鼓動)が感じられず、速度感が麻痺してしまう。アクセルの反応の良さと室内の静かさ、フラットさで速度感が無く不安になり、頻繁に速度計を気にしまった。
新型BMW ix3のアクセルペダルは、やや重さを感じる踏み応えで、反応に敏感さは無い。踏み込んだ量によってアクセルペダルの反力が増し、速度も増加するので加速の度合いを感じやすい。アクセルのストロークとペダル重さの変化で加速を感じる走行感覚だ。
電気自動車は、最大トルクが瞬時に立ち上がるため、急発進・急加速になりがちだ。ドライバーは、自らアクセルの操作を行っているので動きを予測して、身体の動きを支えている。だが、雑なアクセル操作だと助手席や後席の同乗者は発進・加速、減速により前後に揺すられることで不快になっている可能性が高くなるので注意が必要だ。
特に回生ブレーキを強めに設定すると、アクセルペダルの微妙な操作で身体が前後に振られやすくなり不快感を覚えてしまいがち。アクセルペダルの制御はソフトに穏やかな設定をお願いしたいものである。
電気自動車のアクセルペダルは、スイッチ的な反応が多く、踏込む量(ストローク)で加速をコントロールしている印象。ペダルの重さの増加が弱く踏み応えが薄いので、自分で操作している感覚が少し弱く感じる。
しかし、電気自動車の変速ショックの無いスムースさや、エンジンノイズの無い優れた静粛性などは何とも気持ちが良い。
重量増でもBMWらしい安定した走行性と操作性
新型BMW iX3は、モーターをリア軸に近い部分に配置。エンジン車に比べて車両重量は170kg重くなり、重量配分もエンジン車の50:50から43:57へと変化。フロントはマイナス74kg、リアはプラス244kgと重量バランスがリア寄りになっている。X3はフロント1,020kg、リヤ1,010kg。iX3は、フロントが 946kg、リヤが1,254kgだ。
しかし、アクセルに対するクルマの動きの反応(レスポンス)は良く、信号での発進や加速、カーブなどの走行はスムーズで気持ち良い。重さを感じさせないBMWらしい動きや安定性を持っている。
新型BMW iX3の直進性は、自己直進性が良く落ち着いた雰囲気がある。路面の凸凹やワダチなどでのフラツキも小さく安心だ。ステアリングもやや重さがあり、手応えもあるのでハンドルに手を添えているだけでも真直ぐに走ってくれる。
レーンチェンジ(車線変更)でも、ハンドルの切り初めにやや反力があり、そこからクルマが反応して動きだす。反力も切り足すと共に増すので切り過ぎず安心感がある。
少し速め(急いだ)のハンドル操作に対しても反応が良く、適度なロール感でスムーズに動き、切り返しへの追従性も素直さがある。車線変更後のクルマの収まりも反動や揺り返しが弱くスムーズで安定していて不安感がない。
コーナリング時もハンドルの効きが良く、切り初めが動き過ぎずに適度でスムーズだ。回り込んだコーナーでもハンドルを切り足せば追従する。その時のクルマの傾き(ロール)も大きくなりにくい。身体が横方向に引っ張られる感じが小さいのはアダプティブ・サスペンションの恩恵なのか、安心感のあるコーナリングが出来る。
走行時のノイズは、発進時にモーター特有の高周波音は発生しているが、音量は小さく、遮音性が良いのか快適性を邪魔するものでは無い。タイヤノイズ(パターンノイズやロードノイズ)も、路面が変わる際の音質変化も気にならず、音量も小さいので聞き取りにくい。段差や突起を乗越す際の衝撃は弱くショック音も小さい。
連続した路面のうねりなどでもクルマが揺すられる感じは無くフラット感があり、路面継目などの段差で一瞬身構えるが、難なく通過して拍子抜けしてしまうことがある。
全般にエンジンの躍動する鼓動感が身体に伝わってこないのは寂しくもある。だが、発進や加速が静かで、身体が揺すられることもなくフラットで居住性はすこぶる良い印象である。
試乗車に装着されたタイヤは、フロントが245/45R20 103W(8-Jx20)、リアが275/40R20 106W(9.5-Jx20)のYOKOHAMA ADVAN Sport☆で、運動性能と居住性が両立されていて、マッチングの良い印象で作り込みの上手さを感じる。
回生ブレーキをパドルでコントロールしたい
回生ブレーキは、標準の「アダプティブ」に加えて「ロー」「ミディアム」「ハイ」の3段階の選択が可能。
シチュエーションによって選択の出来る設定は、インストルメント中央のディスプレイで設定変更を行う。そのため走行中に少し強い減速が欲しいときなどの設定変更は、ディスプレイを注視する事になるので操作出来ない。エンジンブレーキの様にシフトレバーやパドルでの操作が出来ると良いなと感じた。
今回のBMW iX3では、設定として3つのモードが準備されているが、走行中のモード変更は想定されていないようだ。日本より高い走行速度域の地域を考えて、高速時にフットブレーキ的な強い回生ブレーキは使用しないように、回生とブレーキは別物として明確に分けて考えられているのかも知れない。回生と共にブレーキ機能も持たせたワンペダル(アクセルペダル)でのドライブが、環境やドライバーの疲労軽減にもつながるのにと思ってしまう。
最新の安全機能・運転支援システムの標準装備と充実したサービス体制
新型BMW iX3にも、他のBMWに同じ高性能3眼カメラ&レーダー、および高性能プロセッサーを搭載。最新の高い解析能力を持った、より精度と正確性を向上させた最先端の運転支援システムを標準装備している。
このように、ユーザー優先と言える装備が標準で用意されるのに加えて、安全機能・運転支援システムでも、最新の安全機能・運転支援システム「ドライビング・アシスト・プロフェッショナル」など、BMW最新世代の機能を詰め込み、日本初認可を取得したハンズ・オフ機能付き渋滞運転支援機能も標準装備する。
新型BMW iX3にも、他のミドルクラス同様にBMWコネクテッド・ドライブが標準搭載。車載通信モジュールによりドライバー、クルマ、そして取り巻く情報をITネットワークでつなぎ、「もしもの時に備える万全の安全性」、「カーライフを進化させる革新の利便性」、「充実の情報と最新のエンターテインメント」が提供される。
新型BMW iX3には、3年間の主要メインテナンスも無償提供。タイヤやキーの破損、紛失の際の費用サポート等が含まれる「BMWサービス・インクルーシブ・プラス」が全車に付帯されている。この「BMWサービス・インクルーシブ・プラス」は、2016年よりBMW全モデルに標準装備された新しいメインテナンス・パッケージで、ユーザーに対してより安心なドライブを提供する嬉しいサービスだ。
「悩む」価値のある、豊富な選択肢をもつX3シリーズ
新型BMW iX3の比較対象として、同グレードのPHEV(エンジン+モーター)のX3 xDrive30e M Sportの価格は8,570,000円。対してiX3の価格は8,620,000円で電気自動車としてはお買い得感がある。しかも、補助金が今のところ40万円とさらに買い得感が増す。
4WD機能が絶対に必要な降雪地域の人を除けば、実用十分な航続距離を持っていて、快適な移動空間を手にしたい人は、やはりBMW iX3という選択がベストと言えそうだ。
充電方式も最新のテクノロジーを採用して、対応する急速充電器(最大80kW)の場合、70分以内で約80%までの充電が可能。およそ10分の充電で約80km走行距離を伸ばすことが出来るなど、ちょっとした買い物や高速道路の充電設備が混雑している時には嬉しい。
また、自宅や公共の普通充電設備(最大9.6kW)では、一晩(約8時間)で0から100%の状態まで充電できるから、通勤などのサイクルも不満はないだろう。
ただ、自宅に充電設備を設置するなどの費用がかかり少々面倒な部分はある。
こうなると、100万円程価格の安いxDrive20d M Sportが候補として浮上してくる。しかし、カーボンニュートラルが叫ばれる中、未来を考えると今更、化石燃料車を買うというのも微妙な選択になってしまう。
急がれる高圧急速充電器の普及と官民一丸となった協力体制の構築
最近では、高速道路以外の充電スポットも比較的多く設置されてきている。だが、高圧急速充電器の数は少なく、必ずしも充電環境に不満が無いと言い切れる環境ではない。
長距離移動するときは、事前にある程度下調べを行う必要があるだろう。特に土日などの観光地にある急速充電器などは、待ち時間が発生することも珍しくない。時間に余裕を持って行動・計画したい。
今後、国のインフラ整備を期待すると共に自動車メーカー相互の協力体制の広がりに期待したい。
レポート:河野達也
BMW iX3価格
・BMW iX3 M Sport 8,620,000円
*参考価格
・BMW X3 xDrive30e M Sport 8,570,000円
・BMW X3 xDrive20d M Sport 7,660,000円
BMW iX3電費、ボディサイズなどスペック
全長 x 全幅 x 全高(mm) 4,740 x 1,890 x 1,670
ホイルベース(mm) 2,865
車両重量(kg) 2,200
車両総重量(kg) 2,475
最低地上高(mm) 179
定員(名) 5
トランクルーム(Litter) 510 後席折畳み時1,560
駆動方式 後輪駆動(RWD)
電動機型式 HA0001N0
蓄電池種類 リチウムイオン電池
容量(Ah) 116
総電圧(V) 345
総電力量(バッテリー容量)kWh 80.0
最高出力(kw[ps]/rpm(EEC)) 210 [286]/6,000
最大トルク(Nm[kgm]/rpm(EEC)) 400 [40.8]/0-4,500
一充電走行距離 WLTCモード国土交通省審査値(km) 508
最小回転半径(m) 5.7
タイヤサイズ フロント:245/45R20 、リア:275/40R20
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