ワクワク感MAXになるEVがホンダe
この仕事を長く続けていると、新型車が出ても年々、新鮮な感動というものが減ってきている。ところが、ホンダeは久しぶりに乗る前からワクワクした。
ホンダeへの期待値が高い理由は、全長4mを切るコンパクトなボディサイズに、リヤにモーターを設置した後輪駆動モデルであること、世界初5つのスクリーンを水平配置したインパネ、なぜだかキュンキュンするような愛らしいデザインなどだ。
ワクワク感MAX状態で、ついにホンダeとご対面。いやぁ、もうカワイイじゃないですか。ちょっとホッコリするような癒し系でもある。ヘッドライトは、ブラックアウトされたグリルの中で、ボディサイドギリギリに設置。クリっとしたまんまるの離れ目顔。ちょっととぼけた表情で愛着がわく。これとほとんど同じデザインがリヤビューにも採用され、ここだけ見るとどっちが前か後か分からなくなるくらいだ。
リヤビューは、ルーフに向けて上部を絞った台形デザイン。フェンダーは、やや膨らませられ、まだ少し詰めが甘いもののタイヤをフェンダーギリギリに設置。安定感あるフォルムを生み出した。低重心感ある安定したリヤビューは、スポーティな印象を与える。
意外と空気抵抗を意識?
一般的にEV(電気自動車)は、航続距離を伸ばすために、空気抵抗を減らし電費をアップさせる。デザイン面では、フロントフェイスを薄くしてAピラーを寝かしたデザインが採用されることが多い。日産リーフもそんな感じのデザインだ。
ところが、ホンダeは「空気抵抗ってなんですか?」と、言わんばかりにやや立ったAピラーをもつ四角いシルエットだ。電費に関しては、割り切ったのか? と、感じさせる。
だが、ドアミラーのかわりにサイドカメラミラーシステムを採用。これで、空気抵抗や風切り音を低減。この170万画素の高性能なカメラで映した映像を、6インチの大きなディスプレーで確認できる。少し後方のクルマとの距離感に慣れが必要だったが、夜間時や悪天候の際には、自動調光機能により鮮明な後方視界を提供してくれるので、より安全なドライブが可能となりそうだ。
さらに、使用時に自動でポップアップし、自動で収納するフラッシュアウターハンドルも同様。ドアノブがボディサイドから飛び出ていないので、空気抵抗を減らす意味もある。意外と空気抵抗を減らす工夫がされていて、同時に先進感も感じさせる装備だ。
意思疎通には慣れが必要な「ホンダパーソナルアシスタント」
ホンダeに乗り込むと、インパネには世界初となる5つのスクリーンを水平配置するワイドビジョンインストルメントパネルが目に入る。なかなか圧巻の景色で、今まで見たことのない未来のクルマといった印象だ。
中央に12.3インチのスクリーンを2画面並べた「ワイドスクリーン Honda CONNECT ディスプレー」を配置。運転席や助手席でそれぞれ表示機能を選択したり、左右のアプリを入れかえたりなど、多彩な使い方にも対応している。
また、新世代コネクテッド技術「Honda CONNECT」には、クラウドAIによる音声認識と情報提供を行う「ホンダパーソナルアシスタント」を搭載。「OK, ホンダ」と呼びかけることで、音声認識によりナビやエアコンなどの操作が可能になる。
実際に使ってみると、やはりまだまだ、お互い意思疎通ができていない状態だったこともあり、結局手動で対応といったことに。まぁ、キーワードとなる単語や発話方法など慣れてくれば、より扱いやすくなるのかもしれないが、個人的にはあってもなくても・・・、といった印象だった。
また、スマートフォンでのリモート操作も充実。エアコン操作はもちろん、充電管理、広い駐車場でクルマの位置が分からなくなったりした場合も探しやすくする機能もある。
また、もしもの時に頼りになるが緊急サポートセンター。エアバッグが作動するような事故の場合、オペレーターに自動通報。警察や消防など、適切な対応をしてくれる。
さらに、面白い機能がALSOK駆けつけサービス。駐車中のクルマが異常を感知すると、スマートフォンに通知。クルマから離れた場所にいるときは、緊急サポートセンターを通じて、ALSOKのガードマンを現場に急行させることができるというもの。盗難やいたずらなどの対策になり、頼りになりそうなサービスだ。
こうした先進的なサービスをもつホンダeだが、インテリアは癒し系。ウッド調パネルを採用することで、落ち着いた空間を創り出した。ただ、もう少しウッド調パネルの質感をリアル木目に近付けて欲しいところだ。
基本2人乗りと割り切れば問題なし!
ホンダeは、シティコミューター的EVでコンパクトなボディサイズということもあり、後席は2名乗車となり定員は4名。全幅が1,750mmと十分にあることもあり、フロントシートの横方向スペースは意外と十分にある。助手席も後席に人が乗っていなければ、十分なスペースだ。
後席は、リヤにモーターが設置していることもあり、ニールームは少々タイト。長時間座り続けるのは、少々しんどいだろう。
荷室は、かなりタイトだ。荷室の位置も高めで、ちょっとした日々の買い物を載せるくらいのスペースとなる。後席を倒すと565Lというスペースになる。これくらいあると、2名乗車の旅行なら十分といったところだろう。
ホンダエンジン的? 伸びのあるモーターが〇
そして、最大の関心事が、ホンダのeの走りだ。ホンダeは、リヤにモーターを積む後輪駆動モデルだ。リヤにモーターを設置しているとはいえ、ホンダeの重量配分は前後50:50というもの。しかも、35.5kWという大容量バッテリーを床に設置され、かなり低重心化されている。カワイイルックスながら、スポーツカー顔負けの運動性能を誇る数値となった。
試乗したのは、ホンダeのパワフル仕様でもあるアドバンス。154ps&315Nmを誇る。エントリーグレードは、136ps&315Nmという出力になる。
クラスは異なるが、日産リーフ(40kWh)とホンダeの車重はほぼ同等。リーフの最大トルクは320Nmとトルクも同等程度なので、加速力に大きな差はない。ところが、加速感には差があった。リーフは、初期にドンとトルクが立ち上がり、グイグイと加速する。
ところが、ホンダeはドンというトルクの立ち上がりは、それほど強烈ではなくアクセル操作に対してリニアにトルクが増していく感じだ。そのため、一瞬リーフの方が速く感じるかもしれない。
また、面白かったのがアクセル全開時の加速感。リーフは、最初の加速感はあるものの、一定の速度になると加速度がドンドンと落ちてくる。しかし、ホンダeは、加速度の落ちが少なくEVとしては、息の長い加速が維持される。勝手なイメージなのだが、高回転までガンガン回るホンダエンジン的でもあった。こうしたモーター制御は、好みにもよる。個人的には、ホンダeのモーター特性の方が好みだ。
また、ホンダeは後輪駆動モデルなので、アクセルを踏んだ時のトラクションも痺れるポイント。後輪駆動のメリットでもあるトラクションの良さを生かし、ストレスなく加速する。リーフのような前輪駆動EVでは、モータートルクが強大過ぎて、フロントのトラクション不足を感じることもあるだけに、とても気持ちがよい。
こんなに楽しい走りのEVは他にない?
そして、ホンダeはカーブでの安定感も絶品。50:50という理想的な前後重量配分となった。ドライバーがクルマの中心にあり、クルマと一体化したような気分になる。後輪駆動なので、アクセル操作で自在にクルマの向きをコントロールできる楽しさもある。
私は体感していないが、大先輩ジャーナリストが氷上でホンダeをテストしたときのコメントが「大きく切れる前輪舵角によって楽しくドリフトができた。こんなに楽しいEVはない。やはりクルマは後輪駆動だな!」だそうだ。
そんなホンダeも、開発当初は前輪駆動が検討されていたという。ところが、ホンダeのデザインを成立させるためには、ボンネットが短すぎるという結論に。そこで、多少狭くなる部分もあるが、走行性能などを含めるメリットの方が多いのであるならば、後輪駆動にするか! と、5秒で決まったとエンジニアは話してくれた。
ホンダeは、欧州などのCAFE規制(企業別平均燃費基準)をクリアするために、突貫工事的な開発がされた。スピード優先開発ということも功を奏したのか、色々な呪縛から解放され、エンジニア達が思い描く楽しいEVの理想が多く反映されたのかもしれない。話をしていると、エンジニア達も楽しんでホンダeを開発しているように感じた。結局のところ、作り手が楽しく開発できていれば、その想いは必ず買い手にも伝わるのだろう。
航続距離は気にならない? ホンダディーラーの急速充電器設置拡大が課題
さて、EVとはいえば、常に話題にされるのが航続距離。ホンダeアドバンスの航続距離は、259㎞(WLTCモード)となっている。バッテリー容量が35.5kWなので、カタログ値ベースの電費は、259㎞を35.5kWhで割ると7.3㎞/kWhになる。この数値を見たとき、思わず「電費悪っ」と感じたのだ。というのも、ほぼ同じ車重であるリーフ(40kWh)のカタログ電費は8.05㎞/kWhだからだ。
そこで、高速道路でホンダeの電費をチェック。速度はおおよそ80~100㎞/h内でクルーズコントロールは90㎞/h設定だ。クルーズコントロールを使っても自分の足で走っても、ホンダeの電費は6.5~6.8㎞/kWhしかでない。この実電費計算だと、ホンダeの高速道旅情での実航続距離はおおよそ231~242㎞となる。
以前、参考値だがリーフ(40kWh)で同様な速度域で高速道路を走行したときの電費が7.8㎞/kWhだったので、電費差は大きい。
ところで、よくEVは航続距離が短いだ云々と言う人がいる。実際、私はEVをよく利用するが、基本的に200㎞程度の航続距離があれば、大抵のことは事足りている。急速充電器も充実していて、充電で困ることもほどんどなくなった。ロングドライブ時も、トイレ休憩などの時に、10分程度でもちょくちょく充電していると、それほど困ることもない。
確かに、ちょくちょく充電というもの、手間なのだが慣れてしまえば気にならない。ホンダはホンダeをシティコミューターと位置付けているが、日本的な使い方であれば、普通のクルマとして十分使えると思う。
ただ、苦言もある。それは、急速充電器の設置されているホンダディーラーが非常に少ないこと。販売台数は少ないとはいえ、EVを売っているのにこうした体制はNGだ。急速充電したいときに、ホンダディーラーには急速充電器がなく、しかたなく日産ディーラーで充電というのは、とても気を使う。場合によっては、トラブルの火種になるかもしれない。EVを売るなら、まず自らのディーラー網での急速充電器設置を早急に行ってほしいものだ。
エコタイヤなんて必要ない!
ホンダeで電費チェック走行していて気になったのが、減速時のエネルギー回生。後輪駆動ということもあるのか、緩やかな下り坂でもあまり回生されないような感じた。搭載されるリチウムイオンバッテリーは、パナソニック製。エンジニアに言わせると、電気の出し入れが早く、かなり高性能なタイプで2年前倒して投入されたという。その割には? と、なると車両側の制御の問題なのだろうか?
まぁ、実電費があまり良くなかった大きな理由の一つは、やはりタイヤ。アドバンスには、なんとミシュラン・パイロットスポーツ4というスポーツタイヤが装備されているからだ。実は、車両をグルリと見て回ったときに、このタイヤに気が付き目が点になったくらいだ。
と、いうのは、EVは航続距離を伸ばす必要があることから、エコタイヤを装着するのが普通。それどころか、一般的なガソリン車でもエコタイヤを標準装備化して燃費を稼いでいるのが当り前。
それなのに、ホンダeは・・・。パイロットスポーツ4を履く理由は、単純明快だった。航続距離より、後輪駆動で50:50の重量配分を生かしたスポーティな走りを楽しんでほしいという想いからだ。この割り切り感は素晴らしい。いかにも、ホンダらしくて涙が出てきそうだ。走りより電費という人には、エコタイヤであるヨコハマのブルーアースを履くエントリーグレードが用意されている。
乗り心地は、硬いのか? それとも、しなやかなのか?
ホンダeの乗り心地は、しなやかなフットワークでなかなか快適だった。街乗りでも、細かい凹凸もよく吸収していた。その時は、もっと硬めのセッティングにして、よりスポーティな方向性でもよいかと思ったので、エンジニアとの懇談時に伝えると、「まだ、硬くですか? うーん、うちのクルマではかなり硬い方なんですけど・・・」。
だが、しばらくして、そのコメントが理解できた。大先輩のジャーナリストが、ホンダeを買ったのだ。納車された直後に同乗すると「硬い、カタイ」。路面の凹凸をガンガン拾う。少し速度が出ると、乗り心地は少し改善された。それでも硬めだ。
そこで、試乗車より圧倒的に硬くないですか? と、問うと、大先輩は「そうなんだよねぇ・・・」。違うクルマか? と思ったほどだ。
1,000㎞ほど走行した後に、再び同乗した時は、ややマイルドな乗り心地にはなっていた。もう少し走行すれば、乗り心地はしなやかさが増すのかな? と、思いつつ、私が乗った試乗車のレベルには、まだまだ遠い印象だった。こうしたこともあり、乗り心地については、ディーラーなどの試乗車でチェックしてほしい。
多くの人に愛されるEV!
まぁ、何にせよ、ホンダeは試乗前の期待値を超えていた。ホンダeは、ホント、おもしろい。走ることが好きな人にとっては、EVの新しい走りの価値を十分に感じられる。
また、別に走りなんか興味ないけど「ホンダe」カワイイと思っている人にも十分に満足させてくれる。そして、いわゆるアーリーアダプター的な人も、唸るくらいの先進性だ。多くの人に愛されるEVとなることは確実だろう。強いて言えば、約500万円という価格が足かせになる。補助金が多少出るとはいえ、もう少し、安いといいなぁ。
<レポート:大岡智彦>
ホンダe価格
・Honda e 4,510,000円
・Honda e Advance 4,950,000円
ホンダe航続距離、ボディサイズなどスペック
代表グレード:Honda e Advance
ホンダe全長(m) / 全幅(m) / 全高(m) 3.895 / 1.750 / 1.510
ホイールベース(m) 2.530
トレッド(m) 前 / 後 1.510 / 1.505
最低地上高(m) 0.145
車両重量(kg) 1,540
乗車定員(名) 4
ホンダe電動機(モーター) 型式 MCF5
種類 交流同期電動機
定格出力(kW) 60
最高出力(kW[PS] / rpm) 113[154] / 3,497 -10,000
最大トルク(N・m[kgf・m] / rpm) 315[32.1] / 0 -2,000
一充電走行距離(国土交通省審査値)WLTCモードKm 259
動力用主電池 種類 / 個数 / 電圧(V) / 容量(Ah) リチウムイオン電池 / 192 / 3.7 / 50.0
タイヤ 前・後 205 / 45ZR17 88Y ・ 225 / 45ZR17 94Y
サスペンション方式 前 / 後 マクファーソン式
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