日本進出第1弾は、CセグメントのBEV「ATTO3」
中国に自動車メーカーであるBYDは、2023年1月31日、ついに日本参入。日本参入第1弾モデルとして、新型ATTO3を投入する。
BYDは、1995年にバッテリーメーカーとして創業。2003年に自動車産業に参入し、現在では、あのテスラを抜きEV販売台数で、世界ナンバー1となった。すでに、70を超える国でBEVなどの電動モデルを販売。そして、満を持して日本にも進出してきた。
そんな、BYDの日本参入第1弾となるBEVが、新型ATTO3だ。ATTO3のボディサイズは、全長4,455×全幅1,875×全高1,615mmというSUV。全幅が1,875mmとかなりワイドなのが特徴。CセグメントのSUVカテゴリーに属していて、輸入BEVのボルボXC40リチャージに近いボディサイズをもつ。
日本の金型技術を採用!
新型ATTO3のデザインは、オーソドックスにまとめられていて塊感がある。全高がやや低いため、SUV感はあまりない。しかし、その分、ワイドなボディサイズが効いていてドッシリとした安定感があるスタイルとなった。世界的に流行っているリヤ横一文字コンビネーションランプを採用するなど、外さない万人受けするデザインとなっている。
このATTO3のデザイン、実は日本の技術も使われている。BYDのグループ会社である日本のTatebayashi Molding株式会社がボディパネルなどの外板用金型を製作。複雑な面構成を可能とした。BYDが販売するすべての車種はTatebayashi Moldingの金型によって生み出されているという。
優れた質感、リーズナブルな価格、国産EV危機的状況!?
オーソドックスな外観デザインに対して、個性的なのがインテリアデザイン。スポーツジムをイメージした。少々、難解なデザインイメージなのだが、全体的にポップでカジュアルな印象が強い。若々しいイメージなので、逆に落ち着いたラグジュアリーな空間を求める人には不向きだ。
ただし、円筒形状のドアノブやダンベルっぽいエアコンの吹き出し口など、今まで見たことのないようなデザインが施されていて、斬新感がある。
また、インパネデザインは、VW ID.4のようにメインのメーターディスブレイは5インチと非常に小さい。最低限の情報がシンプルに表示される。老眼が出てきた中高年のおじさんには、少々見にくい状況。
センターコンソールに設置された12.8インチディスプレイは、十分な大きさ。縦、横に電動で回転する機能付き。電動回転式は、ありそうで無かった機能。ナビを使用時には、縦型にして使うと便利。ヘディングアップ時では、進行方向のスペースが広く取れ、地図情報量も多く使いやすい。
一部、物理的スイッチを残し、操作性を向上させているものの、やはりタッチスクリーンは使いにく。右ハンドルでは、多くの人が利き手ではない左手で操作するからだ。画面上のアイコンも小さく、走行中の操作はなかなか困難。BMWのように、ダイヤル式の操作系も欲しい。
装備面では、開放感のあるパノラマルーフが標準装備されいるのも大きなポイントだ。
そして、驚いたのがインテリアの質感の高さ。BYD ATTO3の価格は440万円。400万円台のクオリティとは思えないほどの上質感があった。400万円台のEVとして、日産リーフがあるが、ATTO3の質感は、それを大きく超えている。このインテリアの質感と価格を聞いて「ATTO3侮り難し」と直感した。
実電費約8.1㎞/kWh! 良好な電費となったATTO3
BEVとして気になるのは、航続距離。BYD ATTO3には、58.56kWhという容量のリチウムイオンバッテリーが床下に搭載されている。駆動方式は前輪駆動。これらにより、航続距離は485㎞という十分なものとなっている。1kWh当りの電費は、約8.3㎞/kWhとなる。204ps&310Nmと高出力なモーターを使っている訳ではないこともあり、なかなか良好な電費値といえる。
直接比較はできないが、ATTO3よりパワフルなモーターを使うボルボXC40リチャージシングルモーターの電費は、約7.3㎞/kWhだ。このモデルの出力は231ps&330Nm。ATTO3よりパワフルなモーターなので、当然、電費は悪化する。
充電スペックは、AC 充電 Type1/6kW。DC 充電 CHAdeMO/85kWとなっている。
試乗は、高速道路を中心に約150㎞走行。実電費値は約8.1㎞/kWhとなった。ほぼカタログ値に近い良好な数値となった。
ATTO3のように60kWh級のリチウムイオン電池を搭載した他のモデルで電費テストを何度かしたが、7.0㎞/kWhを超えることはできなかった経験がある。ATTO3の実電費値、約8.1㎞/kWhという結果は、かなり優秀だ。
バランスよくまとまった走行性能
BYD ATTO3に乗り込み、ゆっくりとアクセルを踏み込む。スルスルと違和感無く加速。1,750㎏という車重に204ps&310Nmというモーターの組み合わせなので、BEVとしてはとくに速いとかパワフルといった個性はなく平凡。平凡とはいえ、BEVなのでアクセルレスポンスに優れ、アクセルを踏んだ瞬間から最大トルクをアウトプットするモーターの特性もあり、このクラスのガソリン車と比べればかなり力強い。
ドライブモードもエコ、ノーマル、スポーツから選択が可能。このモード切替だが、多少アクセル操作に対するレスポンスが変化する程度。あっても無くてもいいレベル。もう少しメリハリが効いている方が分かりやすい。
モーター制御も穏やかな仕様で、多少アクセル操作をラフにしてもギクシャクしない。また、アクセルオフ時の回生ブレーキも、ガソリン車のエンジンブレーキのように自然なフィーリング。街中でのストップ&ゴーでも、油圧ブレーキと回生ブレーキが切り替わる瞬間もほとんど分からないくらい。ガソリン車から乗り換えても、違和感はあまりないだろう。
車内の静粛性も優れている。しかし、その分、高速道路など速度が上がるとルーフ周辺の風切り音が気になった。また、加速時のキーンというインバーター音も少々耳障りな印象を受けた。
ATTO3の乗り心地は、ソフト系の快適さ重視タイプ。タイヤサイズは、235/50 R18。大径タイヤを選びがちなSUVでありながら、18インチで50扁平にしたのは正解。タイヤのゴトゴト感もそれほどなく、ゆったりとした乗り味になっていて、穏やかな性格のATTO3にマッチしていた。
ハンドリングも穏やかだ。機敏な動きではないが、低重心さを生かしながら、安定して姿勢でカーブを抜けていく。スポーティさは無いが、のんびと流して走ると気持ちよいハンドリングだ。
欲しいのは「味」!
BYD ATTO3に試乗して、感じたのは突出して欠点だと感じる部分がほとんどないこと。完成度の高い仕上がりをみせていた。
ただ、完成度は高いものの「味」に欠ける。味とは個性ともいえるが、ああこのフィーリングがATTO3だね、というような部分がほとんどない。良くも悪くも無味無臭。それも味のひとつという考え方もあるが、試乗したイメージがあまり記憶に残らないのだ。これが、ATTO3の最も悩ましい点でもある。
とはいえ、安かろう悪かろうという、とくに中高年が抱く中国製工業製品のイメージとは大きくかけ離れた性能と価格、質感をATTO3は得ている。もはや、国産BEV危うし! とヒシヒシと感じるレベルにある。価格もリーズナブルで装備も充実。BEV選択肢の上位に入ることは確実だ。
日本人のナショナリズムがATTO3販売のカギを握る!?
唯一、販売面で懸念されるのが日本人の中国製品に対するナショナリズム。韓国のヒョンデが一度日本から撤退したのも、やはり日本人のナショナリズム的に受け入れられなかったことが大きな要因のひとつとなった。
ATTO3の完成度は高く、リーズナブル。本来なら、売れるクルマだ。しかし、製品とはまったく異なるナショナリズムというメンタル面が、販売に大きな足かせになることも十分予想できる。そんな状況下、これからBYDは、どんな戦略で日本マーケットにチャレンジし結果を出すのか楽しみだ。
<レポート:大岡智彦>
日産アリアB6 VS マツダMX-30 EV MODEL徹底比較評価
BYD ATTO 3価格
・ATTO3 4,400,000円
BYD ATTO 3電費、ボディサイズなどスペック
ボディサイズ 全長4,455×全幅1,875×全高1,615mm
ホイールベース 2,720mm
車両重量 1,750kg
最小回転半径 5.35m
定員 5名
駆動方式 前輪駆動(FWD)
蓄電池種類 リチウムイオン電池
総電力量、総電圧 58.56kWh、390.4V
モーター最大出力 150kW(204ps)/ 5,000-8,000rpm
モーター最大トルク 310Nm(31.6㎏-m)/ 0-4,620rpm
一充電走行距離 485km
サスペンション 前:マクファーソンストラット/後:マルチリンク
タイヤサイズ 235/50R18
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