ポルシェブランドを支える911の存在が、好調の理由?
平成から令和に変わった2019年は、米中経済戦争などの影響や消費税改訂などがあり各自動車メーカーの国内販売は苦戦だったようである。
それを尻目にポルシェは、国内新規登録台数が過去最高の7,192台を記録。しかも10年連続で新規登録台数が増加した唯一のブランドである。10年前の登録台数は3,214台だったので2倍以上の伸びだ。
販売台数が拡大した理由としては「マカン」が貢献したのは間違いないが、ポルシェ・ブランドを支える911の存在があるからの快挙であろう。
その911も2018年のロサンゼルス・モーターショーで、992型と呼ぶ新型911がデビューし、2019年から日本にも上陸し街中でも見かけるようになった。当初は高性能モデルのカレラSと4WDモデルのカレラ4Sだけであったが、オープンカーのカブリオレ、そしてベーシックモデルのカレラも追加され、この後は911ターボが控えている。今回の試乗は、高性能モデルの911カレラSである。
伝統を引き継ぎ、変わらない911のデザイン
911カレラSのボディスタイルは、モダンな新型になっても誰にでも“ポルシェ”と分かる伝統的なデザインのDNAを受け継いでいて、従来の911ファンにも歓迎されるだろう。
ドイツのシュトゥットガルトにあるポルシェミュージアムには、歴代の911の側面のアウトラインをプロジェクターで重ねて投影し、各年代のモデルの大きさを一目で比較出来る。
初代や空冷時代の911は、今の車と比べると驚く程小さくコンパクトで、世代が進む度にボディが拡大した。新型の992型は、もうスポーカーと呼ぶには大きすぎるかもしれない。全長 は4519mmになり、全幅は1852mmとかなりワイドだ。
「ホームランバー」のようなシフトノブ?
991カレラSの明るくクリーンな室内は、ボディサイズの拡大により、特に横方向の拡大が実感出来る。左右のゆとりが増して更に快適となったが、親しい人が助手席に座った場合は、遠く離れた分だけ精神的にも距離感を感じるだろう。
インテリアを見て一番驚いたのは、シフトレバーである。レバーではなく、スティックと呼ぶ方が適切と思える小さな長方形の箱型だ。私は子供の頃に食べたアイスクリームの“ホームランバー”を思い出した。
運転席の目の前に広がるメーターは、中央のレブカウンターこそアナログメーターで残ったが、左右のメーターパネルは7インチのディスプレイに置き換わった。電子化が進み少し寂しく感じるが、スイッチ操作でナビゲーション画面や車両情報を選択出来るのは便利である。
ダッシュボードの真ん中には、10.9インチタッチスクリーンディスプレイのPCM(ポルシェコミュニケーションマネージメント)も備わっている。エンジンキーを捻ると後ろからエンジンサウンドが響いてリヤエンである事を訴えてくる。
サルーンのようなスポーツカーになった
“ホームランバー”似のシフトレバーを操作してDレンジに入れ、ブレーキペダルを離せば滑らかに車が動き出す。「ポルシェはスタートも難しい」と言われた、クラッチ操作が必要なMTの空冷時代は遥か彼方の出来事。8速AT(PDK)は誰にでも運転出来る。
動き出せば、背中を押されるように加速する独特のフイーリングや、タイヤから爪が生え路面を掴んで止まるような安定したブレーキは昔からのポルシェと変わらない。
ホイールベースが長くなった為か、乗り心地は良く、ロールやピッチングも抑えられ、快適なサルーンと言って良いだろう。
スピード感覚が狂うほどの安定感
911カレラSのエンジンは、名前に「ターボ」は付かないが3.0リッター水平対向6気筒ターボエンジンを搭載。最高出力450PS(331kW)もあり、3世代前の996型のターボSと同じパワーである。
試乗時間が短かったので、性能の一部しか確かめられなかったが、アイドリング付近のトルクはやや細いが(と言っても充分)、それを過ぎれば力強く加速していく。
アクセルのレスポンスも良く、ターボのタイムラグも感じない。あまりにもスムーズで、シャーシ性能もよく、軽くステアリングを握るだけで矢のように道を切り裂いて走るのでスピード感に乏しい。
高速道路を制限速度の80km/hで走っていると、半分の40km/hで走っているように錯覚する。今まで以上にメーターで自車速度の確認が必要である。
「やる気スイッチ」をONにすると?
発進から、わずか3.7秒で100km/hに到達してしまう俊足でありながら、ステアリングを握るとボディが小さくなったように感じて先代の991型より肩の力を抜いて運転できる。
また、雨を検知するウェットモードを搭載し、それに基づいてコントロールシステムを調整する装置まで備えた。PSM(走行安定装置)と共にリヤエンジンの欠点をカバーし、誰が運転しても危険が少ないクルマになっている。ステアリングに付いているスイッチで、走行モードを選択可能だ。
スポーツモードを選ぶと、より低いギヤに自動的に選択されエンジンサウンドも増して臨戦態勢となる。スロットルレスポンスはより鋭敏になり、シフトスケジュールもアグレッシブになりサスペンションも固く引き締まる。
スポーツモードは“やる気スイッチ”であるが、コレが無くても911は充分に速くスポーティ。オプションのスポーツクロノパッケージ(0-100km/h加速で0.2秒短縮)を含め、使う必要が無くても、オーナーなら必要なアイテムだろう。
誰にでも勧められるスポーツカーなのだが、欠点も?
走行性能、装備、デザインは一段と洗練され、全てがアップグレードした。私は水冷エンジンに変わった996型、997型、そして991型を乗り継いできたが、「最新のポルシェは、何時も欲しいポルシェ」で、今回もその方程式通りの911であった。
カレラ、カレラS、カレラ4、カブリオレ、どの組み合わせのモデルを選んでも後悔はしない。クルマ好きなら、誰にでも勧められる。
そんな911だが、一番の問題は高価になりすぎた車両価格だ。一番ベーシックの装備の少ないカレラでも1,300万円をオーバーしてしまい、欲しいオプションを追加すると1,500万円を軽く超えてしまう。これが、911唯一の欠点かもしれない。
今後も安全支援システムが益々強化されるだろうから、価格の引き下げは難しいだろう。誰にも安全に運転が楽しめるように進化したが、911に乗る(所有する)ハードルは高いままだ。
そうは言っても、いつの時代でも911は、憧れのクルマであり、今後もそうあり続けるのだろう。ポルシェ・ブランドは、こうした911ファンによって支えられている。
<レポート:丸山和敏>
ポルシェ911価格
・911カレラ カブリオレ 15,888,889円
・911カレラ4 カブリオレ 16,968,519円
・911カレラS 16,968,519円
・911カレラ4S 18,048,148円
・911カレラS カブリオレ 19,260,185円
・911カレラ4S カブリオレ 20,339,815円
・911ターボS 28,920,000円
・911ターボS カブリオレ 31,800,000円
ポルシェ911 カレラS ボディサイズなどスペック
ホイールベース 2450mm
トレッド 前/後 1589/1557mm
車両重量 1515kg
エンジン 水平対向6気筒DOHCツインターボ
排気量 2981㏄
出力 331 kW(450 PS)/6500 rpm
最大トルク 530 Nm/2,300 - 5000rpm
サスペンション F:マクファーソンストラット R:マルチリンク
ブレーキ F:6ピストン式アルミニウム製モノブロックキャリパー、R:4ピストン式アルミニウム製モノブロックキャリパー
タイヤ F:245/35 ZR 20 R:305/30 ZR 21
最高速度 308 km/h
0 - 100 km/h加速 3.7 秒
0 - 100 km/h加速 (スポーツクロノパッケージ装着時) 3.5 秒
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