スバル レヴォーグ プロトタイプ試乗記・評価の目次
- しょく罪の念から生まれた初代レヴォーグ
- やや大きくなったが日本マーケットを意識したボディサイズ
- 1クラス上に見える彫りの深い精悍なフロントフェイス
- 先進性を感じさせる液晶ディスプレイ
- 電動化技術の投入が遅いスバル
- 運動性能を司る進化版SGP
- 低重心化などにより、異次元の走りを披露した新型レヴォーグ
- 楽しくて笑いが止まらなくなるドライブモードセレクトのスポーツ+
- 国内トップレベルの安全性能を誇る「アイサイトX」は、ステレオカメラにこだわった
- 自然さが際立つ、アイサイトXの運転支援機能
- 一般道での実力は? の問いに自信を匂わすレヴォーグ開発陣
- お勧めは、STI Sport EX! 全6グレード、価格は300万円前後からか?
- 2代目新型スバル レヴォーグ燃費、ボディサイズなどスペック(参考値)
しょく罪の念から生まれた初代レヴォーグ
スバルは、2020年10月15日(予定)にスポーツワゴンである「レヴォーグ」をフルモデルチェンジし発売する。このフルモデルチェンジで、レヴォーグは2代目となる。
初代レヴォーグは、日本専用のスポーツワゴンとして開発され、2014年6月に登場した。なぜ、日本専用車かというと、従来日本国内でスバルを支えてきたレガシィツーリングワゴン顧客へのしょく罪だ。
レガシィは、5代目と6代目とボディを拡大。完全に北米マーケットをターゲットにしたモデルとなった。そのため、日本ではやや大きく、従来のレガシィツーリングワゴンユーザーが乗り換えるクルマが無くなってしまったのだ。
つまり、スバルはレガシィツーリングワゴンユーザーを裏切り続けてきたことへの反省を踏まえ、初代レヴォーグをデビューさせたのだ。
やや大きくなったが日本マーケットを意識したボディサイズ
そんな背景を持ったレヴォーグが、ついに2代目へと移行する。その2代目新型レヴォーグのプロトタイプに試乗した。
まずは、ボディサイズ。新型レヴォーグは、やや大きくなった。全長が+65mmで4,755mm。全幅も+15mmで1,795mm、全高は変わらず1,500mmとなっている。このボディサイズアップ分は、主に室内空間の広さに使われている。とくに、リヤシートの居住性が向上した。
ボディサイズがアップされたものの、全幅は1,800mm未満に抑えられた。これは、日本に多い立体駐車場の入庫制限全幅1,800以下、全高1,550mm以下に対応するためだ。都市部のマンションなどに多いこうした立体駐車場を使うユーザーは、このサイズ以上になると購入したくても駐車場に入らないからだ。こうなると、選択肢から外れてしまう。そういう意味でも、新型レヴォーグは日本マーケットの実情を重視しているといえる。
1クラス上に見える彫りの深い精悍なフロントフェイス
新型レヴォーグのデザインは、かなりシャープなデザインとなった。エッジの効いたフロント、リヤ回りのデザインはスピード感がある。
また、ヘキサゴングリルを中心としたフロントフェイスは、なかなか彫りの深いデザインで精悍さもある。初代レヴォーグと比べると、1クラス上のモデルのようにも見える。
新型レヴォーグのデザインテーマ 「Performance × Advanced」。このテーマは、ダイナミックな躍動感を大胆に表現する、軸の通ったデザイン。ヘキサゴングリルから始まる強い塊感のあるボディーデザイン。愉しさを大胆に表現する特徴的なフェンダーデザインから成り立っている。
先進性を感じさせる液晶ディスプレイ
新型レヴォーグのインテリアで、すぐに違いを感じるのが縦型の11.6インチのセンターインフォメーションディスプレイだ。縦型のため、ヘディングアップでナビ使用時には、進行方向がより広く使えるため、地図全体の位置関係をつかみやすく分かりやすい。
もちろん、11.6インチのセンターインフォメーションディスプレイはタッチパネル式。ただ、タッチパネル式は、走行中の車内では揺れて使いにくく正確なタッチができないケースが多い。アイコンなどを大きくしているとはいえ、多くの人が利き手とは逆の左手で操作するため、指先に視線が集中してしまうので安全面でも微妙だ。ダイヤル式との併用が望ましい。また、ナビやオーディオ、エアコンは音声認識による操作も可能になっている。
メーターは、スバル初となる12.3インチフル液晶メーターとなった。2眼メーターデザインを採用した「ノーマル」画面、地図画面をメインに表示する「地図」画面、アイサイト画面をメインに表示する「アイサイト」画面から選択できる。
電動化技術の投入が遅いスバル
新型レヴォーグのパワーユニットは、CB18型と呼ばれる新開発の水平対向4気筒直噴1.8Lターボエンジンが搭載された。従来の1.6Lから1.8Lになったことにより、当然出力はアップされていて、7psアップの177ps、50Nmアップの300Nmとなった。排気量をアップさせながら、エンジンの全長は40mm小さくなっているのもポイントだ。
また、ミッションはリニアトロニック(CVT)から変更はないが、約8割の部品を刷新している。
CB18型エンジンでは、リーン燃焼技術を採用。ほぼ新しくなったCVTの効果もあり、燃費はJC08モード比で16.0㎞/Lから16.8㎞/Lへ向上している。
燃料も従来通り、レギュラーガソリン仕様。これも、ハイオクガソリンを嫌う日本マーケット向けの仕様。新型レヴォーグのエンジンも、しっかりと国内を向いて開発されていた。
ただ、スバルは相変わらず電動化技術の投入が遅い。2020年は、国内で多くのEVがデビューする年だというのに、未だガソリンエンジン一本槍では、先進性を感じさせない。
それは、何もCO2減が求められているから燃費をよくしろ、ということだけではない。モーターを上手く使った気持ちよいクルマ造りにチャレンジする必要があるということでもある。
とくに、ターボエンジンには、必ずターボラグが発生する。アクセルを踏んでも、エンジンが反応しない領域がわずかだがある。モーターの瞬時に最大トルクを発生する特性を活かせば、ターボラグが起きた瞬間にモーターがアシストすることで、レスポンスのよい走りが可能になるからだ。
しかも、モーターの出力次第では、非常にパワフルな走りも可能。スバル車らしい、エモーショナルな走りが実現できるはずだ。新型レヴォーグで、一番、残念だったのは、こうした電動化パワーユニットが無かったことだ。
運動性能を司る進化版SGP
さて、今回のフルモデルチェンジで、最も大きな役割を果たしていると感じたのがスバルの最新プラットフォームであるSGP(スバル・グローバル・プラットフォーム)だ。2016年にインプレッサから採用され、フルモデルチェンジのタイミングで新型レヴォーグにも採用されている。
この新型レヴォーグに採用されたSGP、デビューから4年が経過しているもこともあり、熟成されたものになっていた。ボディ全体の骨格部材を強固に組み立ててから外板パネルを溶接する新工法に変更。ボディとしてねじり剛性を現行比
44%向上している。とくに、新型レヴォーグはワゴンボディなので、リヤまわりの剛性がアップされている。
さらに、従来のインプレッサに使われたいたSGP比で 、構造用接着剤使用範囲を約4倍の27mに拡大している。これも、ボディ剛性アップに大きく寄与。また、フロアまわりの振動低減にも貢献している。
低重心化などにより、異次元の走りを披露した新型レヴォーグ
新型レヴォーグは、進化したSGPと高剛性化されたボディによって、初代レヴォーグとは比べ物にならないくらいの運動性能を手に入れていた。
試乗車は、新型レヴォーグSTI Sport。まず、驚いたのがステアリング操作に対する反応速度。微少舵でも、スッとフロントがすぐに動き出す。操舵遅れも感じさせず、並みのスポーツカー以上の反応で、ちょっとクイック過ぎやしませんか? と、感じたのだが、直進安定性もよいので、しばらく乗ると、これはこれで・・・。と、思うようになった。
このハンドリングは、カーブなどでは楽しさが倍増する。SGPにより、大幅に低重心化され、しかもリヤまわりの剛性もかなりアップしたボディにより、サスペンションはしなやかさに動く。リヤサスペンションのスタビリティも高く、リヤタイヤはしっかりと路面をつかむ。とても安定した姿勢でカーブを抜けていく。
試乗時には、初代レヴォーグが用意され、比較できるようになっていた。比べると、もはや、まったく違うクルマに乗っているようで、低重心化された新型レヴォーグは切れ味鋭く曲がっていくのに、初代レヴォーグはヨタヨタしながら曲がっていくイメージ。
初代レヴォーグが決してダメな走りという訳ではない。ただ、新型レヴォーグがあまりによく、その差が大き過ぎる。だから、そう感じただけだ。プラットフォームの進化で、新型レヴォーグは激変している。
楽しくて笑いが止まらなくなるドライブモードセレクトのスポーツ+
新型レヴォーグSTI Sportには、電制サスペンションにより、コンフォート、ノーマル、スポーツ、スポーツ+と4つのモードをもつ「ドライブモードセレクト」が用意されている。とくに、良かったのがスポーツ+。パワステ、ダンパー、AWDなどがスポーツ+モード専用のセッティングに変更され、とてもエキサイティングだ。
ステアリングはやや重くなり、ダンパーの減衰力はガッツリ高められている。かなり速い速度で旋回しても、クルマの傾きは非常にゆっくりで、角度も抑えられている。そのため、ドライバーの視点もブレが無く安心感がある。
完全に笑いが止まらないくらい楽しい走りを披露するスポーツ+モード。この気持ちよい旋回性能を支えていたのは、ボディやサスペンションだけではない。スポーツ+モードでは、スバル初となるAWDスポーツモードに切り替わる。このモードでは、アクセルオフ時にも後輪へ駆動力を保ったままで、高い旋回性に貢献。しかも、カーブの立ち上がりで、ステアリングを切ったままアクセルオン状態では、リヤへの駆動力がグッと高められており、FRっぽく曲がっていくのだ。
ドライブモードは、色々と試したものの、個人的には、コンフォートとスポーツ+の2つで十分だった。ノーマルとスポーツは、その変化加減は微妙で分かりにくかった。まぁ、こうした制御や好みは人それぞれ。色々と試してみて、自分のお気に入り仕様にすることもできる。選択肢が豊富というのは、よいことだ。
何にせよ、新型レヴォーグは、久しぶりに素直に運転していて楽しいクルマだった。AWDの存在感が増す雪道などでは、どんな走りを披露するのか期待は高まる。
国内トップレベルの安全性能を誇る「アイサイトX」は、ステレオカメラにこだわった
さて、お次はアイサイト。もはや、スバルの代名詞ともいえる技術だ。レヴォーグのフルモデルチェンジを機に、アイサイトもまったく新しい世代へと進化し「アイサイトX」となった。
従来のアイサイトは、ステレオカメラにこだわったシステムだった。今回のアイサイトXもステレオカメラにこだわった。
ただ、カメラに映らない、見えない部分は全側方レーダーを2つ追加。さらに、後側方レーダー2つ、リヤソナーを1つを追加し、360°車両周辺を監視。また、新たに3D高精度地図データも使われ、これらにより、より多くの機能がプラスされている。高速道路などの渋滞時、約50㎞/h以下であれば、車線維持しながら先行車に追従。この時に、ハンズオフも可能となっている。
基本的に、カメラの数は情報量の差になる。ハンズオフ機能を有するBMWや日産が使うシステムは、3眼カメラが使用される。情報量が多いほど、それだけきめ細かな制御ができる。
ただ、情報量が増えれば処理するコンピュータの能力が高くなくてはダメ。そうなると、ドンドンコスト高になる。新型レヴォーグは、300万円台から販売されるモデルであることを考えれば、ステレオカメラでも十分という判断なのだろう。こうした選択ができたのも、今までステレオカメラにこだわり続けたノウハウがあったからだ。
重要な衝突回避性能も大幅に向上。多くの機能がプラスされている。広角カメラになったことで、右折時の対向車や歩行者を検知、衝突被害軽減・回避が可能となった。カメラで見えない、前側方から接近する車両もレーダーで検知し、出会い頭事故リスクも軽減可能だ。さらに、ブレーキ制御だけでは衝突回避が困難な場合、システムが操舵制御を行い、回避可能スペースへ車両移動させ衝突回避をサポートする。
自然さが際立つ、アイサイトXの運転支援機能
運転支援機能のひとつである、渋滞時ハンズオフアシストでは、車線維持や加減速、停止、再発進など、すべての面において自然でより洗練された制御になっていた。テストコース内の体験だったが、ハンズオフでの不安感はない。
同様にウインカー操作するだけで、後側方から接近する車両を検知し、安全に車線変更可能な場合、自動で車線変更してくれるアクティブレーンチェンジアシストも、実に上手く車線変更してくれる。
テスト時には、左カーブ時に右側車線へ車線変更するシーンが用意してあった。熟練ドライバーでも、かなり気を使う状態だ。アイサイトの制御は、まさに繊細なステアリング操作で、ゆっくりと不安なく車線変更する。
こうした制御は、熟練ドライバー並み。運転が上手くないドライバーの横に乗っているより安心できるくらい上手に車両をコントロールしている。
また、クルーズコントロールには、カーブ前速度制御と料金所前速度制御も加わった。カーブ前速度制御は、カーブ前では適切な速度までゆるやかに減速。同様に、料金所前速度制御は、料金所が近くなると自動で減速してくれる機能だ。従来、料金所前では、ドライバーが自ら減速する操作が必要だったが、その必要もなくなり、よりドライバーの負担が減る機能といえる。
そして、高齢化社会などにも対応し、もしもの時に自分だけでなく周囲の安全を確保する機能として、ドライバー異常時対応システムも用意された。このシステムは、急病などで運転ができなくなった場合、事故のリスクを下げるため、車線内で減速し停車させる機能。ツーリングアシスト中や渋滞時ハンズオフアシスト中、ハンズオン要求警報にドライバーが応答しない場合に作動する。停止後は、ハザードランプ点滅、ホーン吹鳴で周辺通知しドライバーの救助や周囲の事故リスクを軽減する。
実際にエアバックが展開するような事故を起こした場合、車載通信機により先進事故自動通報(ヘルプネット)へ通報。専門のオペレーターから連絡が入り、警察や救急車の手配も行ってくれる。ドライバーの意識が無い場合でも、こうした手配を自動で行ってくれるので、もしもの時にとても頼りになるシステムだ。
一般道での実力は? の問いに自信を匂わすレヴォーグ開発陣
2代目スバル レヴォーグプロトタイプに試乗した後、強く感じたのは進化の幅だ。熟成された最新のSGPが採用され運動性能が格段に向上したこと、アイサイトがまったく新しくなって国内トップレベルの安全性能を得たことなどを含め、このクラス最強ともいえるレベルのモデルに仕上がった。安全で楽しく走れるスバル車らしさが凝縮されている。
残念なのは、繰り返しになるもののパワーユニットに電動化技術がプラスされなかったことくらい。
限られたテストコース内での走行で、スバルの用意したテストでの評価なので、多少スバル側に都合のよい状況になっているのは分かっている。ただ、その分を差し引いても、新型レヴォーグは、なかなかよい出来なのは確実。
後は、一般道を走った時の乗り心地や静粛性、ロングツーリングでの乗り味など判断できない部分は多い。そうしたことをスバルのエンジニアに聞くと、ニヤリと笑って「リアルワールドでの使い勝手や性能にもこだわってますから」と自信満々だった。一般道の試乗に期待が高まる。
お勧めは、STI Sport EX! 全6グレード、価格は300万円前後からか?
さて、2代目新型スバル レヴォーグの価格は300万円前後くらいからとなりそうだ。注目のアイサイトXは、6グレード中3グレードに標準装備。その他のグレードは、従来のアイサイトが装備される。優れた安全装備は、より多くの人に使ってもらってこそ交通事故減の効果が高くなる。そういう視点では、アイサイトXが全車標準装備化されなかったことは残念な部分でもある。
新型レヴォーグは、全6グレードとなる予定。エントリーグレードはGT。このグレードが300万円前後となる予定。その後、詳細は不明だが順に上級グレードになりGT‐H、GT‐EX、GT-H EX、STI Sport、STI Sport EXとなる。
初代レヴォーグでは、高額グレードであるにもかかわらずSTI Sportは約30%も占めた大人気グレード。このSTI Sportの価格は、370万円前後、最上級グレードになるSTI Sport EXは400万円前後になると推測される。
装備詳細などは明らかにされていないが、お勧めグレードは、やはりSTI Sport EX。新型レヴォーグの中で、最もスポーティなグレードになる。また、専用のスポーツモードセレクトが装備され、自在にクルマのキャラクターを自分好みにアレンジできる。STI Sportは、中古車マーケットでも人気が高く、リセールバリューが高いのも魅力だ。
<レポート:大岡智彦>
2代目新型スバル レヴォーグ燃費、ボディサイズなどスペック(参考値)
ボディサイズ 全長4,755×全幅1,795×全高1,500mm
ホイールベース 2,670mm
トレッド前/後 1,550/1,545mm
最小回転半径 5.45m
乗車定員 5 名
車両重量 1,580㎏
排気量 1,795㏄
最高出力 130ps(177kW)/5,200~5,600rpm
最大トルク 300Nm/1,600~3,600rpm
燃費 13.6㎞/L(WLTCモード)
トランスミッション リニアトロニック(CVT)
サスペンション 前:ストラット 後:ダブルウィッシュボーン
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