2019バンコク国際モーターショーレポートの目次
年々、盛り上がりを見せるバンコクショー
毎年3月に開催されるバンコク国際モーターショー。今年もバンコク郊外に位置するエキシビジョンセンターのインパクトで開催された。東南アジアで最大とされるバンコク国際モーターショーには、タイ市場で高いシェアを占める日系自動車メーカー各社が出展するほか、欧米の自動車メーカーもこぞって出展している。
バンコク国際モーターショーは、今年で40回目を迎えた。1970年代からの長い歴史を持つのがバンコクショーである。ちなみに東京モーターショーは今年で46回目なので回数ではやや上回っているが、最近の東京は隔年開催なので、このまま行くと10年ほどで東京はバンコクに並ばれ、抜かれることになる。公式発表される入場者数では東京を大きく上回っている。
タイは政府が“東洋のデトロイト”政策を展開して自動車産業を熱心に集めてきたことから、多くの自動車メーカー、部品メーカーなどが進出している。また国民所得の向上からモータリゼーションが盛り上がりの途上にあり、一般の人たちのクルマに対する関心も高い。
日本メーカー7社が出展
そんな背景の元に、日本の自動車メーカーは乗用車系の大半となる7社が出展していた。ダイハツだけはタイ市場で自社ブランド車を販売していないため、モーターショーにも出展していない。インドネシア製のダイハツ車はトヨタブランド車として販売されている。
これに、大型トラックやSUVをラインナップする商用車系のいすゞを加えて四輪車メーカーは8社がそろっていた。さらに、二輪車もホンダ、ヤマハ、スズキ、カワサキの4ブランドが出ていて、日系メーカーのプレゼンスは高い。タイ市場では日本車が80%を超える高いシェアを持つので、モーターショーが日本車中心になるのも当然である。
これに対して、欧米の自動車メーカーも多数が出展している。早くから工場を設けて現地生産をしているGMとフォードのアメリカ勢に加え、メルセデス・ベンツ、BMW、アウディ、ボルボ、MGのほか、ロールスロイスやアストンマーチン、ベントレー、ランボルギーニ、アストンマーチンなどの高級車メーカーも出展していた。
タイ市場では、欧米メーカーのシェアはあまり高くないが、各社とも東南アジアで最も重要な市場としてタイを見ていて、バンコクショーにも積極的な姿勢を見せている。このため、欧米メーカーの新型車については、日本よりも先にタイで発表される車種も多い。これはショーと発表のタイミングによるところが大きいにしても、必ずしも日本優位ではないのだ。
バンコクでは、さすがに世界初公開になるような車種は少ないものの、アジア初公開の車種はけっこう多いし、右ハンドル車に限定して考えるなら世界初公開がタイという例は過去にもかなりあったし、今回も何車種か見られた。
日系メーカーもトヨタがスープラを、ホンダがアコードを日本よりも先に発表しているから、タイ市場のウエイトは年々高まっている。また日系メーカーの多くは、タイで日本では販売していない車種を販売する例が多い。アジア専用車、あるいは新興国専用車であることが多いが、日本では見られない日本車が見られるのもバンコクショーの良いところである。
アルファード&ヴェルファイアのカスタマイズ車が人気のバンコクショー
このほか、街中ではアルファード/ヴェルファイアを多く見かけた。これは最近のアジア各国に共通する傾向だが、タイでは正規モノのほかに、並行輸入車をドレスアップするショップが何社もあり、完成車輸入に対して課せられる関税を上乗せして日本の倍以上に当たる1000万円を超える価格で販売されている。ほかのアジア諸国でも似たような傾向が見られる。
今回のバンコクショーには、名古屋のカスタマイズショップであるROWENが初めてタイに進出し、社長がプレゼンテーションを行ったほか、タイの有名タレントを使ったショーも実施して人気を集めていた。
タイでは、現地で生産されたモデルではなく、日本仕様のアルファード/ヴェルファイアであることに価値があるとされるため、あえて“毒キノコ”のサイドアンダーミラーを装着し、排気ガスステッカーを貼ったクルマのほうが、輸入車であることが証明できるために人気が高いという。
タイマーケットで圧倒的に強いトヨタ
トヨタはタイ市場で最も高いシェアを持つメーカーだ。乗用車だけならホンダが検討しているし、商用車だけなら大型トラックを中心にいすゞが高いシェアを持つが、乗用車も商用車もラインナップするトヨタが圧倒的に強い。
トヨタ
コミューター
今回のトヨタブースで、やや控えめな位置に展示されていたが、クルマの大きさからも最も目立ったのがコミューターと名付けられたクルマだ。
これは先にフィリピンで発表されたアジア向けの次期ハイエースをベースにしたモデル。フィリピンで発表されたモデルでは、さまざまなシート配置によっていろいろな乗車定員が設定されることが明らかにされていたが、今回のバンコクショーでは詳しい紹介はなく、周囲に柵を設けて中は見せないようになっていた。
それにしても、見るからに大きいクルマだ。全長は6mに近く、全幅は2mに近い。ホイールベースも3860mmと長いので、室内には十分な居住空間が確保されているのが容易に創造できる。
また、短いながらもフロントノーズを持つので、1BOXタイプのハイエースに比べると、前面衝突ときの安全性が高められているはずだ。現在のタイでは、多人数移動用にたくさんのハイエースが走っているが、今後はコミューターに置き換えられていくことになるだろう。
スープラ
日本では、スープラはプロトタイプ車の試乗を始め、価格を含めたさまざまな事前情報がリークされて、すでに発表されたのと同じようなことになっているが、正式な発表はまだ。バンコクのほうが先に発表される形になった。ステージ上のターンテーブルに堂々と展示されていた。
ヤリス
タイでもアイドルタレントの人気が盛り上がっているようで、ヤリスのボディにBNK48のタレントをプリントしたモデルも展示されていた。
タイでトヨタに次ぐシェアを誇るホンダ
一時に比べるとシェアを落しているが、乗用車に関してはタイでトヨタに次ぐシェアを持つのがホンダ。今回のバンコクショーでは、日本ではまだ発表していない新型アコードを展示していた。アメリカではすでに発表されているのでワールドプレミアではないが、日本よりも先という割り切り方が注目されるところである。
ホンダ
アコード
ステージ上にダウンサイジング直噴ターボのガソリン車とi-MMDの2モーター・ハイブリッド車の2種類の仕様を並べていたほか、平置きで展示されるクルマもあって力を入れているのが分かる。高級車ユーザーに訴求するモデルであると同時に、タイではハイヤーしての需要もある。
タイで存在感を高めている日産
現地生産に力を入れるようになって、だんだんにタイでも存在感を高めているのが日産だ。昨年は今さらながらGT-Rの投入を発表して開発責任者の田村宏志氏がプレゼンを行っていたが、今年は目立つモデルとなったのがSUVのテラだった。
日産
テラ
日産はナバラと呼ぶピックアップトラックをラインナップしているが、それをベースにしたSUVがテラである。かつて日本では、テラノと呼ぶSUVをラインナップしていた時期があったが、今回のモデルはテラノではなくテラである。
早くからタイマーケットに参入している三菱
三菱も早くからタイに工場を配置したメーカーで、現地ではピックアップトラックのトライトンやSUVのパジェロスポーツ、乗用車のミラージュなどを生産している。
三菱
トライトン
今回はトライトンがマイナーチェンジを受け、コンセプトカーも展示していたが、それ以外には際立って新しいクルマはなかった。
インドネシアで生産し、アセアンの貿易協定に基づいてタイに輸入されているクロスオーバー車のエクスパンダーはタイでの人気三菱車だが、すでに発表ずみのモデルだ。
スズキ
ジムニー
スズキは今回のバンコクでジムニーを発表した。日本で言うジムニーシエラだが、タイの都市部はともかく地方では道路事情などを考えると本格SUVに対するニーズは強いはずで、どんな売れ方をするか注目されるところだ。
エルテガ
コンパクトなサイズの3列シート車であるエルテガは、タイでは今回がフルモデルチェンジの発表となった。インドネシアに比べると、タイでは多人数乗車のモデルに対するニーズは強くないものの、モデルチェンジでインテリア回りの質感を向上させるなどしているため、これも一定の売れ行きを示すだろう。ただ、三菱のエクスパンダーが、デザインを意識して作られているのに対し、エルテガのデザインは何ともつまらない印象だ。
FOM
FOM
日本の技術者が開発し、タイで生産している電気自動車がFOM。ファースト・ワン・マイルの略で、近場で乗る電気自動車をイメージしている。過去のモーターショーでも展示されていたが、本格的な販売が始まり、試乗会場にもクルマを用意するなど、意欲的な姿勢が目立っていた。
メルセデス・ベンツ
スプリンター
SクラスやEクラスなどのプラグインハイブリッド車も出品していたが、それ以上に注目されるのは商用車のスプリンターを展示していたこと。いかにもトヨタが新型ハイエースを投入するのを意識し、それに対抗するモデルとして出品したようだ。
BMW
X7
大型SUVのX7は、日本では2019年夏に導入予定とされているが、タイではひと足先に発表された。欧州でも2018年秋に発表されて2019年3月に発売ということだったから、タイは欧州と同じようなタイミングで発売されることになった。モーターショーのタイミングに合わせたとはいえ、日本よりも先であり、右ハンドル車については世界初公開である。
アウディ
e-トロン
アウディe-トロンは本国では発表ずみのモデルで、日本でも一部の情報が公開されているが、タイでは価格まで発表されていて、プライスボードには509万9000バーツ(日本円で1700万円超)の価格が表示されていた。完成車には高い関税がかけられるため、それだけで倍くらいになってしまうのだが、相当な高級車である。
GM
シボレー・キャプティバ
GMも早くからタイに工場を持つメーカーだ。今回のショーには、新型のシボレー・キャプティバを展示していた。世界初公開かと思われたが、南米のモーターショーで先に公開されたとのこと。従来のモデルはかなりコンパクトなSUVだったが、今回のモデルは相当に大型化していた。いずれ日本にも導入されるものと見られる。
MG
V80
今や上海汽車の傘下に入って中国資本のメーカーになった英国のMGは、タイ市場への参入で苦戦しているのが実情だが、今回のショーにはV80と呼ぶ1BOXタイプのミニバンを出展していた。これは英国製ではなく、中国製のクルマでエンブレムだけがMGという感じのモデルながら、日本車に対抗していく姿勢を示したものといえる。
タイ仕様の最新三菱車を試乗
今回のショーでも現地で販売されている三菱車に試乗する機会があった。会場に隣接する駐車場に設けられた特設コースでの試乗だ。
コースには発進からのフル加速、パイロンスラローム、ダブルレーンチェンジ、フルブレーキングなどのセクションが設定されていて、けっこう本気で試乗するような設定になっていた。
ここで試乗したのはインドネシア製のクロスオーバー車エクスパンダーとタイ製のピックアップトラックのトライトン、やはりタイ製のSUVであるパジェロスポーツの3車種だ。
走らせた印象が良かったのはやはりエクスパンダーだ。乗用車系の基本プラットホームを使っているので、操縦安定性や乗り心地がほかの2車とは大きく違っていた。
トライトンとパジェロスポーツは基本プラットホームが共通で、足回りの仕様も同じながら、乗り味には若干の違いがあり、設計時点が新しいトライトンのほうがより好印象を感じさせた。
バンコクモーターショー事務局長 ジャトロン・コモリミス氏インタビュー
タイの自動車市場は引き続き順調な推移を見せています。自動車販売の第一線からは、車種によっては新車の納車が追いつかないため、代わりに中古車を納車したといった状況も報告されているほどです。経済情勢が安定していることも、新車販売の追い風になっていると思います。
バンコク国際モーターショーは、クルマを展示するだけでなく、販売もするトレードショーとしての側面を盛っていますが、自動車市場が堅調に推移していることから、今回のショーでは前年を上回る成約台数が確保できるものと期待しています。
四輪車メーカーの出展傾向に大きな違いはありませんが、二輪車では今年、初めて中国メーカー2社が出展するなど、新しい動きも出ています。二輪車も含めて市場の盛り上がりに期待しています。
<レポート:松下 宏>
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