【ルノー カングー ビボップ 新車試乗評価】たまに現れる!? ちょっとヘンで愉しいルノー
日本ではニッチ、でも欧州じゃ大衆車メーカーの有名ブランド「ルノー」
フランスの自動車メーカー「ルノー」。日本のクルマ好きからすると、「メガーヌ」とか、ちょっと前なら「アヴァンタイム」(知ってる?)みたいに、ちょっと(いやだいぶ)ヘンなデザインのクルマを出すニッチなメーカーだなあ、なんてイメージが強いと思う。だけど実際欧州では、ファミリー向けモノスペースワゴンの大ヒット作「セニック」(2列シート版と3列シート版あり)に代表される量販モデルを売りまくる小型車ブランド、有り体に言えば大衆車メーカーとして、確固たる地位を築いていると評価していい。
正直、日本にいると全然実感ないのだけれど、メガーヌ ハッチバックのような前衛的なデザインのクルマはむしろ少数派。ルノーといえば、非常に真面目で良質な「オトナのクルマ」を造るメーカーだ。ただし高級車メーカーではないので、日本に持ってくると派手なブランド性(異国情緒、ともいう)には欠けていて、ちょっと地味で保守的な面ばかりが目立ってしまう分かりづらさがつらいところなのだ。ミニバン大国の日本では厳しく、隠れた名車のセニックも、導入を取り止めてしまった。
そんな中、日本のルノー車ラインナップの中で唯一気を吐くのが「カングー」だ。広大な室内空間に両側スライドドアの使い勝手の良さ、さらに愛らしいスタイリングなどでファミリー層を中心にスマッシュヒット。日本市場のルノー車中1/3以上を占めるまでに成長した。2009年秋に導入された2代目は、新たにその欧州ベストセラー「セニック」のプラットフォームを流用し、さらにオトナの乗り味を獲得。ますます欧州車ファンの心を捉えている。
左から「Kangoo Express Compact」「Kangoo Express」「Kangoo Express Maxi」。
しかしMaxiの長いこと長いこと。コイツをベースに3列シート版を作れば、もうひと山当てられるかも!?
オトナのカングーにヤンチャな弟分「BeBop」
さて、そもそもカングーとはナンだ、と考えるとき、上の写真を見てもらうといい。後部の窓が埋められた素っ気ないその姿。そう、これは「商用車」だ。写真真ん中の「カングー エクスプレス」を中心に、ホイールベースを伸ばした「Maxi(マキシ)」と、逆にショート版とした「コンパクト」まで、幅広いラインナップを用意している。サイズ感やボディ形状はちょっと違うけど、日本で言うと「ハイエース」から「プロボックス」あたりまでをカバーする「はたらくクルマ」として、欧州全土で大活躍している。えー商用車なの。しかし、わざわざこの試乗記が気になって読み進んで頂いてるアナタにとって、別に『商用車』であることは決してネガではないはず。むしろ商用に特化したことで、高効率な室内空間や、使い勝手の良いスライドドアや観音開きドアなど備え、その圧倒的な実用性の高さゆえに、乗用ワゴン版の「カングー」が多くのファンから支持を集めていることで証明されると評価できる。
さて、ようやくこれからが本題だ(前置き長くてすいません)。今回ご紹介する「カングー ビボップ」は、ショート版「カングー コンパクト」をベースとした変り種レジャーワゴンだ。2007年のフランクフルトモーターショーや同東京モーターショーなどで披露された「カングー コンパクト コンセプト」がそのまま出てきたかのようなポップなスタイリング、そしてチョロQみたいな微妙なバランスの短さがキモかわいいというか何と言うか。久しぶりにみた「ちょっとヘンなルノー車」だ。
カングーと比べてみよう。見てのとおり、後部にスライドドアを持つ4枚ドアに、観音開き式リアドアが組み合わされるカングーに対し、カングー ビボップは2ドア。後部には片側にヒンジを持つ横開きのバックドアとなった。全長は345mm、ホイールベースは390mmそれぞれ短い。全幅は一緒だがビボップが1インチアップの16インチタイヤとなって車高が上がり、10mm車高が高い。
エンジンは通常のカングーと同じ1.6リッター DOHCエンジン。ビボップの場合、5速MTのみの組み合わせしかなく、カングーにはあるAT(4速AT)の用意はない。ちなみにボディの重さは、重いガラスルーフの採用に加えボディの補強もされたと思われ、カングーに対し50kg(MT車比)の違いしかないのはちょっと意外なところだ。
商用バン「カングー コンパクト」の予告編としてのコンセプトカーであると同時に、そのまんま「カングー ビボップ」として登場してしまったことに驚く。
ただのヘンなイロモノなんかじゃない、長距離ドライブを知り尽くした国が創るレジャービークル
さて、ともかく乗り込んでみよう。インパネ周りの意匠は普通のカングーと一緒だ。ただシートの柄の違いだけで、ビボップのほうがポップで陽気な雰囲気に包まれているのだから不思議。窓が大きい上にサイド面は垂直で見晴らしも良い。さらに頭上のガラスルーフが日差しを届けてくれることもあって、室内もとっても明るい。そしてシート。ルノー車共通の美点、座るとなぜかホッとするこの椅子、見た目はフツーなんだけど、ふっくらもちもちしていて包み込まれる感じがウレシイ。そう、商用車出自のクルマだけど、そのあたりは決してケチられていないのもカングーの美点なのだと評価したい。
いっぽうの後席。2ドアなのでアクセス性はイマイチだけど、左右に2席分かれていて中央が空いているから、なんならリアドアからだって乗り込むことが出来ちゃう(ただし中から開けることは出来ない)。座ってみると床は高めで、着座位置も前席より上がる。しかしそれゆえ前方視界も良好だ。子供なんか喜ぶに違いない。頭上のガラスルーフ、そしてサイドの大きな窓、そしてリアと前席以上に明るくて、座ってるだけで気分が高揚する。車幅こそ余裕しゃくしゃくだけど、前後長は大して広くないせいもあり、乗員みんなが一体になれそうな適度な広さというのもポイント。これで家族や気の合う仲間とドライブすると愉しそうだなあ、などと想いを巡らせてみる。夏になるとエライ遠くまでバカンスしに行く国のクルマだけに、ドライブの高揚感を心得てるなあ、と感心することしきり。このクルマなら、別に後席大画面モニターやオットマン付きシートなんか、付いてなくなっていいと思う。
走らせてみる。1.6とMTの組み合わせは十分以上だけど、そんなにスポーティ、ってほどでもない。キャラクターを考えると、あとちょっとパンチが欲しいとこではある。いっぽうの乗り心地はやっぱりルノー。セニック譲りの落ち着いた乗り心地を感じる。長距離を走らせても疲労度は少ないはずだ。椅子の出来の良さも、それに大いに貢献してくれているのだろう。ただし速度を上げてゆくと、カングーに比べホイールベースの短さを感じさせるのは確かで、タイヤが1インチ違うのもあってか、高速などではちょっとばかり前後にひょこひょこする印象も受ける。
いっぽうの後席に移ってみる。移ろい行く景色は特急電車の車窓風景みたい。固定窓なところも特急的!? 前方視界の良さと相まって、これぞまさにパノラマカー! で、ビボップの目玉である、頭上と後ろの窓を全開にしてみると、90km/hくらいまでは十分に許容範囲なことを確認できた。うーん、無条件に愉しい! 確かに騒音はそれなりにあるし、前席の窓を開ければ風も盛大に受ける。いずれにせよオープン状態でそんなに長い距離をブッ飛ばすものでないだろう。とはいえ、例えば旅のハイライト、景色の良い海辺や山道、なんてシチュエーションなら、この後席は奪い合いになること必至だ。
カングー ビボップ、見た目にはちょっとイロモノのような印象もあるかもしれない。MTしか設定がないのもネックとなりそう。でも、そんな細かいことはさておき、こいつと生活してみたいと想わせる「愉しさ」が、このクルマには確かにある。だからぜひ、小さい子供を持つファミリーの方なんかにもオススメしたい。子供に気を遣って(?)広々ミニバンを選ぶのも否定はしない。だけど、一緒におでかけ出来る貴重な期間、せっかくならこんな、「いかにも愉しそう」なカングー ビボップと過ごしたほうが、より親密で思い出深い記憶に残るのは間違いないのだから!
ルノー カングー ビボップ燃費、価格、スペックなど
代表グレード | ルノー カングー ビボップ[FF] |
---|---|
ボディサイズ[mm](全長×全幅×全高) | 3870×1830×1840mm |
車両重量[kg] | 1370kg |
総排気量[cc] | 1598cc |
最高出力[ps(kw)/rpm] | 105ps(78kW)/5750rpm |
最大トルク[kg-m(N・m)/rpm] | 15.1kg-m(148N・m)/3750rpm |
トランスミッション | 5速MT |
10・15モード燃費[km/L] | - |
定員[人] | 4人 |
消費税込価格[万円] | 234.8万円 |
発売日 | 2010/09/09 |
レポート | 徳田 透(CORISM編集部) |
写真 | CORISM編集部 |
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