ユーザー不在の安全装備! 法規制されないと動かない自動車メーカー、そして、あまりにも中途半端な3点式シートベルトを義務化させた国交省【松下 宏コラム】 [CORISM]
2点式シートベルトには、乗員に対する加害性も!!
5月から6月にかけて、たくさんの車種がマイナーチェンジを実施しました。7月1日から全席に(後席中央にも)3点式シートベルトを備えることが義務化されたため、これに対応するための改良を行ったメーカー・車種が多かったわけです。
法制化されないと対応しないというメーカーの姿勢には情けないものがありますが、取り敢えず3点式シートベルトの義務化によってクルマの安全性が向上したことは歓迎して良いと思います。
なぜ2点式シートベルトではダメで、3点式シートベルトが良いかというと、乗員の拘束性能に大きな違いがあるためです。
横ベルトが腰骨に当たるようにきちんとシートベルトを装着していても、2点式では衝突時の衝撃がズレてしまうことが多く、ズレると乗員の腹部にベルトが食い込みます。この結果、内蔵に傷害を受け、見た目はケガをしていないようであっても、内出血などが理由で翌日に死亡するという例はたくさん報告されています。
2点式シートベルトは、事故の状況によっては乗員に対する加害性を持つこともあるのです。
また、2点式シートベルトでしっかり体を支えられたとしても、肩ベルトがないために状態が前に倒れて頭が膝頭にぶつかるなどして、頭部や膝に大きな傷害を受けることもあります。
2点式シートベルトでも、ベルトを装着していれば車外放出の危険性が下がるという一定のメリットはありますが、決して十分なものではないということを知っておく必要があります。できれば2点シートベルトの席には、乗らない、乗せないのが良いと思います。
理解できない保安基準 商用車は2点式で良いのか
保安基準で3点式シートベルトが義務化されましたが、国土交通省がどこまで本気で安全を考えているのか分からない部分もあります。
というのは、義務化されたのは乗用車に限ってのことで、商用車(4ナンバーのライトバンなど)は対象外とされているからです。
6月15日にキャラバンがフルモデルチェンジを受けてNV350キャラバンに変わりましたが、この新型車でもバンの後席中央には3点式ではなく2点式のシートベルトが装着されていました。
乗用車でも商用車でも、人間が座る席であるのは変わりません。義務化するなら乗用車も商用車も義務化しなければおかしいのは当然ですが、国土交通省はこのような間抜けな基準を作っています。日産自動車も、それに合わせて2点式シートベルトを装着してしまうではなく、きちんと3点式シートベルトを装着して欲しいものでした。
さらに、指摘しておくなら、観光バスについては運転席のほか、客席の最前列は3点式シートベルトが義務化されましたが、2列目以降については2点式シートベルトでも良いとされています。
このあたりにも国土交通省の安全に対する考え方がなっていないことが分かると同時に、自動車メーカーも基準に適合させれば良いというものになっているのが分かります。
3点式シートベルトは、50年も前にボルボの技術者が発明したものです。ボルボが偉いのは、3点式シートベルトの特許を取得しながらも、それを独占せず、クルマに乗る人すべてに必要な安全装備であるからと特許を公開したことです。結果として、世界中の自動車メーカーすべてが3点式シートベルトを装着したクルマを作っています。こうした姿勢を見習って欲しいものです。
ヘッドレストレイントも セットで装着が必要だ
国土交通省の保安基準が緩いと思うのは、後席中央の3点式シートベルトを義務化したものの、ヘッドレストレイントについては義務化しなかったことです。
このため後席中央に3点式シートベルトを装着しながらも、ヘッドレストレイントは装備していないクルマが見受けられるのが実情です。
前席には、むち打ち症を低減させるタイプのシート(ヘッドレストレイント)が採用されるのが一般的になりつつありますが、それにもかかわらず、ヘッドレストレイントを装備しないクルマがあるのは何をかいわんやです。
後席のヘッドレストレイントは、昨年発売されたミライースに設定がありませんでした。これに対して多くのユーザーなどから指摘を受けたこともあっで、今年になって最上級グレードに標準、ほかのグレードにもオプション設定という形で対応を図りました。
まだ、ヘッドレストレイントを装備していない車種を作っているメーカーは、ダイハツを見習って早期に対応して欲しいと思います。
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