隙のない完成度と低燃費を誇るハイブリッドシステム【トヨタ カムリ ハイブリッド試乗評価】の目次
大きなアメリカ向けの設定で、国内では売れないトヨタ カムリ(V50系)
カムリ(V50系)がフルモデルチェンジを受け、ハイブリッドのみのバリエーションになって登場した。従来のモデルては北米ではガソリン車とハイブリッド車があったが、国内ではガソリン車だけの設定、今回は国内をハイブリッド車だけに変更してきた。
カムリは世界的にトヨタの稼ぎ頭ともいえるクルマで、アメリカでは長くベストセラーを続けたり争ったりしてきた。ところが日本ではモデル末期となり最近は、月に100台レベルの販売でしかなかった。
歴史的に見ると、デビューした当初は国内向けと同じクルマをアメリカでも販売していたが、途中からアメリカ向けはワイドボディ車に変わり、そして日本でもアメリカ向けと同じワイドボディ車が販売されるという形で推移してきた。
アメリカ向けの大きなボディを売るようになったことが、日本での売れ行き不振につながったといえなくもない。トヨタは国内専用モデルのクラウンでは1795mmに抑えているが、カムリの全幅は1820mmなのだから厳しい。
そのボディサイズは今回のモデルも変わらない。基本プラットホームが従来のモデルと共通で、ホイールベースやボディの3サイズは従来のものを踏襲している。
その意味で今回のモデルもサイズ的には厳しいものがあるが、ほかのクルマが全体的に大きくなる中で、日本でもボディサイズに対する許容度はやや緩んできた。カムリほど大きくはないが、プリウスが3ナンバー車でありながらベストセラーを続けているのがその典型例だと評価したい。
ボディサイズは前モデルと同じだが、ちょっとした工夫で広さ感アップ
大きなボディは必ずしも歓迎できないものの、今回のカムリではボディを生かした広さ感が増し、一段と快適な室内空間が作られている。後席空間の拡大はわずか15mmだが、ルーフ形状を工夫することなどにより、後席に座って感じる“広さ感”は大きく増している。
パッケージング面ではほかに、トランク容量の大きさが注目される。とかくハイブリッド車は電池を搭載するためにトランクスペースが犠牲になることが多いもの。でもカムリには440Lという十分な容量が確保されている。トランクの奥の方は妙に凸凹した形状をしているが、容量は十分といった感じだ。
最小回転半径も5.5mに抑えられているので、立体駐車場で1800mmを超えるクルマは物理的に駐車できないというような人を除けば、許容範囲に入るクルマなのかも知れない。
より多くの車種に搭載が期待される2.5Lハイブリッドシステム
新型カムリに乗ってびっくりしたのは走りが格段に良くなっていることだ。これまでトヨタのミドルクラスのハイブリッド車には、2.4Lエンジンと電気モーターの組み合わせが搭載されていたが、今回のカムリからエンジンが新しくなって排気量が2.5Lに拡大された。
効率を重視したアトキンソンサイクルであることは変わらないが、動力性能は110kW/187N・mから118kW/213N・mへと向上した。
それ以上に注目されるのが燃費で、リッター26.5km/Lを達成している。サイの燃費23.0km/L(マイナーチェンジで24.0km/Lになった)だったから10%以上の向上だ。コンパクトカーや軽自動車並みというか、それ以上に優れた燃費性能だ。
スターターボタンを押すとインパネ内にREADYの表示が出て発進できる状態にあることが示されるのはプリウスなどと同じ。日産のリーフではパソコンの起動音のような音がして耳でも分かるようにしているが、トヨタのハイブリッド車はシステムを起動させたときにエンジン音がしないので、音でも知らせる方法を取ったら良いように思う。
プリウスとは異なる通常のATレバーと同じセレクターレバーを操作してゆっくりと走り出すと、最初はモーターだけで走る(条件によってはエンジンもかかる)ので、とても静かで滑らかな走り出しになる。オーディオをオフにしているとシンとしたとても静かな空間だ。
軽くアクセルを踏み込んでも、最初のうちはモーターだけで十分なトルクを発生して走る。さらにアクセルを踏み込んでいくと、わずかな振動でエンジンが始動したのが分かる。それも相変わらずのスムーズさで、意識しているから分かるようなもの。気にせずに運転していたらエンジンの始動や停止が分からないくらいのスムーズさだ。このあたりはハイブリッド車ならではで、ガソリン車のアイドリングストップ機構とは明らかに異なるレベルにあると評価する。
エンジンがかかった後の走りは一段と力強い。トルクが向上したエンジンとモーターとの組み合わせによってボディを感じさせない走りを見せる。というか、今回のカムリは軽量化が進められてボディがやや小さいサイと比べても30kgから50kgほど軽い。その上で動力性能が向上しているから、走りが良くなるのも当然といえるだろう。
高速クルージングも静かで滑らかなハイブリッド車らしいもので、クルージング状態からアクセルを踏み込めば極めて軽快かつ力強い追い越し加速が得られる。カムリの性格を考えたら静かで滑らかな走りを維持すべきだが、必要なときには十分な加速が得られるだけの余裕がある。
このように動力性能に関して文句の付けようなないくらいに良くできている。これだけ良いパワートレーンができたのなら、先のマイナーチェンジで追加されたアルファード/ベルファイアのハイブリッド車や、カムリの登場後にマイナーチェンジを実施したHS250hやサイにも同じものを搭載したら良いのにという印象もあるが、取り敢えずはカムリのアドバンテージとしてこのパワートレーンが与えられたようだ。
よりシッカリとしたフットワークになったカムリ ハイブリッド
新型カムリハイブリッドは、動力性能以外の部分でも走りが進化している。大きく変わった印象があるのは足回りだ。これまでのカムリは極めて乗り心地の良い快適な走りを実現していて、いかにも日本人好みというか、トヨタ車に乗る人好みの味付けになっていたと評価したい。
その快適さは少し元気良く走らせようとしたときに、ふわついた感じを与えることにもつながっていたが、今回のカムリでは乗り心地をさほど悪化させることなく、むしろしっかりした感じの乗り味に仕上げている。
アメリカ向けの足回りからヨーロッパ向けの足回りへというほどの違いではないが、タイヤサイズが大きくなったことも含めて、走りの味付けが変わり、全体として走りの質感が向上したのは間違いない。
これは良いことばかりではなく、高架道路で継ぎ目の存在を意識することが多くなるのはデメリットである。それでもトヨタ車なので、ヨーロッパ車のような硬さではないから、街乗り中心で考えたらとても快適なクルマであることは変わらない。
コストカットで先進安全装備と4WDが無くなったカムリ ハイブリッド
新型カムリの価格は304万円からの設定で、サイなどに比べたら割安な印象がある。ただ、1ドル=70円台中盤にある現在の円ドルレートで考えると、日本での価格はアメリカでの価格に比べてざっと100万円高い。これは本当に困った問題である。
しかも、ベースグレードのハイブリッドは装備がしょぼい。買うならGパッケージ以上を選ぶ必要があり、これに純正のカーナビを装着すると350万円ほどの予算になる。カーナビが標準で本革シートまで装備したレザーパッケージは380万円で、これだと自動防眩ミラーなどの快適装備もついてくる。
一般的にはGパッケージ+カーナビという選択だろうが、際立って割安といえるほどではないのは確かだ。
今回のカムリでは残念なのことがふたつある。従来のモデルで日本向けにだけ用意されていた4WD車がなくなってしまったことと、オプション設定されていたプリクラッシュセーフティシステムが廃止されたことだ。このふたつをなくしたことは、開発コストの低減にばかり目が向けられたような印象を与えてしまう。
カムリ ハイブリッドには、横滑り防止装置などの安全装備は従来と同様に設定されていて、SRSニーエアバッグが追加されるなどして安全性が向上した面もあるが、北海道などの積雪地のユーザーにとって4WDは必須ともいえるものだ。
また、プリクラッシュセーフティシステムもスバルが10万円のアイサイトを高い装着率で販売していることを考えたら、売れないから止めたと言っている場合ではないと思う。4WDの復活は難しいにしても、プリクラッシュセーフティシステムについてはマイナーチェンジで、低価格化しての復活を望みたい。
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