超ハイト系ワゴンで、29.0km/Lというクラストップレベルの低燃費には高い評価
スズキ パレットがフルモデルチェンジで、名前をスズキ スペーシアに改めて登場した。室内空間の広さを連想させる良い名前だと思うが、だったら最初からパレットでなくスペーシアにしておけば良かったのにと思う。せっかく浸透させたパレットの名前をひと世代限りで捨ててしまうのはもったいない。
名前は変わったが、基本コンセプトなどは変わらない。ワゴンRなどのハイト系車種よりさらに背の高い超ハイト系と呼ぶべきタイプの新型軽自動車がスズキ スペーシアだ。
このタイプの市場は、ダイハツのタントが切り開いたもので、タントがフルモデルチェンジして2代目モデルが登場した直後にスズキがパレットで参入を図り、2011年からはホンダがN BOXを発売してこのクラスの市場を広げている。日産と三菱の合弁会社NMKVからも、来年早々にはこのクラスに日産デイズ ルークス(DAYZ ROOX)として新車種が投入される。
前回のパレットは、2代目タントの後から登場したのに、今回のスペーシアは3代目タントの前に登場してきた。このあたり、スズキの開発には相当に“巻き”が入っているようだ。スポーティなカスタム系を後回しにして標準車だけを先に発売した点からもそれが受け取れる。
安全装備の横滑り防止装置が間に合わなかったことなど、少々無理気味の急ぎ方ともいえるのだが、ホンダの本格参入であおられている状態なので、3月商戦に向けて何としても新型車が欲しいといった事情があったのだろう。
今回の新型スズキ スペーシアでは、超ハイトワゴンとしての基本コンセプトをパレットから継承しながら、それをさらに徹底させてクラス最大級の室内空間を作るとともに、軽量化技術を積み上げてパレットに比べて90kgもの大幅な軽量化を達成した。
さらに、ワゴンRから採用が始まったスズキのグリーンテクノロジーを採用することで、29.0km/Lというクラストップの低燃費を達成した。先に発売されたダイハツのムーヴの燃費に並びかけてきたのは凄い。ムーヴはハイト系で新型スズキ スペーシアはさらに背が高い超ハイト系だからだ。
とにかく広い居住スペースをもつ新型スズキ スペーシア
新型スズキ スペーシアの外観は、見るからに室内の広さを想像させるもので、親しみやすいデザインが採用された。ただ、親しみやすさを重視したためか、あまりにも平凡なデザインという印象も受ける。万人受けすることを目指すと、とかくこうしたデザインになりがちだ。まあ、間もなくスポーティな外観を持つカスタム系のモデルが登場するということなので、デザインの評価についてはもう少し待ちたい。
ボディカラーには、ルーフを白く塗り分けたツートーンカラー仕様の設定もあるが、これはN BOXからいだだきというか、ミニからアイデアをいただいたものだ。
インテリアは、上部のガラスへの映り込みを抑えた濃色で、下部には明るい色を使ったツートーンでまとめられけいる。横方向への広さを感じさせるデザインに仕上げている。インパネ回りの雰囲気はシンプルかつクリーンな印象だ。
メーターは見やすい自発光式で、走行状態に応じて色が変わり低燃費運転を促すような設定もある。自発光式メーターは、暗くなってもメーターが見えるため、無灯火で走りやすいという欠点を持つ。オートライトを標準装備にしてデフォルトをオートにして欲しい。
スペーシアは軽自動車なので、ボディサイズは規格に合わせて作られているが、その中でホイールベースを延長し、クラストップの室内長を確保したほか、パレットに対して室内高、室内幅、ヘッドクリアランスなど、さまざまな要素を拡大して本当に広い室内を作っている。
スズキ スペーシアは全高の高い超ハイト系ながら、前席の座面は適度な高さに設定されていて、自然な姿勢で乗り降りできる。運転席に座ると、大きなフロントウインドーによって上下にも左右にも開けた視界が確保されている。フロントピラーの部分に、三角窓ならぬ平行四辺形窓が設けられて死角を減らしているのもポイントだ。
後席は、床面の低さやスライドドアの開口部の広さも加わって、老人や子供にも乗り降りしやすい設計とされている。後席に座ると、殺風景なくらいに広い足元空間が広がっている。文字通りクラス最大級の広さである。
このほか、縦開きで大きく開くバックドアも特徴で自転車の積み込みなど、使い勝手の良いクルマとされている。
軽量化の影響か? 騒音は大きめ
新型スズキ スペーシアの走り出しは、とてもスムーズだ。自然吸気エンジンの搭載車でも、すーっと走り出していく感じで、もたつくような感じはまったくない。これは大幅な軽量化が貢献している部分だろう。
アクセルを踏み込むと、副変速機付きのCVTによって滑らかに加速していくが、このときの室内騒音はちょっと大きめだ。徹底した軽量化によって内装材から防音材に至るまで、いろいろと省略されたことが、騒音レベルの高さにつながっているのだと思う。
防音材の重量と静粛性とは、ある意味でトレードオフの関係にあるので、軽さを徹底追求したスペーシアでは、騒音レベルの高さは止むを得ない面もある。
スペーシアのターボ車は、動力性能に余裕があり、エンジンの回転数を高めなくても走れる範囲が広いので、その分だけ騒音レベルは低くなる印象だが、いずれにしても特に静かなクルマというわけではなく、どちらかといえば騒音が大きいクルマという印象だった。
スペーシアのエンジンには、エネチャージを採用することなどによって、時速13km以下になるのとエンジンが停止するアイドリングストップ機能が装備されている。さらに、夏場にはエコクールによって停止時間が延長される。これらは、燃費に貢献する要素で、全車エコカー減税で免税レベルを達成していることは高く評価できる。
アイドリングストップから再始動するときの振動や騒音は、それなりのレベル。これもさらに静かでスムーズになったほうがうれしいが、取り敢えずはエンジンを積極的に停止させることが大切だ。
高い操縦安定性だが、横滑り防止装置はオプションでも装着できないなど、安全装備のレベルは低い
期待はしていなかっただけに、想像していた以上にしっかりした感じを受けたのが操縦安定性だ。スズキ スペーシアは、低い床面によって低重心を実現したことが、走りの安定感を生んでいる。超ハイト系ワゴンとして相当に安定感のある走りだ。
今回試乗したスペーシアのグレードはXとTで、ともに14インチタイヤ+フロントスタビライザーを装着したモデルだった。そのことが、安定感に貢献した部分があるだろう。ベースグレードのGは13インチでスタビライザーなしになるので、この仕様だと印象が変わるかも知れない。ダイハツが始めたように、フロントのスタビライザーは、全車標準にするのが良いと思う。
タイヤは、ダンロップのエナセーブで、空気圧は280とちょっと高めの設定。乗り心地が硬めに感じられたのは空気圧による部分もあるようだ。
もうひとつ、安全装備の横滑り防止装置(ESP)が、オプション設定すらされていないのは何とも物足りない。先に発売されたムーヴには、横滑り防止装置どころか追突軽減ブレーキまで標準装備したグレードが設定される時代である。
法規制では、軽自動車の横滑り防止装置について登録車に対し2年の猶予があり、継続生産車にはさらに4年の猶予が設けられている。なので、新型スズキ スペーシアは、その気になればこのモデルでは装着せずに次期モデルまで頑張ることも可能ではあるが、追突軽減ブレーキも含めて早期対応が望まれる。
スバルのアイサイトの売れ行きを見ると、安全装備が理由でスバル車を選んでいるユーザーが多いことが分かる。軽自動車も安全装備がない分だけ安いクルマを作るより、安全装備を用意することで積極的に選んでくれるユーザーを増やすことを考えたほうが良いと思う。
スズキ スペーシア価格、燃費、スペック等
■スズキ スペーシア グレード、価格
G 2WD 1,228,500円
4WD 1,346,100円
X 2WD 1,323,000円
4WD 1,440,600円
T 2WD 1,417,500円
4WD 1,535,100円
代表グレード | スズキ スペーシアX |
---|---|
ボディサイズ[mm](全長×全幅×全高) | 3,395×1,475×1,735mm |
ホイールベース[mm] | 2,425mm |
トレッド前/後[mm] | 1,295/1,290 |
車両重量[kg] | 850kg |
総排気量[cc] | 658cc |
エンジン最高出力[ps(kw)/rpm] | 52PS(38Kw)/6000rpm |
エンジン最大トルク[N・m(kg-m)/rpm] | 63(6.4)/4,000rpm |
ミッション | CVT |
タイヤサイズ | 155/65R14 |
JC08モード燃費 | 29.0km/L |
定員[人] | 4人 |
税込価格[円] | 1,109,850円 |
発表日 | 2013/2/26 |
レポート | 松下 宏 |
写真 | 編集部 |
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