ハイブリッド車並みの低燃費33.0km/Lを達成したアルト エコ。しかし、懸念する部分も・・・。
軽自動車の燃費競争は、とどまるところを知らないといった感じである。火を点けたのは言うまでもなくミライースで、2011年9月の登場時に30.0km/Lという低燃費を実現して注目を集めた。
この数値には、当分追いつけないのではと思っていたら、わずか2カ月後に登場したアルトエコが30.2km/Lという数値を達成し、わずか0.2km/Lながらミライースを上回ってきた。ダイハツと同じような研究を、スズキも同様に進めていたからこそ、この短期間で追いつき、追い越すことができたのだ。
その後も燃費競争はいろいろな軽自動車で進められているが、ワゴンRがスズキのグリーンテクノロジーによって28.8km/Lを達成すれば、直後に発売されたムーヴは29.0km/Lの燃費を実現してミライースの敵を討つという具合だ。
そして、アルトエコは2013年2月に、さらに燃費を向上させ、JC08モードで33.0km/Lにまで高めてきた。これはワゴンRに採用したエネチャージなどのグリーンテクノロジーの採用や、さらなる低燃費化によって実現したものだ。
それにしても、この数値は凄い。プリウスの燃費スペシャルグレードであるLでも32.6km/Lだし、標準のプリウスなら30.4km/Lなのだから、軽自動車とはいえガソリン車でハイブリッド車を上回る低燃費を実現している。
少し前までは、軽自動車は車両重量とエンジン排気量のバランスが悪いので、コンパクトカーのような燃費が出せないと言われていたのに、それがコンパクトカーどころかハイブリッドも上回るようになった。
ただ、この超低燃費はかなり無理して達成したような印象がある。アルトエコが登場したときも、燃料タンクの容量を20Lに減らすことで重量を軽くして燃費を向上させるなどの“裏技”を使っていたが、今回も燃費のために、タイヤの空気圧をさらに高めて300kPaにするなど、やや無理気味の仕様にしているからだ。
20kgの軽量化で、よりスムースな走り生み出した
アルトエコには、そうした懸念を抱きながら試乗することになったが、結論から先に書くと懸念の大半は取り越し苦労に終わった。とても良いとはいえないまでも、直ちに問題点が露呈するような仕上がりではなかった。
外観デザインは、空力特性を追求してバンパーの形状を変更するなどしているが、ほとんどアルトと変わらない。可愛らしいデザインではあるが、積極的に欲しいと感じさせるデザインではないのも確かである。同様にインテリアもシンプルなもので、基本造形はアルトと同じである。
走り出しは、スムーズだ。標準のアルトとは異なるR06A型エンジンに副変速機付きCVTを組み合わせて搭載していて、これが低速域から十分なトルク感を伴って加速する。従来のアルトエコに対してさらに20kgの軽量化を進めたことも、このスムーズな走り出しにつながっていると思う。
市街地などを走らせているときには、CVTが高めの変速比を使って燃費志向の走りをするように設定されているので、回転を抑えた燃費の良い走りが得られる。アクセルを踏み込むと副変速機が切り換わってそれなりに力強い加速が得られる。まずまず不満のない性能である。
エコ運転中は、メーターがグリーンになって低燃費運転をしていることを教えてくれる。アクセルを踏み込んで燃費が悪くなるとブルーに変わるので、色の変化を励みに燃費の良い運転を心がけたら良い。キーをオフにするとエコスコアが表示され、エコ運転の達成度が分かる仕組みも盛り込まれている。
軽量化のため、騒音レベルはかなり高め
アルトエコを走らせたときの騒音レベルは、かなり高めだ。軽量化のため、遮音材などもケチっているので、その分だけロードノイズやエンジン音がしっかり室内に入ってくる。アルトエコのような実用車は少しでも静かなほうが良いので、騒音や振動はアルトエコにとっての課題といえる。
アイドリングストップ機構は、減速時に車速が時速13kmにまで落ちるとエンジンが停止する仕組み。クルマが停止する寸前にエンジンが停止するが、その瞬間に信号が青になって再加速するといったシチュエーションを試しても、特に問題はなかった。再始動時の振動や騒音は前述の通りで大満足のレベルにはないが、大きな不満を感じるほどではない。
積極的におすすめはできないが、街乗り中心ならなんとか。価格、燃料経済性も高いのは魅力
アルトエコに乗る前に最も気になっていたのが、乗り心地と操縦安定性だ。これまでのアルトエコもタイヤの空気圧が280kPaの設定で、乗り心地はかなり硬め、操縦安定性も特に良いとはいえなかったからだ。
それが、今回のアルトエコではタイヤのブランドを変更したことなども含めて、転がり抵抗を減らしたはずなのに乗り心地もスポイルされていなかった。これは、やや意外たった。
といっても、従来のアルトエコよりは良いという程度なので、路面が荒れたシーンでは乗り心地の硬さを感じるし、これだけ空気圧が高いとドライのオンロードはともかく、ウェット路面での急制動や急な回避操作のときにどうかという不安は残る。
アルトエコは今回の改良で、上級グレードのECO-Sには後席のヘッドレストレイントが標準で装備されるようになった。ECO-Lでは装着することができないので、まだ問題が残るが、ECO-Sを選べば何とかなるというところまできた。
なので、積極的に勧められるクルマではないが、一家のセカンドカーやサードカーとして、町乗り中心に使うクルマとしてなら、十分に選択の対象になると思う。低燃費であるだけでなく、低価格でもあり、さらに低燃費によってエコカー減税で免税が適用されるのも魅力である。
スズキ アルト エコ価格 スペック 燃費など
・ECO-L 2WD CVT 900,000円 4WD 1,000,000円
・ECO-S 2WD CVT 1,000,000円 4WD 1,100,000円
代表グレード | スズキ アルト エコS |
---|---|
ボディサイズ[mm](全長×全幅×全高) | 3395×1475×1520mm |
車両重量[kg] | 710kg |
総排気量[cc] | 658cc |
エンジン最高出力[ps(kw)/rpm] | 52ps(38kw)/6000rpm |
エンジン最大トルク[kg-m(N・m)/rpm] | 6.4kg-m(63N・m)/4000rpm |
ミッション | CVT |
JC08モード燃費[km/l] | 33.0km/l |
定員[人] | 4人 |
税込価格[万円] | 100.0万円 |
発売日 | 2013/2/20 |
レポート | 松下 宏 |
写真 | 編集部 |
スズキ アルト エコの主な改良点
■「スズキグリーン テクノロジー」を採用し、低燃費と軽快な走りを両立
・燃費向上に貢献するエネルギーマネジメント技術を採用
・独自の減速エネルギー回生機構「エネチャージ」
・既存のアイドリングストップ車専用の鉛バッテリーに加え、高効率なリチウムイオンバッテリーと高効率・高出力のオルタネーターを併用。発電に使うガソリンを減らし、減速エネルギーで発電するスズキ独自の減速エネルギー回生機構を採用した。
・より効率的に進化した「新アイドリングストップシステム」
停車前の減速時、アクセルを離したときから燃料をカットし、さらにブレーキを踏んで13Km/h以下になると自動でエンジンを停止する新アイドリングストップシステムを採用して燃料消費を抑制した。また、アイドリングストップ中、蓄冷材を通した冷風を室内に送ることで車室内の快適性をより長く持続させる「エコクール」も採用した。
・20kg(2WD車比)の軽量化
細部の部品一点一点にいたるまで徹底して見直しを行い、材料や構造の変更などの工夫を重ねて軽量化に取り組んだ。安全性や快適性を保ちながら20kgの軽量化(2WD車比で車両重量730kg→710kg)を実現した。
・パワートレインの高効率化
従来型よりもさらに進化したR06A型エンジンを搭載した。タイミングチェーンの幅を細めることでフリクション(摩擦抵抗)低減を図ったほか、エンジン・CVT全体を一から見直し、薄型軽量ラジエーターの採用をはじめ、細部にいたるまで各部品を軽量化した。
ワイドな変速比幅により、加速性能と燃費性能を高次元で両立する副変速機構付CVTをさらに改良。VVTなどエンジン制御にあわせてCVTの変速制御を最適化し、より効率の良い回転域での走行を可能とした。
・走行抵抗の低減 空気抵抗の低減
リヤバンパーの形状変更や、リヤタイヤハウスに整流板を採用することで、抵抗となる空気の乱れを低減した。
・転がり抵抗の低減
転がり抵抗を低減した新開発タイヤを採用。内部構造の最適化により空気圧を300kPaに設定し、乗り心地や静粛性など快適性を確保した。
・引きずり抵抗の低減
ブレーキパッドスプリングにコーティングを施し、ブレーキの引きずり抵抗を低減した。
・新設定の4WD車も含め、アルト エコは全機種免税対象
・アルト エコ全機種に4WD車を設定。
2WD車(33.0km/L※2)はガソリン車No.1※1、4WD車(30.4km/L※2)はガソリン4WD車No.1※1の低燃費を達成。
■アルト エコ専用デザインを採用
・専用フロントグリルなど、標準車との差別化を図ったエクステリア
・シルバーをアクセントとした、アルト エコ専用フロントグリルを採用。
・カラードドアハンドル(バックドアを除く)と、カラードドアミラー(ECO-S)をフロントグリルのフィンと同じシルバー塗装とすることで、アルト標準車との差別化を図った。
・ライトグレーとブラウンを基調とした、明るく親しみやすいインテリア
・ライトグレーとブラウンの組み合わせで、コントラストのある内装色とした。
・「エコドライブアシスト照明」を採用した専用メーターのメーターリングや文字盤、エアコン操作パネルに水色を取り入れた。
・シート表皮は、ライトグレーをベースに水色のアクセントを配した。
・機能や装備を充実させ、使い勝手や安心感を向上
・燃費効率が良い運転状態になると、スピードメーター照明色が青色から緑色に変化し、エコドライブ状態をひと目で確認できる「エコドライブアシスト照明」を採用。
・マルチインフォメーションディスプレイに、エコドライブ度を100点満点で採点する機能「エコスコア」を採用。
・電波式キーレスエントリーを標準装備。
・リヤシートヘッドレストを標準装備(ECO-S)。
・リヤワイパーを標準装備(4WD車)。
・運転席シートヒーターとヒーテッドドアミラーを採用(ECO-S 4WD車)。
・LEDサイドターンランプ付ドアミラー、キーレスプッシュスタートシステム、イモビライザー(国土交通省認可品)をセットでメーカーオプション設定(ECO-S)。
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