1モーター式にこだわり、数々の新技術が導入され、ハイブリッド車として大幅に進化した新型フィットハイブリッド
ホンダ フィットがフルモデルチェンジを受けて、3代目フィットとなり登場した。フィットの初代モデルはセンタータンクレイアウトをベースに、コンパクトなボディの中に大きな室内空間を持つクルマとして登場し、走りや燃費とのバランスにも優れている点が高く評価された。
それを受け継いだ2代目モデルも広い室内空間と燃費の良さに加え、乗り心地やパワステのフィールを向上させるなど、走りの質感を高めていた。さらに、モデルサイクルの途中でハイブリッド車を投入して人気を集めた。
そして、今回の3代目フィットハイブリッドには、ボディをさらに拡大してこのクラスで圧倒的ともいえる室内空間を備えるとともに、従来のIMAに代えて新しくi-DCDと呼ぶハイブリッドシステムを採用して登場してきた。ハイブリッド用の電池にはリチウムイオン電池を採用し、電動サーボブレーキを採用するなど、メカニズム面で大きく進化したのが特徴だ。
新型フィットのハイブリッドシステムは、引き続き1モーター方式を採用しているので、プリウスなどのフルハイブリッド方式とは異なるやや簡易型といえるシステムである。
ただ、最近のヨーロッパなどに多く採用されているデュアルクラッチ(DCT)のトランスミッションを採用し、そのDCTの中に電気モーターを内蔵することで、シンプルで効率の良いハイブリッドシステムとしている。
これによって1モーター方式ながら、エンジンが停止しているときに電気モーターだけで走るEV走行を可能にするなど、燃費向上への条件が整った。結果として最も燃費の良いモデルで36.4km/Lという世界最高燃費を獲得したハイブリッド車に仕上げることができた。(燃費データの問題点については後述する)
ダイレクト感のあるスポーティな走行フィーリングが新型フィットハイブリッドの美点
新型フィットのハイブリッド車は、発進からしてスムーズだ。電池の残量にもよるが、通常の発進は電気モーターだけでスルスルと走り出していく。このスムーズさは、いかにもハイブリッド車らしいものだ。
従来のホンダのハイブリッド車は、IMAと呼ぶエンジンが主役でモーターが脇役としてアシストする仕組みだったから、エンジンなしで走り出していくのは新鮮な感じがある。もちろんプリウスなど、トヨタのハイブリッドは、基本的にモーターだけで発進するフルハイブリッドだ。
モーターだけで走れる距離や速度は、それほどではないので、走り出すとすぐにエンジンが始動するが、そのときの振動や騒音も良く抑えられている。またデュアルクラッチのトランスミッションはとかく低速域でギクシャクしがちなものだが、そのギクシャク感を全くと言って良いほど感じさせることなく走り出していくのは、モーターを内蔵したデュアルクラッチの長所といえる。
新型フィットハイブリッドのエンジンは、従来の1.3Lが1.5Lに排気量アップされた。アトキンソンサイクルという効率重視の燃焼方式を採用したエンジンで、その分だけトルクが低くなるのだが、排気量アップした分がトルクの向上につながっている。
エンジンが81kW/134N・m、モーターが22kW/160N・mと、エンジンもモーターも十分な性能を発揮するので、従来のモデルに比べてグンと力強い感じの走りになっている。
そして、走行中にエンジンが止まってEVモードに入りやすいのも良い点だ。これもi-DCDがIMAと異なる部分で、静かで燃費の良い走りを得やすいのだ。ハイブリッド車はこうでなくちゃと思わせる部分でもある。
また、アクセルを踏み込んだときのダイレクト感もi-DCD方式のハイブリッド車の特徴である。トヨタのTHS-Ⅱは電気式CVTを採用して効率重視の味付けにしているため、アクセルを踏み込んだときのダイレクト感に欠けるきらいがある。それが、欧州などでハイブリッド車の普及が進まない理由のひとつともされている。
トヨタのTHS-Ⅱと比較すると、新型フィットのi-DCDはアクセルレスポンスが良くてスポーティな走りのフィールを感じさせるハイブリッドシステムだ。その気になって走っていたら、燃費の良い走りにならないが、走りを楽しめるハイブリッド車であるのも良い。
ハイブリッド用の電池としてリチウムイオン電池が搭載されているため、電気の出し入れがスムーズかつ素早い。これもEVモードに入りやすくなることにつながる。
逆に新型フィットハイブリッドの電動サーボブレーキは、大きな不満というほどではないが、通常のエンジンの負圧を使ったブレーキにに対して多少の違和感を感じさせる部分があった。ただこれは、電動サーボであることを意識して試乗するから感じる部分ともいえ、何も聞かされずに乗ったら、その違和感に気づくかどうかというレベルである。
新型フィットハイブリッドでは、FパッケージとSパッケージに試乗した。Fパッケージはこれが標準グレードともいえるもので、Sパッケージは従来のハイブリッドRSをイメージさせるようなグレードとなる。
Sパッケージは、パドルシフトも備えてマニュアル車感覚の走りを可能とするほか、タイヤも1サイズ大きい15インチとなるが、燃費はやや悪くなる。
ホンダだけではないが、インチキ燃費戦争はそろそろ止めてほしい!
フィットの燃費がアクアを上回って世界最高燃費(11月末にはアクアに再逆転された)の36.4km/Lを達成したのは、燃費スペシャルともいえるベースグレード。オプションであんしんパッケージを装着することができなければ、後席のウルトラシートがなく、おまけに後席中央にはヘッドレストレイントが装備されない。また、燃料タンクの容量も40Lを32Lに減らすなど、なりふり構わない仕様とされている。
燃料タンクの容量を減らす程度なら“裏技”といえる範囲内に収まるかも知れないが、安全装備を外すのは、そのこと自体が目的ではなく軽いシートを作ることが目的だとしても、裏技を通り越して“禁じ手”である。
これで36.4km/Lの燃費をうたっても「Fパッケージの33.6km/Lがフィットの実力値だよね」ということになってしまう。さらにいえば、タイヤの違いなどによってハイブリッドでもSパッケージの燃費は31.4km/Lにまで落ちる。
カタログの表示や広告宣伝に使うために燃費スペシャルを作るのはホンダに限ったことではなく、プリウスでもノートでも燃費を強調するモデルでは、普通に行われている。しかし、そんなインチキグレードで、燃費世界一をうたっても意味がない。 大事なのは、ユーザーが使うときの実燃費だ。実力で燃費を稼ぐような方向で頑張って欲しいと思う。それが、本来のホンダらしいクルマ作りではないか。
ホンダ フィットハイブリッド価格、燃費、スペックなど
■ホンダ フィットハイブリッド価格
・HYBRID 1,635,000円
・HYBRID Fパッケージ 1,720,000円
・HYBRID Lパッケージ 1,830,000円
・HYBRID Sパッケージ 1,930,000円
定員[人]5人
代表グレード | ホンダ フィットハイブリッドSパッケージ |
---|---|
ボディサイズ[mm](全長×全幅×全高) | 3,995×1,695×1,525mm |
ホイールベース[mm] | 2,530mm |
車両重量[kg] | 1,140kg |
総排気量[cc] | 1,496cc |
エンジン最高出力[ps(kw)/rpm] | 110(81)/6,000rpm |
エンジン最大トルク[kg-m(N・m)/rpm] | 13.7(134)/5,000rpm |
モーター最高出力[ps(kw)] | 29.5ps(22kw) |
モーター最大トルク[kg-m(N・m)] | 16.3kg-m(160N・m) |
システム全体出力[ps(kw)] | 137ps(101KW) |
システム全体トルク[kg-m(Nm)] | 17.3kg-m(170Nm) |
ミッション | 7速DCT |
JC08燃料消費率[km/l] | 31.4km/l |
バッテリー 種類/容量(Ah) | リチウムイオン/5.0 |
価格 | 1,930,000円 |
写真 | ホンダ |
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