安全装備が乏しく、価格も割高
ラティオは文句を言いたいことがたくさんあるクルマだ。
まず日本で発売される前に、中国やアメリカなどで50万台も売れているとのこと。これはエントリーユーザー向けの低価格セダンとしての売れ方だが、いずれにしても中国やアメリカに比べて日本が後回しになっている。
日産自動車は社名が日産というくらいなのだから、日本の市場やユーザーを重視し、優先したクルマ作りをして欲しいのに、中国で販売してから2年近く経過して日本で売り出すのではとんでもない話だ。
そればかりではない、中国やアメリカ向けのクルマには設定されているのに、日本向けでは省略されている装備がいくつもあって、この点でも日本が後回しになっている。
特に文句を言いたいのが横滑り防止装置のVDCで、日本では10月1日以降に型式指定を受けるクルマに装着が義務化されているのに、10月5日に発表されたラティオでは最上級グレード以外には装備されていない。はるか以前に型式指定を受けているため、10月5日に発表のクルマでも滑り込みセーフというわけだ。
確かに法的にはそれで良いのだろうが、義務化がはっきりしている安全装備を全車装着にせずに売り出すのでは、「日産はクルマの安全に積極的に取り組むつもりはさらさらない」と宣言しているようなもの。軽自動車は2年先の2014年10月1日が横滑り防止装置義務化の基準日とされているが、2011年12月に発売されたホンダのN BOXには全車標準装備されている。
また、9月18日に発売されたフォルクスワーゲンのup!では、横滑り防止装置のESPはもちろんのこと、追突軽減ブレーキまで全車に標準装備されている。わずか149万円のクルマにも標準なのだ。
メルセデス・ベンツやBMWなどのプレミアムブランド車に負けているならともかく、ホンダの軽自動車に負け、大衆車ブランドのフォルクスワーゲンにもボロ負け状態なのだから、日産の対応がいかになっていないかが分かる。今は外資の参加にあるが、日産はこんなメーカーではなかったはずだ。
安全装備では、後席中央にヘッドレストレイントが装備されていない。後席中央の3点式シートベルトは装着が義務化されたから装着されているが、義務化されていないヘッドレストレイントは装備しないというのは何たることか。
ついでに、もうひとつダメな点を書いておこう。価格の割高感だ。ラティオはマーチと同じようにタイで生産されて日本に輸入されている。そのほうが安く作れるからタイで生産しているのだろうが、なのに価格は日本で作ったクルマと同じような水準にある。これではタイで生産したことのメリットが日本のユーザーにもたらされていない。
それもマーチ系のプラットホームを採用し、直列3気筒エンジンを搭載しながら、日本で生産されて4気筒エンジンを搭載するカローラと同じような価格なのだから、割高な印象がいっそう強まる。
走りは標準的。ノートと同じエコスーパーチャージャー付1.2Lも欲しい
さんざん文句を書いてガス抜きができたところで、クルマを走らせた印象について書こう。乗ってみると、クルマ自体はそんなに悪いものではなかった。まあ、乗ってすぐに悪いところが分かるようなクルマは今どきあり得ない話だし、悪くないというだけで積極的にほめるような要素がたくさんあったわけでもない。
ラティオは、日産がコンパクトカー用に使っているVプラットホームを採用する。マーチやノートなどと同じで、ホイールベースもノートと同じだから、メカニズム的にはノートセダンといった感じのクルマである。
搭載エンジンは1.2Lの自然吸気エンジンだけで、ノートに搭載のスーパーチャージャー仕様のエンジンは設定されていない。このあたりもちょっと安っぽさを感じさせる部分である。スーパーチャージャー仕様のエンジンを搭載すると、価格がさらに高くなってしまうためのようだ。
58kW/106N・mという実力は、排気量相応というか、まあ平凡なもの。ボディが1000kgちょっとと割と軽く作られているので、この動力性能でもそこそこの走りは得られる。副変速機付きのCVTがおいしところを使って走るので、タウンモードを中心に使うなら不満は出ないだろう。
ただ、ライバル車となるカローラの1.3L車は、排気量の違いもあって70kW/121N・mを発生している。カローラとの比較になると、相手が1.5L車でなく1.3L車であっても苦しい。
走りに関して割と好印象だったのは足回りで、乗り心地重視の柔らかめの味付けながら、コーナーなどでは案外しっかりした走りを見せたからだと評価したい。
乗り心地が良かったことにはタイヤも関係している。タイヤがブリヂストンのB250という一般的なタイヤで、最近流行りの高い空気圧を設定したエコタイヤでないことが、乗り心地に影響してたのだろう。
個人ユーザーが選ぶなら、最上級Gグレードのみがオススメとなる
外観デザインは、まあ普通のセダンといった感じ。マーチほどには粗が目立つ感じではないが、これといってクォリティの高さを感じさせる外観ではない。上級グレードにはアルミホイールを設定しても良いのではないだろうか。
もっと安っぽさを感じさせるのは、インテリアのデザインや仕様だ。インパネ回りはノートと共通化している部分が多いものの、ノート上級グレードにピアノブラック調のパネルや本革巻きステアリングホイールなどが採用されるのに、ラティオにはそれらがオプション設定すらされていない。新興国のエントリーユーザー向け仕様そのまま、といった感じの部分が目立つ感じだ。
上級グレードのGには、プッシュ式のエンジンスターターやインテリジェントキー、オートエアコンなどが装備されるのが、質感を感じさせる部分である。
室内空間の広さはまずまずというか、合格点が与えられる。後席にはコンパクトセダンとして十分な広さがあり、大人がしっかり座れる空間が作られている。トランク容量もたっぷりで、セダンとしての実用性は満足できるレベルにあると評価しよう。
日産ラティオは、どちらかというとビジネスユースを中心として導入されているため、装備はかなりシンプル。そのため、個人ユーザーがラティオを買うなら、1.2L車なのに170万円近い価格になるが、最上級グレードのGしかない。Gなら横滑り防止装置のVDCが標準で装備されているし、ほかにもプッシュ式エンジンスターターやインテリジェントキー、オートエアコンなど、充実した仕様が用意される。
Gの装備に加えて必要なのは、5万円弱のSRSエアバッグをオプション装着し、オーディオレスが基本なので10万円強の最もシンプルな仕様のカーナビを装着し、合わせて、3万5000円のバックビューモニターを装着すれば良い。
後はETC車載器やドライブレコーダーなどを装着しても良いが、これらはディーラーで買うと高いので、オートバックスなどのカー用品店でもっと安いものを買えば良いだろう。
日産ラティオ価格、燃費、スペックなど
<日産ラティオ価格>
・B 1,388,100円
・S 1,419,600円
・X 1,470,000円
・G 1,698,900円
代表グレード | 日産ラティオX |
---|---|
ボディサイズ[mm](全長×全幅×全高) | 4,425×1,695×1,495mm |
ホイールベース[mm] | 2,600mm |
トレッド前/後[mm] | 1,480/1,485mm |
車両重量[kg] | 1,030kg |
総排気量[cc] | 1,198cc |
エンジン最高出力[kw(ps)/rpm] | 58(79)/6,000 |
エンジン最大トルク[N・m(kg-m)/rpm] | 106(10.8)/4,400 |
ミッション | CVT |
タイヤサイズ | 175/70R14 |
JC08モード燃費 | 22.6km/L |
定員[人] | 5人 |
税込価格[円] | 1,470,000円 |
発売日 | 2012/10/5 |
レポート | 松下 宏 |
写真 | 編集部 |
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