【フォルクスワーゲン ザ・ビートル試乗評価】の目次
後席が大幅に広くなり合理的になったザ・ビートル
ニュー・ビートルがフルモデルチェンジを受けてザ・ビートルが登場した。
初代ビートルは自動車史に名前を残すクルマで、第二次世界大戦前に開発されて今世紀初頭にメキシコでの生産が終わるまで、60年以上にわたって生産が続けられた。その間に単一モデルで1500万台を超える生産台数を記録するなどした歴史がある。
かぶと虫と呼ばれた初代モデルにインスパイアされて、1998年に北米でデザイン、開発されたのがニュー・ビートルで、このモデルも初代モデルに似た可愛らしいデザインが人気を集めて一定の評価を得てきた。
そして、ニュー・ビートルをフルモデルチェンジする形で登場したのが今回のザ・ビートルである。ザ・ビートルはフォルクスワーゲンの本拠地であるドイツでデザインや開発が進められた。
ニュー・ビートルが、あまりにもデザインを優先させすぎて、後席居住性などパッケージングの面では物足りなさの残るクルマだったが、今回のザ・ビートルはそうした点の改善が図られている。
アメリカ人にとっては、後席居住性などは無視しても良いものだったかも知れないが、ヨーロッパ的な合理性を考えたら、後席にもしっかり大人が座れるクルマでないといけない。その意味で、手頃なボディの中に大人4人がしっかり乗れた初代ビートルの志を受け継いだのはニュー・ビートルではなくザ・ビートルであるといえる。なお、ザ・ビートルも乗車定員は4名とされている。
全幅1800ミリ超! 大きくなったカブト虫
デザイン的には見るからにビートルらしく作られているが、横から見るとニュー・ビートルとの違いが良く分かる。ルーフラインをしっかり後方まで伸ばして後席居住性を確保したのがザ・ビートルの特徴だ。ニュー・ビートルでは後席には子供しか乗れないくらいだったが、ザ・ビートルでは大人も座れる後席空間が確保された。
ただ、居住空間の拡大に合わせてボディサイズがやや大きくなり、ホイールベースや全長だけでなく、全幅も拡大されて1815mmに達したのは日本ではやや問題。
BMW3シリーズが旧型モデルの時代に、立体駐車場などで車庫証明を得られるようにするため、マイナーチェンジで全幅を1815mmから1800mmちょうどに変更したことが端的に示すように、日本での使い勝手を考えると1800mm超の全幅は難しいものがある。
インテリアはボディ同色のパネルが使われ、これが新鮮な印象を与えている。初代ビートルなどの昔のクルマが鉄板をむき出しにした仕様を備えていたのと同じような感覚を与えるが、今の時代にはそれが逆に新鮮な印象なのだ。
シートは、本革スポーツシートが標準。取り敢えず4月に開始された予約受注は、上級グレードとなるレザーパッケージ装着車から始められたからだ。ファブリック製のコンフォートシートを装着した標準グレードのデザインは秋からデリバリーが始まる予定だ。
内外装のカラーをコーディネートしたグレードは、デザインと呼ばれる。日本には、デザインとデザイン・レザーパッケージの2グレードが導入されるわけだが、本国ではカラーコーディネートのないベースグレードのザ・ビートルと、よりパワフルなエンジンを搭載したザ・ビートル・スポーツの設定もある。
満足感のあるレザーパッケージがオススメ
搭載エンジンは、ゴルフのベーシックモデルに搭載されているのと同じ直列4気筒1.2LのSOHCで、直噴+インタークーラー付きターボ仕様のTSIエンジン。77kW/175N・mのパワー&トルクを発生する。
ザ・ビートルは、ニュー・ビートルに比べるとボディがひと回り大きくなって装備の充実化が図られたものの、車両重量はわずか20kgしか重くなっていない。なので、1.2LのSOHCをベースにしたTSIエンジンでも十分といった感じになる。
ニュー・ビートルほどではないにしても、ザ・ビートルがデザイン優先のクルマであるのは変わらないから、このクルマで積極的にスポーティな走りを楽しもうというユーザーは少ない。特徴的なデザインのカッコ良いクルマに乗って、カーライフを楽しみたいというユーザーが乗るクルマだ。
なので、スポーティな実力のエンジンでなくても十分というわけで、普通に良く走り、それでいて燃費も良いなら何の不満もないということになる。ザ・ビートルは7速DSGとの組み合わせによってJC08モードで17.6km/Lの燃費を実現する。これは平成27年度燃費基準を達成する数値であり、エコカー減税50%が適用される。
レザーパッケージ装着車には、ベースグレードのデザインに比べて1サイズ大きな17インチタイヤが装着される。試乗車にはコンチネンタルのプレミアムコンタクト2が装着されていて、乗り心地も上々だった。スポーティな踏ん張りを感じさせるようなタイヤではないが、乗り心地や静粛性などに不満を感じさせない。ザ・ビートルはこうした面でも普通に良いクルマと評価していい。
デザイン・レザーパッケージの価格は303万円で、後からデリバリーが始まるデザインには250万円の価格が設定される。仕様差は、レザーシートのほか、バイキセノンヘッドライト、レインセンサーワイパー、自動防眩ミラー、2ゾーンフルオートエアコン、パドルシフト、タイヤサイズなどだ。
本革シートについては好き嫌いがあるが、快適装備を中心にした仕様の違いを考えると、レザーパッケージを選んだほうが満足度が高いと思う。レザーシートなのにパワーシートではないのは、ちょっと物足りないが、ザ・ビートルを選ぶならレザーパッケージがお勧めだ。
なお、ESPを始めとする各種の安全装備については、デザインでもレザーパッケージでも共通の仕様が用意されている。
代表グレード | VWザ・ビートル デザイン |
---|---|
ボディサイズ[mm](全長×全幅×全高) | 4,270×1,815×1,495mm |
車両重量[kg] | 1,280kg |
総排気量[cc] | 1,197cc |
エンジン最高出力[ps(kw)/rpm] | 105ps(77kw)/5000rpm |
エンジン最大トルク[kg-m(N・m)/rpm] | 17.8kg-m(175N・m)/1500-4100rpm |
ミッション | 7速DSG |
JC08モード燃費[km/l] | 17.2km/l |
定員[人] | 4人 |
税込価格[万円] | 250万円 |
発売日 | 2012年6月1日 |
レポート | 松下 宏 |
写真 | 編集部 |
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