ITや通信技術を駆使して実用性をサポートする新しい発想の電気自動車
リーフは一般の市販される電気自動車としては事実上初めてのクルマであり、ゼロエミッション(排気ガスなし)の時代の到来を告げるクルマだ。発電時にはC02を発生するから、厳密にいえばゼロエミッションではないが、クルマが走ることによって直接発生する排気ガスがゼロであるのは間違いない。このことを考えながら走らせると、それだけで誇らしい気持ちになって気分が良い。
これまでにも電気自動車のブームは何度かあった。トヨタのRAV4 EVや日産のハイパーミニなど、いくつかの電気自動車が試験的に投入されてきたことがある。ただ、これまでの電気自動車のブームはいずれも電池の性能と価格が壁になって跳ね返されてきた。
その壁を破り、電気自動車を現実のものにしようとしているのが日産のリーフで、単にクルマと電池の性能だけで電気自動車の時代を実現しようとするのではなく、IT技術や通信技術を駆使した周辺システムで支えることによってリーフの実用性を高めている。これは従来の電気自動車ブームのときにはなかったことで、時代の進歩が電気自動車の実用性を高め、現実性を高めたと評価したい。
何とも不思議なルックスに?マーク
リーフのデザインは、すでにいろいろなことが語られているが、少なくともひと目見ただけで飛びつきたくなるほどカッコ良いクルマではない。また電気自動車になったことで従来のガソリン車とは全く違う独特の外観デザインになった感じでもない。
強いていえば、エンジンを冷やすラジエターがなくてすむので、グリルレスのデザインとして、そのフロント部分に充電口を持つようにしたのが新鮮な部分である。
クルマの後部が出っ張って、出っ尻のような形になっているのは、後方からの衝突安全に対応したものだが、このあたりがカッコ悪さにつながっている。
外観とは違ったインテリア回りのデザインは新鮮な感じにあふれている。メーターパネルのデザインはこれまでにない新感覚のものだし、コンソールに設けられたシフトレバーのデザインも新しくて操作性に優れている。インストセンターに配置されたカーナビの周辺などにピアノブラックが採用されてインテリア回りの質感を高めていると評価していい。
ボディは全長はコンパクトカー並みで全幅を広げた3ナンバー車のサイズ。最近では日本でもこうしたパッケージングのクルマが当たり前で、特に世界市場をターゲットに開発されたクルマの全幅は5ナンバーの枠内というわけにはいかない。適度なコンパクトカーであり、全幅の広さによって室内にもゆったりした空間が確保されている。
前後のシート下を中心にリチウムイオン電池が搭載されている。専用に開発されたプラットホームに効率的に搭載することで、居住区間やラゲッジスペースが確保された。ラゲッジスペースは特に広いというほどではないが、ゴルフバッグが2個入る広さだという。
スマートフォンから充電状況の確認やエアコンの事前動作を指示する
リーフに乗る前に、携帯電話を使って充電状況を確認したり、あるいはエアコンを作動させることができる。今回も別の場所でその作業をした上で試乗車に向かった。特に充電コードをつないだ状態でエアコンを作動させておけば、走り出すのと同時にエアコンのスイッチを入れるのと違って、電気を専ら走るために使える。
ちなみに携帯は標準的なタイプよりもスマートフォンのほうが圧倒的に便利。リーフに乗る人は携帯もスマートフォンに買い換えたほうが良さそうだ。
駐車場に行ってまずは充電コードを外す。これを外さないとクルマが動き出せるようにならない。つないだままで走り出してしてコードを引きちぎってしまうことはないようになっている。
運転席に座り、ブレーキペダルを踏んだ状態でステアリングの左下あたりに設けられたスターターボタンを押すと、メロディが鳴ってリーフのシステムが起動したことが分かる。これはパソコンのスイッチを入れるとメロディが迎えてくれるのと同じで、今ではごく当たり前の感覚である。同時にインパネ内にクルマの絵が表示されるので、システムの起動は目で見ても確認できる。
ハイブリッド車ではインパネ内の表示だけで音で知らせる仕組みにしていないのが普通だから、リーフのほうがより親切な設定だ。
音もなくグイッと進む力強い走り
そろそろと走り出すと、室内は無音状態だ。実はこの状態でも車外ではクルマの接近を知らせるモーターの回転音のような音が鳴っているのだが、低速時ではその音も小さいので窓を閉めた車内では分からない。時速30kmまでは音が鳴るので速度を上げていくと分かるが、それでもかなり控えめな音だ。
大きな通りに出て信号待ちをすると、室内では音も振動も感じない。これはプリウスなどのハイブリッド車もアイドリングストップ状態になるから同じ感覚で、電気自動車ならではのことではないが、ガソリン車から乗り換えた人は大きな違いを感じるだろう。
信号待ちの先頭からアクセルを踏み込むと、その瞬間に“速っ”という感じを受ける。スタート時には音もなくグイという感じで発進し、そのまま加速が伸びていくからだ。立ち上がりの時点から最大トルクを発生する電気自動車ならではの走りだと評価できる。
走りのバランスは全体に良い。これは重い電池がクルマの低い位置に搭載されているためで、重心の低さが走りの安定感につながっている。ステアリングの操舵フィールはちょっと軽すぎる印象もあったが、高速道路を走っているときにはそれなりに座りの良いステアリングフィールだった。
ステアリングの軽さに比べてブレーキペダルはかなり重い。力を入れて踏む必要があってちょっと変わったペダル感覚という印象だった。リーフでも回生ブレーキを採用しているが、ブレーキのつながりには違和感がなく、ペダルの重さ以外は自然な感じだった。
悪天候下、最悪の条件で試乗したところ・・・
スタート時に160kmほどの航続可能距離が表示されていたメーターは、高速道路を走っていくと良いペースで航続可能距離が短くなっていく。直近の走行状態を反映して表示される仕組みで、エアコンをオン/オフするだけでも1割ほど表示される数字が変わる。
横浜のみなとみらいをスタートし、観音崎を目指したが、横須賀PAのあたりで航続可能距離が半分くらいになった。このPAには急速充電器が設けられているので、それを使おうと思ったら、一般の先客がいてすぐには充電できない状態。迷っているうちに別の試乗車が並んでしまったので、ここでの充電は諦めて帰りの上り線で充電することに。
上り線でも先客がいたが、今回は走り方によっては横浜まで帰れない可能性があるので順番待ちをして充電器をつないだ。すると表示されるのは約1時間の充電時間表示。え〜っと思ったが、いっぱいに充電するにはその時間がかかるものの、その手前までの充電なら15分から30分程度で入る。今回も20分ほど充電したら航続可能距離は大きく回復した。
この日は雨が降っていたが、屋外での充電でも特に問題はなし。充電中は地デジチューナー付きのカーナビでテレビを見ながら待っていた。
やはり高速道路での長距離移動はまだ不向き
今回は3時間の試乗を2回体験し、最初は高速道路中心、2回目は一般道中心の走りを試したが、高速道路中心で走るとやはりリーフはまだ厳しい。航続可能距離がどんどん短くなっていくので、それを気にしながら走らないといけないからだ。
リーフのカーナビ地図には、残りの電気量で走れる範囲が表示され、その範囲内にある急速充電器の位置なども表示されるので、バックアップする態勢はそれなりに整っている。でも先の例のようにほかのクルマが急速充電器を使っている可能性があるほか、夜間には使えない設置場所もある。
なので、リーフで長距離を走ろうとするなら、途中の充電ポイントなどをチェックしておき、ある程度計画的に走ることも必要。それも充電待ちが長いときに備えて予備の充電ポイントも考えておくといいだろう。
逆に市街地の一般道を中心に走っているときには本当にストレスのない良いクルマという印象だった。普通のガソリン車に比べて負けている部分はないし、航続距離も全く気にしなくてすむ。
日産は、リーフをガソリン車と置き換えが可能なクルマとして開発を進め、実際にかなりの部分までそれを実現してきたが、それでもまだ航続距離の壁は残る。
なので、毎週のように100km以上の距離を走る人などにはリーフは向かない。やはり市街地の一般道での走行を中心に、自宅からそう遠くない距離を走るユーザーが選ぶクルマだろう。
自宅に充電器を設置できるかどうか(マンションなどではかなり難しい)も含め、ある程度限定的なユーザーが、ある程度限定的な使い方をするのがリーフである。条件を満たせる人にはお勧めできるが、条件に合わない人が無理して選ぶと不便を感じることが多くなる。リーフの持つ意義と限界をしっかり踏まえたクルマ選びをしたい。
[レポート:松下 宏]
代表グレード | 日産 リーフ X[FF] |
---|---|
ボディサイズ[mm](全長×全幅×全高) | 4445x1770x1545mm |
車両重量[kg] | 1520kg |
総電力量[kWh] | 24kWh |
最高出力[ps(kw)/rpm] | 109ps(80kW)/2730-9800rpm |
最大トルク[kg-m(N・m)/rpm] | 28.6kg-m(280N・m)/0-2730rpm |
JC08モード交流電力量消費率[Wh/km] | 124Wh/km |
JC08モード一充電走行距離 | 200km |
定員[人] | 5人 |
消費税込価格[万円] | 376.425万円 (政府による最大78万円の補助を受けた場合 298万4250円) |
発売日 | 2010/12/20 |
レポート | 松下 宏 |
写真 | CORISM編集部・日産自動車 |
【日産 リーフの生産工程を見る】
(レポート:CORISM編集部)
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